アーカンの街並み
11話目です。
マップを見てみるとアーカンの街は円形で東西南北のそれぞれの門から大通りが中心へ向かっており、街の中心の公園でそれぞれの道が交わっているように見える。
俺たちは街の中を北側の地区から反時計回りに見ていく。北側の大通りは商店が並んでおり、NPCたちがいくつかお店を開いている。武器屋や防具屋以外にも、回復薬などの消耗品を扱う道具屋、フィールドで<発見>のスキルを持っていないと手に入らない素材などを置いている八百屋(?)などもあった。最後の八百屋はどうみても売っているものが果実や野菜なのに、出てきたメニューに書かれている商品が草花だったのだがゲームだからと納得することにした。
武器店で俺は、いくつか武器を見てみたのだが装備しても攻撃力は2や3しかかわらないので武器を探すのをやめた。スキルをとらないと武器を買っても意味がないのがわかっただけでもよしとしよう。マサトとミサトは新しい剣を買おうとして、お金が足りそうにないことに気がついて諦めていた。素材を売っても1つ5Cにしかならないのに対して、安い剣でも500Cもするのでミサトが持っている素材すべてを売り払っても買うことができないのだ。ちなみに俺たちが装備している殻鎧は1つ300Cになるようなので、素材は道具にしてしまったほうがお金になるようだった。
防具屋もやはり商品が高くて買うことはできないが、置いてある商品よりも現在装備している鎧のほうが防御力が高かったので買う必要もなさそうだった。道具屋と八百屋の商品は集めていた素材を売れば変える値段だったのだが、今のところ必要がなかったので今回はどの店でも買い物はしなかった。
「装備の値段が高すぎる・・・」
「新しい武器が欲しかったけど、買い換えるのはいつになることやらって感じだね」
と俺たちが打ちひしがれていると
「そこまで高くないと重うけど?」
とリカの一言に衝撃を受ける。どう考えても1日狩りをして、その素材をすべて売り払ってやっと装備が1つ買えるぐらいの値段なのに高くないと言われたのだからびっくりもするだろう。
「あ~そういえば、今日着いたばっかりだったね。南地区にあるギルドってところでクエストが受けれてね、その報酬が100Cぐらいからだからいくつかやれば買えるようになるよ」
「そうなのか?」
「そうよ~ん。南側に行ったときに案内してあげるん」
「なんでマツにきくのよー!」
つい俺はマツに聞いてしまった。少ししか話していないが、なんとなくマツの話し方に慣れたのかもしれない。
次の西側の地区の大通りには鍛冶屋(金槌と金床の看板のある家)や服屋(ハサミと糸の看板のある家)といった感じの家がいくつか並んでいた。それ以外は煙突が屋根に見える民家のようだ。民家のほうには入ることができないようだったが、看板のある家には入ることができた。
鍛冶屋では武器の耐久力の回復をお金を払うことでやってもらうことができ、服屋では防具の耐久力の回復をやってもらうことができる。
こちらの地区は装備の修復ができるお店しかないので、プレイヤーの数はそこまで多くないようだ。ただ需要はあるようで、俺たちがお店を見ているときもパーティなのか5人組が入ってきて装備を預けているのを見た。
彼らは全員皮でできた茶色い鎧を着ていて、手には剣と盾か槍を持っている。彼らは俺たちの方を1度見た後で、何も話すことなくすぐに出て行ってしまった。
「この通りは俺たちには関係のない場所だな」
「たしかに、姉貴がやってくれればここを利用することはないだろうな。っとそうだ、姉貴盾の修理頼むわ」
「はいはいっと。修理って防具の材料の1つを使うんだね。これは余分に素材を取っておく必要があるかもね」
「でもそうだとするとモンスタードロップの装備とかは修理できないのかね?」
「モンスターも装備を落とすことがあるんですか?」
「ああ。といっても最初の町の北側のモンスターを倒したときに1回見ただけだったから、落とすやつが決まっているとか、滅多に出ないとかだと思うけどな」
「その装備は強かったのか?」
「いや・・・正直微妙だった。特殊効果が強いんだけど、装備自体の能力が低かった。俺が拾ったやつ以外にもいくつかあったみたいなんだけど、どれも特殊効果が強い代わりに耐久力が低かったりした。逆に特殊能力がデメリットになってるようなものもあったしな」
