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あぁっ! 飯屋(メシヤ)サマ!!  作者: 榎本灯歌
1章 【魔王の涙(サタン・ラルム)】は枯れない
9/23

目覚めの地獄飯⑦




「どうしてこうなった……」


この世界(アーラム)にきて10日ーー裕二にとっては7日ーー、なぜかプチの酒場【魔王の(サタン・ラルム)】で裕二は働いていた。


思い起こせば、あれが分岐点だったのである。






ーー6日前の朝ーー


妙な息苦しさを覚え、裕二は目覚めた。


目の前には肌色の脂肪。この感触は知っている。


でもこうなっている理由が裕二にはわからない。



「おい、起きろ」

「むー」


息苦しさの原因を引きはなそうとするも、それに抗うかのように裕二を抱え込むプチ。

どうやら寝ぼけているらしい。

生理現象がおきそうなのでいい加減に離してほしいのだが。


「……ん?」


階下で物音がした。何やら人の声もする。


ーー……ショウヨ

ーート……マダ!


それから数秒とせず


ーードタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ!バンっ

「おっはよー!プッチーナねーちゃぁーん!」

音の主が部屋の扉を開けてベッドに飛び込んできたのである。


とっさにプチを反対側にし、音の主のダイブを受け止める裕二。


「うぐっ」

運悪く脇腹に肘が入り、悶絶する。

いくら軽くても、痛いものは痛い。


「殺す気か!」

「げっ!」


音の主は金髪に青い瞳の少年だった。

まともにしていれば美形の部類に入る顔は驚きに染められ、口を酸欠の金魚のようにパクパクさせ、そして叫ぶ。


「ねーちゃんが襲われてる!こーーココノエー!」


おいかけて来たらしい青年は、なんと腰に剣を帯びている。日本なら銃刀法でしょっぴかれるに違いない。


「……プッチーナさんから離れてください!」


あろうことか青年は鞘から剣を引き抜き裕二に振りかぶってきたのである。


「うおっ」


裕二は無論よけた。プチを抱えたまま。


「危ないじゃねぇか!」

「離れろ!」

離れたくてもプチが首を離さないのである。


「こいつに言え!」

「ならばその首、落としてやろう!」

「物騒過ぎるわっ!おい、起きろ!」


この騒ぎにもかかわらず、プチは未だに夢の世界だ。


「むー……」


それどころか裕二の耳たぶにかぶりつき、赤子が乳を吸うようにはむはむと甘噛みをする。


「羨まーーけしからん!」


叫んだのは青年でなく少年の方だった。……煩悩の塊である。


「(昨日の仕返しかよっ)」

「ココノエ、切れ。切ってしまえ!」

「承知!」

「どこの忍だ!」


青年の攻撃を躱すこと二分。


大混乱の原因は「味がないよー」っと言って目覚めた。




§ § § § § §


「だって美味しそうだったんだもの……」


食堂の椅子に腰掛けたプチは夢の内容を語る。

昨晩の裕二の料理に食欲が刺激され、彼女は甘い菓子に囲まれた夢を見たらしい。

その中でも一際大きなシュークリームに気付き、思わず抱きつく。

そのシュークリームは生意気にも逃げようとするのでさらに抱きつき、中身のカスタードクリームを吸いだそうとする。

しかし、味はない。

いつまでもたっても甘いクリームが出てこない。


そこで目が覚め、現在に至る……と。


呆れる言い訳を聞きながらブスりと肩肘をつく裕二。頬には赤い一筋の線。

プチが目覚めた瞬間、その安堵から青年、ココ・ノエの一撃をほんの少し受けてしまったのである。


「だからといって同じ床で眠る理由にはならないでしょう!」


ココの苦言にそうだそうだと少年が賛同する。裕二も頷きかけたが藪蛇になりそうなのでやめた。


「だって自分のベッドじゃないと寝れない……」

「ならお父上のベッドにそこの男を寝かせばよいでしょう!だいたいこの男はどこの誰で、なんなんですか?また拾い物ですか!」


どうやらプチは常習犯らしい。


「パパの布団干してないから人は寝かせられない。この人間さんは……アレ。うちの新しいコックさん」

料理美味しいよ?とココを見て、少年に視線を移し、そして最後に了承を求めるように微笑みかけた。


「ね?」















そうして裕二は外堀を埋められ、ここで働いている。


「ユージーン、コッコの香草焼き2つ。特急で!」


プチが台所に顔を覗かせ、作り終えたばかりの料理を運んでいく。

この世界の住人たちにとって裕二の名前は呼びにくいらしく、ユージーンと名前が固定されてしまった。


「チビ、転ばないように気を付けろ!」

「ちびじゃなくてプチって呼んで!それに転ばないもーーきゃっ」 


パリンと皿が割れた音がした。

プチの謝る声もする。

客の怒声も。



裕二はだから言ったんだとため息をつき、コンロの火を落としてカウンターの向こう側へ消えていった。




これにて目覚めの地獄飯完結です。


物語はまだまだ続く予定です。


四章まで一応基礎は組み立てているのですが、なにぶん自分の小説の腕がないもので、もしかしたら書き続けれず、時間がかかったり忘れたりするかもしれないです。


そのときは生暖かく見守って頂ければ幸いです。



では。

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