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【3】



城を出発してはや一週間。


辿り着いた森は巨大な迷路のように延々と続き、

先を行けば行くほど不気味さも増していく。

コンビニはない、電車はない、トイレもない。

喉が渇いて腹は減る。

わずかに見える空に浮かんだ雲が、パンやケーキに見えてくる。

ビジネスホテルなんてものはもってのほか。

森の中なので宿さえない夜は毎日野宿。

幸い、剣を携えた騎士でもある二人に守られているため、

安全面に問題はなかった(貞操の危機もなかった)。

食べ物は森の恵み――そこら辺に生えているものや、

木になっているものや野生動物のみ。


「帰りたいな……」


ふと漏れる心の声。

嫌いだった故郷が、どうしたわけか恋しくなっていた。

下僕と化したデュラスに背負われるのは、

実際あまり気分のいいものではなかった。

やっぱり今でも顔立ちの整った男が苦手で、あの時のトラウマが甦ってしまう――


「もう降ろしてもいいわ。ありがとう」


背負って歩いてくれていた馬、

もといデュラスをようやく可哀相だと感じるようになってきた。

一応礼を言って馬の任を解くことにする。

何よりも身体を締め付けるコルセットドレスが、だいぶ慣れたが今でも苦しい。

お風呂にも入りたい。

その辺の小川や湖で行水……では気休めにしかならず。

姿だけとはいえ、美女を演じるのも疲れてしまった。

許されるならば裸身でもいいから、即行ラフな格好になりたかった。

だが他に女物の服はここにはない。

魔法使いには、どこまで行けば出会えるのだろうか。


姫子は自分の書いた内容を思い出そうと記憶を辿らせるが、

どうしても思い出せず――

というよりも、そこまで詳細に書いていなかったことをはたと思い出す。


「本当にこの森に、魔法使いっているのかしら?」


今更不安になる。

すると、数歩前を行くデュラスも剣呑な顔つきをして振り返った。


「いるぜ。もう少しだ」


姫子の背後からそうささやくのはアクージャ王子。

何を根拠にいうのだろうと、

ふとその向けられた笑顔がどこか寂しげな表情をしたのを彼女を見過ごさなかった。


(アクージャ……?)




***




「デュラス、あなた本当にスパイなの?」



フーッフーッフー―ッと、

拾い集めた薪の種火に息を吹きかける元親衛隊副隊長の後ろ姿を眺めやりながら、

物思いに耽っていた姫子は問いかけた。


「スパイとは何だ?」


振り返らず四つんばいの体勢のまま、逆に彼は訊き返す。


「間者よ」

「ああ、間諜(かんちょう)のことか」

「カンチョー? やだ、何言ってんのよ。

 全くこの世界の男って、どこまでMの気があるのかしら……」


思いっきり勘違いをしつつ頬を染めながらぼやく姫子は、

彼を呑気に見つめていた。


(――え……?)


小用があると告げて、

どこかへ消えているアクージャ王子はどこまで行ったのだろうと考えていると、

不意に後ろを振り返っていたカンチョー、

もとい間諜の視線に気づいてハッとなった。

王子とはまた違うデュラスの緑色の双眸があまりにも綺麗で、

一瞬姫子の胸はドキリと高鳴り、焦って目をそむけた。


「今更もうどうでもいい。どうせ私はもう国に帰れんしな」

「国? やっぱりあなたリッチ国のスパイだったのね!?

