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②
青年、小野原 裕二はふらりふらりと歩いていた。
数日間、裕二は水以外の物を口にしていない。
ポケットの中には道端で拾った硬貨が数百円あるが、人としてのモラルが使うことを拒否している。子供の頃は躊躇などしなかったのに。
空腹は彼の体力となけなしの精神力をけずっていく。
思考力も衰えた。
だから【気づかない】。
黒くゴミ1つないアスファルトの道が、砂埃ののこる石畳になったことも。
異臭を放ちはじめた彼を避けるように歩いていたスーツ姿の会社員たちが、異国情緒あふれる衣装を身にまとわした人々に変わったことも。
そして、太陽を隠すように乱立しているビル街が、レンガや木製の家屋がたちならぶ大通りになったことも。
裕二の目には、何もうつっていなかなったのである。