大蜘蛛との戦闘
13話目となります。
いつものように、まずはマサトが正面から攻撃をしかけ敵の攻撃を引き受ける。その間にミサトが左へ、マツが右へと移動する。ドゥームスパイダーは近場にいるターゲットに対しては前足での攻撃しかしない。その前足の攻撃は前に突き出す単純な攻撃なのだが、速度が速くてマサトは盾で抑えるしかできない。
マサトのLPはあまり減ってはいないが、それでも目に見える量は減っているので無視して攻撃するのは得策ではない。得策ではないが攻撃をあまりすることができないのでドゥームスパイダーのヘイトがあまり上がらず、今マサトを回復してしまうとこっちにジャンプで飛び掛ってくる可能性がある。
ジャンプによる飛び掛りは避けなければいけない。なぜならマサトたち前衛と俺の位置は大体3mほど離れている。さらに俺の1mほど後ろにミコとリカが攻撃の準備をしているのだが、もし俺に飛び掛ってくると後衛も前衛もごっちゃになってしまうからだ。
どうすればいいのか悩んでいると、マツがマサトを回復する。マツも<補助>を持っているのだ。2人で戦うときは自身を回復しながら手に持った斧で攻撃することで後ろにいるリカに飛び掛ることがないようにしていたそうだ。
しかし、マツがマサトを回復したことでドゥームスパイダーのターゲットがマサトからマツへと移動してしまった。ドゥームスパイダーはマツのいる方を向こうと足を動かす。その長い足を動かすたびにマサトに少しずつだがダメージが入る。大きいモンスターはその移動に巻き込まれるだけで微量のダメージが発生してしまうのだ。
ダメージを受けながらマサトは<手>の特技の1つ《挑発》を発動する。《挑発》は敵の持っているヘイトの内、自分以外のヘイトを0にすることで自分をターゲットにする特技だ。《挑発》の効果でドゥームスパイダーは再びマサトのほうを向くが、クールタイムが1分と長いので《ヒーリング》を使うとすぐにマサトから別の方向へ向いてしまう。
マサトとマツが特技を使いあっている間にミサトは手に持った剣でドゥームスパイダーの足を切りつける。ファイタービーよりもLPも攻撃力も低いようだが、その巨体のせいで戦いにくさはこっちの方が上だ。ミサトはその後も足に触らないように何度も斬りつける。
マサトは自分の方を向くためにドゥームスパイダーが動いている間に《スラッシュ》と《ファイアエンチャント》を使って攻撃力を上げて斬りつける。マツも《スラッシュ》を発動して斧を振り下ろす。それを見てミコとリカも《ファイアニードル》を放つ。
俺はマサトのLPが2割近く減るまで待ってからマサトを回復する。その時にはすでにドゥームスパイダーのLPは半分をきっていた。どうやらそこまで回復を気にする必要がないというのがわかったので、俺は《バインド》と《ポイゾネス》を試してみた。《バインド》は効果が出なかったが《ポイゾネス》の方は確率は低いが毒状態にすることはできた。毒状態になるのは3回に1度ぐらいだったが、毒状態になることがわかったのは大きい。
毒状態になると、LPの表示が紫色になり1秒間に最大LPの1%を削るようなのだ。そして《ポイゾネス》は10秒間その効果が続くので、毒状態にすると1回で10%のLPを削れるのだ。
最初のドゥームスパイダーを1匹狩るのに大体5分ほどかかった。そこでわかったのは回復をするよりもより多くのダメージを相手に与えて一気に倒してしまった方が被害が減るということだった。じっくり時間をかけて戦おうとしても、どうしても足に当たってしまいあまり被害を抑えることができそうになかったのだ。
「足の範囲が広すぎるだろ・・・」
「正面から戦ってたあんたは関係ないでしょ」
「なるべく当たらないように動いたつもりだったのだけどねん、片側4本は大変だわん」
「ただ受けるダメージ量は少ないから、俺が回復しなくても死ぬことはなさそうだったけどね」
「だからと言って《ポイゾネス》しか使わないのもどうかと思うけど?」