 小説の通りだわ……じゃなくて、どうして帰れないなんて言うの?」


「バレたからに決まっている。

 間諜は、発覚したら処刑と大方決まっているんだ。

 しかしどうしたわけかオンボーロの国王は私を外に――

 それより、何故私をそれと見抜いた?」

「そ、それは――」


言えるはずもない。

つい今しがた、思わず言いかけてしまったが、

教えても信じてもらえないのは目に見えている。


「俺の女だからさ」


戻ってきたアクージャの腕が、

姫子の背後からヌッと現われ彼女の身体を抱き寄せた。

姫子の全身に鳥肌が泡立つ。


「毎回毎回人に鳥肌立たせて、これじゃあ人面鳥……じゃなく、

 鳥人間になっちゃうわよ!」

「んがっ!」


馴れ馴れしく絡みついてきた男の顎に、怒りの鉄槌をお見舞いする。


「デュラス、お前は国へ帰れないと言ってるようだが、帰れるぜ。

 この森を抜ければそこはもうリッチ国だ」

「えぇ!? そうなの!?」


顎をさすりながら笑みを浮かべて告げる王子と間者の両者を交互に見据えてから、

呆気にとられた姫子はこの道の先を見つめた。

この森は、国境の役目も果たしているようだ。

しかし、いくら目を凝らしたところでいつもと変わり映えのしない、

うっそうとした薄暗い森が続くだけだった。


「但し、ここで無事にお前を逃すか逃さないかは、お前にかかっている。

 我がオンボーロ国と戦争も占領もしないことを、

 リッチ国の王に伝えてくれるならな」

「……」


デュラスはしばらく寡黙になり、頭の中で思案を巡らせている。


「そうよ。今すぐここで誓いなさい。

 じゃなきゃ、あんたを未来永劫、私の馬としてこき使ってやるんだから」

「――それは御免こうむる」

「それから、お前を処刑するなと言っていたとも伝えておけ。

 これは王と俺からの訴願でもある。

 何なら今ここで嘆願書でも書きつけようか?」


別れ際に王が王子に、自分とそっくりだと口にしていたその意味は、

どうやらこのことを言っていたのだと気付かされた。

言葉にしなくても、以心伝心でわかり合える王子と王の絆は、

そのまま王の言葉としてデュラスに託されようとしている。


「アクージャ王子……」

「だが処罰は好きにしても構わんといい忘れるな。

 そこまで面倒見切れるか。思う存分痛い目に遭うがいい。ははっ、ざまぁみろ」

「……悪魔ね。さすがアクージャと名の付く王子」


ボソッと姫子が呟くが、彼の耳に聞こえているかはわからない。


「三年と短い間だったが、なかなか楽しかったよオンボーロは。

 何より、人々が優しかった……」


デュラスはそれまで頑なだった表情をフッと緩めて、

嘆息しながらどこか遠い目をして続けた。


「思えば、リッチ国では考えられんことばかりだった。

 この森を隔てただけなのに、こうも人々の意識が違うのかと驚かされた。

 リッチの人間は、自分が可愛い奴らばかりなんだ。

 国は豊かでも心が貧しくなってしまっては、本当の豊かさとは言えんな。

 そのことをこの国で教わった気がするよ。

 深く感謝する、アクージャ王子。そして約束しよう。

 戦争を起こすことなく、我が国王に和平を必ず結ばせると」


手を差し出したデュラスは、

アクージャと姫子の手を掴み取ると、それぞれの手に握った。


(あれ……? 鳥肌が浮かび上がらない……)


いつの間にか、イケメン恐怖症のトラウマは解消されてしまったのだろうか。





***





「あ~あ、デュラス帰っちゃった」

「――邪魔者はいなくなった。……やっと二人きりになれたな」

「!」


不敵な笑みで自分を見下ろす男から後ずさるように、

姫子は急遽、警戒心を全身から発する。


「ホラ、行くぞ」


延びてきた長い腕に無遠慮に手をつかまれ、

さっきの道からだいぶ横にそれた獣道を急ぐアクージャに、

解消されたと思った鳥肌がブワッとぶり返していた。


(ゲゲッ! 何で? 何で!? 何が違うというの!?)