「デメリット?例えばどんなのがあったの」
「わかりやすいのだと、盾なのに防御力が1で特殊効果が攻撃を防いだときに相手にダメージを与えるとかかな」
「そりゃ確かに使いづらいは」
マサトの盾の修理も終わったので、俺たちは南側へと進んでいく。
南側の地区の大通りにはNPCのお店が1つもなく、道の横にプレイヤーが露店を開いて呼び込みをしていた。どうやらここはプレイヤーが作った商品を売るための露店スペースなのか少し道も広く作られている。
プレイヤーが作った商品を見てみたのだが、やはり特殊効果のついた装備を作って売っている人しかいないようで、1つの露店に1~2種類の装備が並んでいるだけだった。それでもプレイヤーの数が多いので武器はすべての種類が置いてあった。その中でも剣と杖が多く、槍と斧が少なかった。防具では鎧と盾がほとんどで、兜(帽子)や腰巻(腰)、靴(足)は少なかった。アクセサリーは1つも売られていなかった。
「アクセサリーって1つも出回ってないんだな」
「そういえば見ませんね?」
「それはあれだよ、素材の1つがボスドロップだから誰も作れないんだよ」
「ボスドロップ?」
「確かねん、ボスを倒すと玉石っていうアイテムを落とすのん。それがアクセサリーを作るために必要でねん、誰もボスを倒せないはじめのうちは出回らないのん。テストのときもそうだったわん」
「あ、マツってテスターだったんだ。俺もテスター組みです」
「あらん、テスター同士よろしくねん」
「ってことは、リカもなのか?」
「いいえ、マツったら私に内緒でテスターやってたのよ。ひどいと思わない?だからその格好で私が満足するまで気持ち悪いキャラを演じてもらうの」
「リアルの知り合いだったんだね。兄妹とかかな?」
ミサトの一言で2人が真逆の反応を見せる。マツはやっぱりそう見えるのかとため息をした。リカのほうはミサトに食って掛かる。
「そして私たち2人は夫婦だ!」
「・・・・・・はい?」
俺たちはその一言で再び固まってしまう。誰だってそうだろう。どう見ても中学生の少女にしか見えない、ミコよりも年下だと思っていた人物が実は結婚しているなど信じられない。
いや、もしかしたら姿が違うだけで実はもっと背が高い別人の可能性があった。俺としたことがこんなことにも気がつかないなんて、きっとフリスタがリアルすぎて忘れていたんだな。そうに違いない
「それと私たち、写真を使ってるからねん。リアルと同じ背格好よん。あ、私とリカは両方とも24歳だから犯罪じゃないわよん」
俺の考えていることがわかっていたのか、というタイミングでマツが補足する。というかマツは30ぐらいだと思っていたのだが、ミサトと同い年だったのか2人とも若いなぁ。とか現実逃避をはじめる俺の思考。
「とりあえずん、先に行きましょう?ほら、あっちがギルドだからん」
マツに指差された南側の大通りから少し奥に入った南西の方へ俺たちは進む。
ギルドは周りと同じ2階建ての建物だったが、その広さが異様だった。普通の一軒家を3つ横に並べて、奥に2つ分だと言えばその大きさが理解できると思う。入り口は東側に大きな門が1つ開いているだけで、他に入り口はない様子だった。だから2人も大通りを見た後にここへ連れてきたのだろう。
ギルドはその大きさこそ他の建物と違うが、それ以外の見た目は黒と茶の混じったレンガで造られた普通の家といった感じだ。リカとマツに続いて俺たちもギルドの中に入っていく。内装は白い石の床にレンガの壁、入り口からまっすぐ進むと木でできた大きなカウンターがあり、その向こう側に同じ制服を着たNPCの男女が立っている。
入って右側にはメモ書きのようなものが書かれた紙が大きな掲示板に張られていて、その周りにプレイヤーが集まっている。反対側に目を向けると、そこは6人がけのテーブルがいくつも置かれているのでパーティを募集するときに使うのだろう。テーブルの奥、カウンターに近い位置に2階への階段がある。途中で踊り場があるのか途中までしか見えない。なので2階がどうなっているのかはここからではわからなかった。
2人がカウンターの方へと歩いていくので俺たちはカウンターの前まで行く。
