目覚めの地獄飯⑥
後半ちょいエロ
裕二が作りあげたのは、あっさり塩味の粥だった。
作り終わる頃、訪ねてきた中年の女性が卵とネギを持ってきたのでそれも加えている。
「こんなもんか」
白の深皿に盛ればたちのぼる湯気。ほんのり甘い米の香り付き。
卵は綿毛のように柔らかく、ネギの青みが彩りを添える。
「美味しそう…」
裕二が席に着く間もなく、プチは粥をスプーンで掬い上げ口に運び、
「あつっ」
と悲鳴をあげる。
「犬も猫舌か」
そんな皮肉も今の彼女には聞こえなかったようで、唇をすぼめてふーふーと息を吹きかけている。
自分の分を盛りつけおえて食卓に戻れば、プチは至福の表情を浮かべ頬に手をあてている。
「美味しい…なんでこんなに美味しいの?」
「…なんでだろうな」
理由はわかりきっていたが、あえて答えない。言葉と共に粥を飲み込む。
「(やっぱり親父の粥には程遠いな…)」
あの粥はいくら真似ようとしても裕二には作れない。
十年たっても、父の料理に敵わない。
あの頃よりずっと客は多いのに。
「(…多かっただけか)」
あの中で何人、今のプチのような顔で食べていた人がいただろう。
むしろ、何度も自分の料理を食べに来ていた人がいただろうか。
そういえば、ここ最近は客の前に立つこともなかった気がする。
最初の頃はコーヒー一杯にさえ、会計時に「美味しかった」とさえ言ってもらえれば、満足していたのに。
……粥は一匙ごとに塩辛くなった。
§ § § § § §
「あー美味しかった!」
そう言いながら、プチは己の腹を撫でる。
とてもじゃないが、女の子がする格好ではない。
「で、さっきのおばさんなんだって?」
卵とネギを持ってきた中年の女性の話である。
裕二の姿を見た瞬間、プチを手招きし、こちらをチラチラ見ながら含み笑いをして、プチとこそこそ話していた。
あれは何かとんでもなくろくでもないことを考えている顔だった。
「あー、えっと……」
頬を掻きながら、ほんのり頬を赤らめるプチ。目は忙しなく動いている。
「……俺のせいか?」
「あー……」
プチが俯く。それが全てを物語っていた。
「……悪い。明日には出ていく。遅いかもしれんが」
その瞬間、彼女は大げさな手振りで否定する。
「ダメ。絶対ダメ!」
どこの薬物のポスターの標語だ。
「だってまだ身体治ってないよ!人間さん、3日も寝てたんだよ」
「大丈夫だ。金もねぇけど腕っぷしもそこまで悪くねぇし、どこかで職業探せば……」
「だったらここで働けばいいじゃない!」
裕二は頭をかきむしる。
「あのな、お前いくつよ?」
「17だけど」
「俺、26。ついでに性別は男。どういう意味かわかるか?」
プチに詰め寄り180センチ近くある体格をいかして、壁に押しつける。息も体温も熱く感じる程に近く。
「こういうこと」
首筋を嘗めればひゃんと悲鳴をあげる。
裕二だって男だからと無駄にAVは見ていない。
プチが膝を落として怯えた目をしている。少しからかい過ぎただろうか。
「人様にもそういう意味で見られる可能性があるんだよ。さっきもそういう話だったろ?」
今度から気を付けろよ。そういって、裕二は階段を足早に上って行った。