「どうした? 顔色が悪いぞ? せっかくの美人が台無しだ」


頬に触れてくる大きな掌が、ますます姫子の嫌悪感を増幅させていく。 


「イヤ――ッ! 触んないでっ!」


本気で繋がれた手を振り払う彼女に、

さすがのアクージャも呆然と突っ立っていた。

いささか無愛想な面持ちのまま……。


「悪かったよ」


吐き捨てるような一言。

彼はその広い背を向けると、一人でさっさと歩き出す。


「ち、違うの! そんなつもりじゃ――」


だが、一度口から飛び出た尖った刃は、

かなり深く彼に突き刺さってしまったようだ。

無言でどんどん先を行って離れてしまう背中に、

少しだけ怯えながら駆け足でついていく。


(傷つけてしまったことは認める。でも……、でも……っ!)


「ごめんなさい! アクージャ王子!」


駆けつけ、勇気を振り絞って自分の方からもう一度、

その手を握り返してみせた。


「……」


フルフルと震えながら硬く目を閉ざす姫子を見下ろし、

アクージャは溜息をつく。


「いいって。無理すんな。

 イヤイヤ握られている方が、余計辛くなるだけだ。

 お前は別に俺のことなんて何とも思っちゃいないか、

 嫌っているかのどっちかだろうしな」

「そ、そんなこと……ない!」


思い切って彼に抱きついた姫子は、

アクージャの背中に両腕を回すとしばらくそのままでいた。


「ヤマタヒメコ――……」


半瞬、眉根を寄せかけたが、

今はフルネームで呼ばれてもツッコミはしない。

そういう雰囲気ではないのだ。


「私ね、以前、すごくカッコイイ人に告白してふられちゃったの。

 酷いことも言われたんだけど、当たり前よね。

 私みたいな身の程知らずが……。

 で、それがトラウマになって、いつまでも引きずっているってわけ。

 でもいい加減、克服しなきゃね。忘れなくっちゃ。

 そしてもっと素敵な恋をするんだ――あっ……」


回されてきた両の腕に、突然ギュッと抱きしめられる。

この世界は現実にはありえないことだらけ。

こうしてこんなにも強く、異性に抱きしめられていることが初めての経験で、

姫子の心臓はドックンバックン破裂しそうだ。

耳朶(じだ)までもが熱い。

こんなふうに熱っぽく抱きすくめられてしまえば、

例え苦手なタイプであったとしても、誰だって意識せざるは得なくなるだろう。


(アクージャ……)


「でも所詮はあんただって、私のこの外見に惹かれてるってだけよね。

 本当の私は――」

「知ってた」

「え?」

「これはかりそめの姿。

 本当のお前は、今と全然違っていてどちらかというと不美人」

「不美人で悪かったわね! てか、何で知ってるの!?」

「――ずっとお前のことを見てたから」

「は……? 意味わかんないんだけど」


どうやって小説の中の人物が作者である自分を見れるというのだろう。

涼しげな顔をしたアクージャは、

首を傾げる姫子をお姫様抱っこ――

両腕に抱きかかえると、近くの茂みに何を思ったかダイブした。


「きゃぁああああ!」


(まだ心の準備が――っ!)


本気で襲われるのかと思った。

だが、草むらに倒れこんだ形跡は感じられず、

未だ王子の腕に抱きかかえられたままでいる。

恐る恐るまぶたを持ち上げれば、

先ほどまでいた森の中とは様子が異なっているのに目をみはった。


「え、どういうこと……? てか、何でこんな所に神社が!?」


明らかに場違いな神社と鳥居が目前に佇んでいた。

そしてそれらを取り囲む鎮守の森が。

しかもよく見れば、自分の家の――異界神社とそっくりな造りをしている。


「夢、そう、これも夢なのね。なんて悪質で長い夢なんだろう! 

 やっぱり夢ってわけわかんないわ」 

「夢なんかではないぞ。ここはお前のいた世界と繋がっている」

「ウソ、それ本当なの? 

 で、でも、何で王子のあんたがそんなこと知ってんの?」

「俺が魔法使いド・エームでもあるからな」

「どっひゃ――!?」


卒倒しそうになる。


「あんたがド・エーム!? どうりで牢屋に入るドMなわけよね、って違ーう! 

