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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第二章 滲み
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村丘の戦い

斧が妻子を亡くしてから3年後ーーー


灰まみれの大地、かつての村のような場所。

壊れた家屋の影に四人の盗賊が潜む。


斧を握る手は震えないが、血がにじむ肩と腕の痛みが、戦闘の現実を突きつける。


まず小型のダガーを持つ盗賊が飛び込んでくる。


斧を構えて受け止めるが、刃が腕をかすめ、痛みが走る。

咄嗟に踏ん張り、反撃の斧を振り下ろす。


刃は胸板を捉えるが、男もすぐに体勢を崩さず、攻撃をかわそうと必死に跳ねる。

汗と血で手が滑りかけるのを感じながら、なんとか振り切り、敵は地面に崩れ落ちる。


次のダガー使いは素早く間合いを詰め、斧を斬り返してくる。


腕に切り傷が増え、血が滴る。


痛みが鋭く脳裏を刺すが、斧を握る手を緩めるわけにはいかない。相手の軽やかな動きを読んで足を踏み込むと、肩口に斧が深く入り、ようやく倒れた。


ショートソードの男が横から斬りかかる。


こちらも斧で受け止めるが、衝撃で手首と肩が痛む。呼吸が乱れ、腕の力が半分しか入らないように感じる。それでも、一瞬の隙を見逃さず、胸に斬り込み、男は崩れた。


残る双剣の盗賊は逃げ腰。


投げ斧を構える間合いを計り、片腕の痛みをこらえて狙いを定める。刃が風を切り、肩や腹に刺さる痛みを感じながらも、投げ斧は正確に命中。男は地面に倒れた。


思ったよりも長く苦戦した。


血と汗で視界が滲み、痛みで手元が狂いそうになる。

ふと、鬼子の少女の言葉がかすかに響く――


ー刃を恐れるな、恐れは一瞬の不覚になるー


「まだ・・・やれるか」

痛みを抱えつつ、辺りを警戒しながら生存者を探す。


瓦礫の間から覗く亡人を見つけ、胸がぎゅっと締め付けられる。

ここで生き延びた者を探さなければ・・・

心の中で反省する。


瓦礫の間を這うように進むと、生き延びた者を探す目が必死に周囲を見渡す。

肩や腕の痛みはまだ残り、血の匂いが鼻を突く。


瓦礫の隙間から、大人の女性の姿を見つける。恐怖と疲労でぐったりと伏せる彼女を助け起こすと、わずかな安堵の息が漏れる。

だが、視線をさらに探すと――子供の姿はない。瓦礫の下に埋もれてしまったのか。


その事実に気づいた女性の体が震え、声にならない嗚咽とともに、崩れ落ちる。

泥と灰にまみれ、泣き崩れるその姿を、ただ斧を握る手を休め、静かに見つめる。


言葉は一切かけない。

慰めの余地はもうない。


遠くで風が吹き抜け、瓦礫の上の灰を舞い上げる。胸の奥に重苦しい沈黙が積もる。


涙に濡れた彼女の背中を見ながら、斧はまだ手から離れず、痛みをこらえたまま視線は辺りを警戒する。


「近くの街に、盗賊に搾取された村民を受け入れてくれる教会がある――」

そう彼女に話し、立てるかどうか確認したが、反応がなくとりあえず更に生き残りがいないか捜索することにした。


瓦礫の間を進み、必死に生き残った者を探す。

先ほど助けた女性以外、他に生存者の気配はない。


視界の隅には、あの日の惨劇を思わせる破壊の痕が散らばっていた。


倒れた建物、焦げた跡、壊れた道具の山。まるで過去の悲劇がそのまま残っているかのようだった。


胸が締め付けられる。

かつて自分が味わった絶望、妻と子を失ったあの日のことが脳裏に蘇り、吐き気が込み上げる。

顔をそらしても、思い出は鮮明に甦り、体が反応する。小さく嘔吐し、灰にまみれた地面に唇を押し付けたまま、ただ震える。


それでも、生き残りを探す手は止められない。気を取り直し、瓦礫の間をさらに進む。


だが、何も見つからない。存在するのは、過去の惨劇を思わせる残骸ばかり。影の中で息をひそめていたのは、もはや幻のような残像だけだった。


女性のもとに戻ろうと振り返ると、そこにはもう姿はなかった。灰に紛れ、あるいはその場を離れたのか。胸に重苦しい空虚が押し寄せる。言葉をかける相手は、もういない。


静寂の中で、肩の痛みとともに斧を握る手だけが現実を支えていた。


生き残った者を守る使命も、今はただ孤独な行動の延長線に過ぎない。


風が瓦礫の隙間を吹き抜け、遠くで灰が舞い上がる音が、あまりにも冷たく響いた。


村を後にして、荒れ果てた道を歩き続ける。

灰色の大地が遠ざかり、体の痛みと疲労が徐々に重くのしかかる。


痩せ細った、枯れた木の下で、先ほど助けたはずの女性が倒れていた。


その姿は静かで、すでに息をしていない。

胸に何も感じず、ただ目の前の現実として認識する。涙も、言葉も出ない。


感情に身を任せれば、自分はすぐに失われる。


鬼子の少女に叩き込まれたその教えが、体の奥で硬く響く。だから考えず、迷わず、街へ向かうしかなかった。


道を抜け、街の灯が見え始めるころには、夕暮れが夜の気配に溶けていく。


先ほどの村とは比較にならないほど、残酷なまでに賑やかな光が街を包んでいた。


人々の笑い、商いの声、馬車の蹄の音――それらすべてが自分とは異なる世界のものに思えた。


胸に痛みを抱えながらも、ただ足を前に進める。

斧はまだ手に握られ、背中には灰と汗がこびりつく。


世界は動き続ける――自分だけが、立ち止まったまま取り残されたような感覚に、ほんの一瞬、凍りつく。


通りには人々の喧騒が満ち、

灯りが夕暮れの空に反射して黄金色に輝く。


ギルド案内所の前では、人々が酒を手に盛大に笑い、声を張り上げてはしゃいでいた。


笑顔の下に疲労や汚れはあるものの、騒がしさは確かに現実だった。


教会の前には、盗賊に搾取された村民を受け入れる旨が書かれた案内看板が立っている。


文字は清楚で、街の雑音の中でも目立つ白さを放っていた。


酒場のテラスではくたびれた兵隊たちが飲んだくれて床に倒れ、時折荒い寝息を漏らす。


路地裏には、今の自分と同じように絶望に沈んだ人々がうずくまり、身を小さくして夜をやり過ごしていた。


その中で、唯一静寂に包まれていたのは「INN」と掲げられた宿屋だった。


柔らかい灯りが小さく漏れるだけで、喧騒も絶望もそこには届かない。


当初はギルドへ向かうつもりだったが、街に着くのが遅くなってしまった。選んだのは、宿屋の扉だった。


ここで使うのは、かつての薄汚れた銀貨や銅貨ではなく、真っ当な硬貨。


手にしたそれは、ただ現実をやり過ごすための道具でしかなかった。


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