「さて、とりあえずここのNPCに利用の仕方とか聞いといてね。私たちはあっちで休んでるから」
そういってリカはマツをつれてテーブルの方へといってしまった。仕方ないので俺たちはカウンターの1つに進み、NPCに話を聞くことにする。そこで説明されたことをまとめると大体こんな感じの内容だった。
・ギルドでは、各種クエストが入り口右側にある掲示板に書かれているので、近づいてウィンドウから受けたいクエストを選んでウィンドウ内にある決定ボタンを押すことで、そのクエストを受けたことになる。そのときカウンターへくる必要はない。
・クエストには、納品クエストと討伐クエストと特殊クエストが存在し、納品クエストの場合は『ギルドのカウンターまで納品するものを持ってこないといけない』。
・討伐クエストは『クエストを受けた人が倒したモンスターがカウントされる』。
・クエストは『1人につき3つまでしか同時に受けることができない』。
・クエストの受注以外にもいくつかギルドでしかできないことがあるが、現在俺たちに利用できる機能はない。
という説明だった。この説明を受けて俺の中で1つのことが決定した。『討伐クエストは受けられない』ということだ。なぜなら俺はモンスターを倒すことがほぼできない。時間をかけて毒で倒すことができるかもしれないが、蜂のように毒無効のモンスターがいた場合はナイフしかない。なので基本は納品クエストをやってお金を稼ぐことにする。
クエストを受けてもよかったのだが話し合った結果、街を見て回った後で北以外の門の外を見てみないことには、自分たちでクリアできる依頼なのか判断がつかないのでやめておくことにした。
なので俺たちは説明が終わった後、リカたちが待つテーブルの方へと向かい2人と合流してギルドを後にした。
ギルドの外へ出た俺たちはそのまま東の大通りを目指す。その途中で、南側の大通りからみえる公園の中に大きな六角柱の水晶が見えた。
「なぁ、あの水晶みたいなのってなんなんだ?」
俺は水晶を指差しながらマツに聞く。するとマサトたちも水晶に気がついたみたいでマツへ視線を向けている。
「あれはホームポイントよん」
「ホームポイント?」
「そうよん。簡単に言えばLPが0になったときやログイン時に戻ってくる場所ねん」
「つまり、あそこで復活するようになるのか?」
「そういうことよん」
最初の町にはなかった物なので俺たちにはわからなかったが、どうやらこちらの街にいるプレイヤーには当たり前の内容らしい。確かに死ぬたびに1時間かけてこの街まで来るのは面倒でしかない。それに、ゲームにログインしたときにまたこの街へ歩いてこないといけないというのも大変だ。そこで東の大通りに行く前に俺たちは水晶でホームポイントとやらを設定する。
どうやらホームポイントの設定は水晶に触り、出てきたウィンドウにあるホームポイントの設定という項目にアーカンを設定すればいいようだ。ちなみに初期はリグーとなっていて最初の町の名前のような物が設定してあった。
ホームポイントの設定を終えた俺たちは最後の東側の地区へと来ていた。ただ、こちらは特にお店もなくプレイヤーの数も少なかった。どういうことなのかよくわからないのでリカたちに聞いてみると
「それはこっち側に狩りをしにくるプレイヤーもいないから露店を出しても仕方ないからじゃない」
と言われてしまった。どうやら東門の外は農耕地になっていて、畑仕事をしているNPCがいるぐらいで近くにモンスターはいないそうだ。<発見>もちのプレイヤーが畑に入っていっても何も見つからなかったらしいので、東側の遠くの方へ出て行くプレイヤー以外は東側の大通りにはこないそうだ。
「一応見てしまったわけだけど、この後はどうする?」
「そうだね~。それじゃあリカの言っていたペットショップってところにいってみない?」
「賛成です」
ということで俺たちは東門と南門の間の裏路地へと入っていく。南側の大通りからみてだいたいギルドの反対側にきたところでペットショップが見えてきた。ペットショップは白いレンガで作られた家で、犬のような看板がかけられていた。早速店の中に入ってみることにした。
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