 だ、だって私の考えた魔法使いって、ジーさんよジーさん! 

 八百歳を超えたヨボヨボの! 

 それがよりによってアクージャ王子でもあったなんてどういうこと!?

 あんた、魔法使いにだまされてない!? でもおかしい点は多々あったわ。

 そもそも小説のキャラたちだってデュラスとシャルロット姫以外、

 性格の悪いブサイク集団に設定したはずなのに!」


この世界が自分の作った小説の世界だということを知らせる前に、

彼女は思いのたけをベラベラとしゃべりまくってしまう。

だがそんなことはアクージャことド・エームには、

まるで問題にはならなかったようだ。


「それは違う。元からこの世界はあった。

 それこそお前が小説に書き上げるずっと前からな。

 お前は逆に見えない力に……神という存在に書かせられたんだ。

 心が歪んでいたせいで、小説も変に歪んでしまっていたようだったがな」

「ぐっ……」


歪んだ心で書いていたのは事実だ。

何も言い返せない。

あの時は、失恋のショックでまともな文章が書けなかった。

だけど、何故彼には全てがお見通しだったのだろう。


魔法使いというのは、

時空を超えて何でも見通せる力が備わっているとでもいうのか。

ゆっくりと地面に降ろされると、

王子で魔法使いの彼はじっと姫子を見つめていた。

これ以上見透かされるのは何だか気恥ずかしさを飛び超えて、

怒りにさえ変わってしまいそうだ。

フイッと横を向き、神社を見やる。


「でも何だって私は呼ばれたのかしら。これも神様の思し召し?」

「お前をこの世界へ呼んだのはこの俺だ」

「何ですって? 何の恨みがあってよ? 帰して! 今すぐ私を元の世界へ帰してよ!」

「帰れるさ。あの鳥居をくぐればすぐにでも。

 だが、そう簡単にはもうこちらの世界へは戻ってこれない」


そんなことどうだっていいのよと叫んだが、

数歩進んだきり、それ以上足が前へ進もうとしなかった。


「てことは、あそこをくぐれば、あんたともここでお別れになるってこと?」

「――ああ」


そんな重く沈んだ声で、切なげな空色の瞳を向けられでもすれば、

いくら何でもためらってしまう。

まるで行くなとでも訴えている真摯なまなざしに、

姫子の身体は心ごと縫い止められる。

ザザァァ……ケヤキの枝葉が大きく揺れてざわめいた。

姫子の心を顕示するかのように。

と、何を思ったか、ド・エームが過去のことを話し始める。


「姫子の父、つまり異界神社の神主と俺の母は、昔密かに愛し合っていたんだ。

 だが大きな別の神社の『神子みこ』である俺の母は、

 独身でいなければならなかった。

 しかしお前の父は別の女と結婚し、

 哀しんだ母は異界神社からこちらの世界へやってきたんだ」

「――て、ちょっと待って! 神子って、神社に仕える女性の神職でしょ!?

