目覚めの地獄飯①
「…っ!」
覚醒。
知らない天井だ。
一昔前まではよくあった。
喧嘩っ早い自分は病院に運ばれることもあれば、朝日を目覚ましに青空を見つめたこともある。
酷いときには雨にうたれて目覚めたことがあった
それでも空腹で倒れたことはなかったなと考える。
家に帰れば、喧嘩したことを叱りつけ拳骨を一発あてたあと、必ず父が粥をつくってくれた。
それも切れた口がしみることもない、適温の。
バカな自分はその優しさに、父の最期まで気付かなかった。
彼の目の下にできた青いクマも。
筋肉質だった身体がやせ細っていくことにも。
彼は――父はガンだった。
胃ガン。それが病名。
胃の大半を切除し、白いシーツの上で点滴の管に繋がれていても、彼は笑っていた。
なぁに、食べなくたって手足があって味さえわかれば料理ができるさ、と。
その期待は打ち砕かれた。
舌ガン。次に下された病名は料理人としての誇り(プライド)を失わすには充分だった。
味覚をなくし、それでも調理場に立つ父。
常連客がしばらくの間、調子伺いがてらによっていたが、以前とは比べ物もならない味で出された料理に二度と舌鼓をうつことはなかった。
呂律のまわらない舌で彼は泣き叫ぶ。
なぜだ、と。
三度目のがん宣告。
それは訪れなかった。
その前に死んでしまったから。
裕二が朝目覚めた時にはすでに冷たくなっていた。
呼んだ救急車は音を鳴らすことなく帰り、変わりに白黒の世話にはなりたくなかった車がやってきた。
二人組の警官は父親の部屋を数分ほど検証した後、「事件性はない」「この度は」などといってはいたが裕二の耳には届いていなかった。
それから数年がたち、今ではどこのメディアでも取りあげられるほどの有名店にのしあがった。
某グルメガイドにも二つ星レストランとして紹介されている。
そこまで成長させたのは、裕二の努力だった。
あの店と一緒に働いていた仲間だけが彼の居場所“だった”。
だというのに、
「なんでだ…」
にじんだ視界を覆い隠すように、裕二は再び瞼を閉じた。