「補助か妨害しかできないんですよ・・・」
俺はリカの言葉に肩を落とす。<妨害>のLvが上がれば新しい特技が増える可能性はあるが、まだまだ10までは遠い。
「ここに留まっていていて大丈夫なのですか?またドゥームスパイダーが出てくるかも知れませんよ?」
今回倒したことになったのはミコで、4人全員のクエスト完了条件まで残り19匹も倒さないといけない。
「探し回ってもいいけどねん。でもその前に反省会よん」
マツの言葉で全員がその場に腰を下ろす。反省会といっても6人で戦うのは始めてだったことと、相手が予想外の大きさと攻撃範囲を持っていたためにみんな1歩踏み出せなかったのが原因だ。そう俺は前衛組みに後ろから見ていた様子を話す。
パーティでの戦いは前衛がどれだけヘイトを稼げるかで後衛の戦いやすさが変わる。特に今回の敵は前衛を無視して飛び掛る可能性もあったので、前衛が攻撃しない限り後衛は攻撃できなかったのだ。後衛である俺も反省点はある。ドゥームスパイダーの攻撃力なら1匹分ぐらいなら倒してしまうまで耐えることができそうなので、俺が前に出て後衛に攻撃が届かない位置で《ヒーリング》や《ポイゾネス》を使いヘイトを稼いでもよかったのだ。
今回の失敗をお互いに確認し、次の戦闘で失敗しないようにする。パーティでの戦闘はこれの繰り返しで、絶対の解答はない。前衛が失敗したからといって、後衛に問題がなかったのかといえばそうでもない。俺が前に出なかったのも今回は失敗だったのだから。
なので次は俺がヘイトを稼ぐために前衛4人、後衛2人に交代する。こうやって試行錯誤を繰り返して結果を話し合うのもゲームの楽しみ方の1つかもしれない。そう俺は感じることができた時間だった。
俺たちはその後も何度も作戦を変えながら戦い続けた。俺が前衛に出て攻撃を受け持つことになって、ドゥームスパイダーを倒すまでの時間は3分ほどまで減った。俺が前で攻撃を受け持たないときとの一番の違いはマサトが攻撃に専念できることだろう。盾で防ぎながらたまに攻撃するしかなかった最初と違い、常に攻撃できる今の方が与えられるダメージ量が多くなるのは当たり前だ。
「これで15匹目!」
ミサトの放った《マナバレッド》が当たり、本日15匹目のドゥームスパイダーが倒れた。これで俺以外の3人がクエスト完了の条件を満たしたことになる。
「問題はここからよね」
リカの言葉で全員の視線が俺に向く。15匹倒すまでの間に、《ヒーリング》と《ポイゾネス》を使い続けたおかげで<補助>と<妨害>のLvが10になった。10になって覚えた特技は《アンチパラライズ》と《パラライズ》だ。
<補助> アンチパラライズ:対象の状態異常<麻痺>を治療する。
<妨害> パラライズ:麻痺毒の霧を呼び出し対象を状態異常<麻痺>にする。
2つとも今回は麻痺に関する特技だった。麻痺はバインドよりも凶悪な効果だった。麻痺状態になったモンスターは10秒間動けないのだ。しかもこっちはドゥームスパイダーにも効果があった。ただ毒よりもさらに確率が低いのか、1度麻痺にすることができてから連続で10回失敗が続いている。
結局俺の攻撃方法は《ポイゾネス》による毒のダメージしかできることがないのだ。いや、一応スキルポイントが3になったので<剣>でもとってミサトにでも借りれば倒すことはできると思う。そう思ってみんなに聞いてみたのだが
「アトムがやりたいようにすればいいんじゃないか?別に俺たちは時間がかかっても問題ないしな」
「そうそう、それに<罠>をとるっていってたじゃない。別に私も攻撃できる回数が増えてLvが上がるから気にしないでいいよ?」
「それに兄さんはいろいろと試してみたいのですよね?私もその手伝いができて楽しいですし、自分のやりたいようにして下さい」