 何であんたの母さんが神子でいたのよ!?」

「ああ、言ってなかったな。元々俺の母は、お前と同じ世界の住人だ」

「ええぇええ!?」

「こっちの世界で魔女と呼ばれた母は、オンボーロ国王に見初められて俺を宿した。

 魔女の母の後を受け継いだ俺は、

 魔法使いとしてこの森にある棲家とオンボーロ城を行き来しながら、

 二十一年生きてきた。

 もっとも魔法使いといっても、俺に魔法なんぞは使えない。

 差別的な意味合いの名だ。

 城の重臣たちは、俺をあまりいい目で見てないけどな、王だけは違った」


牢にいた頃、王子なのに兵士に蔑まされたような態度をとられていたのは、

そのせいだったのかと納得した。

アクージャ、ド・エーム、

どっちにしろネーミングセンスがよろしくないことに変わりはない。

でも、いつ彼が自分を見ていた時があったのだろうか。


「それでも母は故郷が恋しかったのだろう。

 年に数度、こちらとそちらを繋ぐ扉が開かれる。

 それも新月の夜の丑三つ時に。

 母は時々俺を連れて、お前のいる世界へ戻っていた時があった。

 その時に、まだ小さかったお前を家の外から見かけた」

「そうだったの……。でも自分は全く知らない。一声かけてくれたらよかったのに」

「そんなことは無理だ。というか母が許さなかった。

 それっきり、母が行くことは二度となかったが、

 俺は何度かその後もお前を見守っていた」

「……やだ。覗き見してたの?」

「影から見ているだけで、俺も嬉しかったんだ。ただ――」

「ただ……?」

「もう少し綺麗になるだろうと思っていたが、

 それだけが残念だ……って、うわっぷ! まずっ!

 お前っ、砂を投げるなっ! 食っちまったじゃねーか」


初めから本当の姿を見られていたのなら仕方がない。

今更言い訳もしないしあきらめもつく。

でもよく自分がその時の少女だったと見分けがついたものだ。

名前を聞いていたのだろうか。


「私の名前を知っていたの?」

「いや。ただ、いつも部屋で泣いているお前が気になって仕方がなかった。

 助けたい、守りたいと願っていたら、何故かお前が牢にいた。

 強い俺の願いが神社の神様に届けられたんだろうな。

 んで、姿形は変わっていたが、何でかすぐにお前だと直観したんだ。

 それで俺も牢に入り込んで慰めたかったんだが……」

「――投げ飛ばされたってわけね。だってしょうがないじゃない。

 本当にイヤだった……驚いたんだもの」


苦笑いを浮かべる二人だったが、それはやがて腹を抱えた大笑いへと変わる。

笑い声が異界を繋ぐもりにこだました。

ふと気付けば、近くまで詰め寄っていたド・エームの手が自分の髪に触れ、

耳や頬の輪郭をなぞっている。

どうしていいのかわからず、

呼吸を押し殺しながら呆然と事の成り行きを見守っていると、

腰に腕が廻ってきて抱き込まれた。


「そんなに戻りたいのか? ここで暮らせばいい」

「ダ……メよ。私の居場所はここじゃない……もの」


動悸が激しさを増す。

姫子は気にすまいと頭を横に振る。


「そんなにイヤか? 俺といるのが」


考えてみれば、最初の頃のような嫌悪感や鳥肌はもう立たなくなっていた。

こんなに接近していても――姫子は再び頭をブンブンと横に振る。


「だ、だって、コンビニもテレビも車もないんだもの! 

 トイレだってその辺にって、イヤ過ぎる~!」

「何を言う? 薬草屋に武器屋に馬車だってあるぞ!

 ……まぁ、今回は都合が悪くて用意できなかったが。

 俺だってこんなに美しいし風景だって美しい! 

 何不自由ない生活ができるじゃないか!」



こちらの世界は何かと不便だけど、自尊心がやや高いのが玉に傷の彼も、

確かに見ただけは最高だ。

性格も悪い方ではなさそうだ。

そんな人と一緒にいるだけでも贅沢過ぎるというもの。

でも、自分は偽り続けるのはもうイヤだった。

例え外見は美人でなくても、自分は自分でいたい――


「――やっぱり帰るわ。帰りたいの……、ごめん……」

「だったら俺が会いに行く。待っていろ」


クイとおとがいを片手で持ち上げられ、何かが唇に落とされた。

しっとりと包み込むような優しさの、生温かくも弾力のあるそれは――

徐々にハッキリとした感触を伴って、強く深く押し当てられる。

やがて、イタズラっぽい笑みを浮かべた魔法使いの唇が、

魔法をかけられまばたきすらできない姫子の桃色の唇からそっと離れた。


「約束の印を我が姫君に――」






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