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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第三章 獣
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獣狩り

次の瞬間だった。


残を喰らう獣が――

消えた。


そう錯覚するほどの速度で、突っ込んでくる。


ドンッ!!


地面が砕ける。


先ほどまでとは明らかに違う。


速い。


前脚が振り下ろされる。


避ける。


だが間髪入れずに次の一撃。


横薙ぎ。


さらに突き。


速い。


先ほどとは比べものにならない速度で、攻撃が連続する。


斧を振る余裕などない。


踏み込み。


回避。


後退。


避け続ける。


洞窟の壁が砕け、岩が飛び散る。


(……図られた)


理解する。


これは――


狩りだ。


最初の大振りの攻撃は、こちらの体力を削るためのもの。


避けさせ続け、消耗させる。


そして最後に――


仕留める。


シンプルだが、理にかなった戦い方。


まさに動物の狩りのやり方だった。


前脚が突き込まれる。


身体をひねって避ける。


その瞬間、もう一本の前脚が薙ぐ。


かろうじて下がる。


岩壁に爪が食い込み、石が弾け飛ぶ。


攻撃の隙はない。


一切ない。


だが――


(……逆だ)


頭の奥で冷静な声がする。


奴は今、こちらが消耗していると思っている。


体力が削れていると。


だから攻めてきている。


つまり――


仕留めにきている。


これは一見、完全な劣勢。


だが同時に――


隙でもある。


獣の動きは鋭い。


だがその分、ピーキーだ。


攻撃に全てを乗せている。


こちらが避け続ける限り、攻撃の流れは止まらない。


ならば――


(このまま避け続ける)


その間に。


準備する。


脳裏に、鬼子の少女の言葉が蘇る。


――闘気を広げろ。


――鬼を思い描け。


呼吸を整える。


攻撃を避けながら。


一歩。


また一歩。


斬撃をかわしながら、意識を内側へ沈める。


鬼子の闘気。


胸の奥にある熱。


それをさらに広げる。


頭の先から。


指先から。


足の先から。


すべてを心臓へ。


そして――


外へ。


闘気が、身体の外側へと膨らんでいく感覚。


まだ荒い。


だが、先ほどよりも確かだ。


攻撃を避ける。


また避ける。


その間にも、闘気は少しずつ形を整えていく。


(……いい)


戦いの中で、闘気が安定していく。


ほんのわずかずつだが。


確実に――


高まっていく。


心なしか、鬼子の闘気に近づいているせいか――。


残を喰らう獣の足取りはさらに速くなっているはずなのに、不思議とその動きが見える。


いや、違う。


反応できている。


前脚が振り下ろされる。

半歩退く。


横薙ぎ。

身体を沈めて避ける。


続けざまの突き。

斜めに踏み込み、すり抜ける。


ほんの少し前まで、ただ必死に回避するだけだった攻撃が、今は狙いを読んで動けている。


そして次第に――


獣の動きが、わずかに遅く感じ始めた。


錯覚ではない。


体の奥に広がる熱。

全身を覆う圧のようなもの。


それが、確かに高まっている。


この感覚は間違いない。


闘気が高まった証だ。


――時は来た。


意識をさらに内側へ沈める。


そして、心の中で静かに呟いた。


「鬼仁化」


その瞬間だった。


頭部に鋭い痛みが走る。


骨の奥から何かが突き出す感覚。


次の瞬間――


額から、小さな鬼の角が一本生えていた。


視界が研ぎ澄まされる。


時間が引き伸ばされたように、世界がゆっくり流れ始める。


残を喰らう獣が飛びかかる。


だがその動きは、もう遅い。


ハンドアクスを強く握る。


わずかな隙。


その瞬間を逃さず――


振り下ろした。


斧は空気を裂き、一直線に落ちる。


跨っていた盗賊ごと、縦に切り裂く。


盗賊の身体はそのまま両断された。


そして刃は止まらない。


そのまま――


残を喰らう獣の頭部を、真っ直ぐに断ち割った。


骨が割れ、肉が裂ける。


巨大な身体が揺らぐ。


次の瞬間、二つに分かれた獣の身体が崩れ落ちた。


ドォン――


地面に叩きつけられ、洞窟に粉塵が舞い上がる。


すべては――


一瞬の出来事だった。


静寂が戻る。


これが、鬼仁化。


ギフトではない。


生き物が本来持つ、自然の力だけで放つ一撃。


修行の際にも何度か魔物を両断したことはあった。


だが今の一撃は、それらとは明らかに違った。


確かな手応えが、拳から腕へと流れている。


斧を振り抜いた瞬間、額の角はすっと引っ込んでいく。


だがその直後――


全身を、強烈な疲労が襲った。


膝が震える。


息が重い。


「……はぁ……」


荒く息を吐きながら思う。


緋色の弾丸のように世界そのものを揺るがす危険はない。


だが――


反動は、すべて自分に返ってくる。


これはまだ、完成には程遠い。


もっと鍛える必要がある。


「……特訓が必要だな」


そう呟き、地面に尻餅をつくように座り込んだ。


静まり返った洞窟。


これで――


おそらく制圧は完了だろう。


盗賊の気配は感じない。


あの獣がここへ来る途中で、盗賊たちをすべて喰らったのだろう。


先ほどまで響いていた足音も、いつの間にか完全に消えていた。


ポーチからスタミナ回復用のポーションを取り出し、飲み干す。


少ししてから、ゆっくりと立ち上がった。


余韻に浸っている時間はない。


この目で確かめるまで、盗賊は根絶やしにしなければならない。


それに――


獣に喰われたあの盗賊の言葉が気にかかる。


途中で途切れたあの一言。


おそらく、あれは――


「教会」


教会が盗賊を斡旋している?


どう考えても、きな臭い話だ。


だが――


調べる価値はある。


斧を握り直す。


そして俺は、さらに洞窟の奥へと歩き出した。

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