と、俺の好きなようにしてくれと言われてしまった。嬉しいのだが、少し申し訳ないという気持ちもある。・・・・・・あったのだが結局は<罠>をとってしまった。<罠>で手に入ったのは《罠作成》という素材を組み合わせて罠を作る特技だった。そしてやはりというか<罠>と<妨害>で特技が出た。出てきた特技には《バインドトラップ》と《ポイゾネストラップ》と《パラライズトラップ》の3つがあった。自分の手を地面につけてこれらの特技を使うと、その場所から一定範囲を踏んだ対象に100%の確率で状態異常の効果が出るらしい。ただし元々効果の出ないモンスターには意味がないだろう。とマサトやマツに言われてしまった。
俺のスキル装備も終わり、ドゥームスパイダー狩りを再開する。近くを探すと新たなドゥームスパイダーが1匹見つかった。早速俺はドゥームスパイダーの前に立ち、地面に《ポイゾネストラップ》を設置する。
「・・・な!」
・・・しかし設置した俺にドゥームスパイダーは襲い掛からない。俺が特技を使ったのを見て攻撃した前衛3人の内ミサトの方へと向く。俺は慌てて《ポイゾネス》と《パラライズ》を使って自分の方へドゥームスパイダーを自分の方へと向かせる。
今度はこっちを向いてくれて、さらに《ポイゾネストラップ》が発動した。《ポイゾネストラップ》を俺に襲い掛かろうとしていたドゥームスパイダーに使ったのに何故攻撃対象が俺から移ったのかわからない。わからないが今はドゥームスパイダーを倒すことに集中する。《ポイゾネストラップ》は仕掛けた場所の近くを踏まないと発動しないようだ。俺はクールタイムが終わるごとに《ポイゾネストラップ》を仕掛け、どちらに移動するかを前衛に伝え、進行方向に人がいなくなったところで移動して罠を踏ませるということを繰り返した。
それを繰り返すこと5回。毒がドゥームスパイダーのLPを削りきった。
「何とか勝てたな」
「移動が面倒だけど、これなら何とかなりそうね」
「でもん、なんで最初のタゲ(ターゲットのこと)はミサトちゃんの方にいっちゃったのかしらん」
「ミサトちゃんって・・・。でも確かに何でこっち来たのかね」
「・・・対象がモンスターではなくて、地面だからではないですか?」
それぞれが自分たちの中で納得できる理由を考えていると、ミコが不思議そうに俺たちを見ながらそう言った。
「確かに手を突いてそこに仕掛けるんだから、モンスターには何もしていない・・・のか?」
「う~ん、確証はないけど一番しっくり来るかな」
ということで俺たちは次のドゥームスパイダーを狩るときも同じように《ポイゾネストラップ》を仕掛けてから、マサトが剣で軽く攻撃してみる。するとすぐにマサトの方を向こうとしたのを確認することができた。これはつまりヘイトがまったく溜まっていないと考えてよさそうだ。
そのドゥームスパイダーはそのまま足を動かして、マサトの方を向き終わる直前で《ポイゾネストラップ》を踏み抜いた。この攻撃は一応俺の攻撃ということになるのはずだが、マサトをそのまま攻撃してしまった。どうやら、<罠>の関わる特技はヘイトが上昇しないようだ。
そのまま、ついでとばかりに《パラライズトラップ》を仕掛けて踏ませてみた。状態異常<麻痺>の効果で動けないうちに一気にLPを減らして最後に毒と麻痺を両方かけて倒してしまおうとして、状態異常が1つしか効果が出ないということがわかった。仕方なくもう一度毒にしてから倒してしまう。
その後残り3匹と戦いながら、俺は罠を駆使して戦う方法を考え続けた。今回俺は毒が効く相手は倒せるようになり、相手を選べば1人でも戦うことができるようになったのだ。せっかくなので<罠>の関わりそうなスキルをいろいろととっていくのもいいかもしれない。それに<補助>が未だにどのスキルとも特技が出ていないので、これについても何か試せないかとドゥームスパイダーとの戦いの合間に俺は考えていたが、クエストが完了してもいい案は思い浮かばなかった。
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