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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第一章 値札のついた命
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王から渡された革袋は、腰で揺れるたびに鈍い音を立てる。

重い。

だが、その重さは頼もしさではなかった。


宿屋の卓上に硬貨を広げたときのことを思い出す。


銅貨の縁に浮いた青錆。

湿った緑色。

爪で擦ると、粉がこぼれた。


店主は硬貨を指で弾き、眉を寄せる。


「……古いな」


それだけで十分だった。


価値はあるはずの金属が、拒まれる。

光を持ちながら、触れられない。


三軒目では、袋ごと押し返された。


重さだけが手に残る。


結局、数枚の硬貨と引き換えに干し肉を手に入れた。

固く、塩辛く、喉を削る味がした。


それでも食べた。


食べながら、自分が何なのか考えないようにした。


森が見えたとき、ほっとはしなかった。


ただ、歩みが止まらなかっただけだ。


村は低く、地面にへばりつくように広がっている。

煙はまっすぐ上がり、風はない。


足を踏み入れた瞬間、土を打つ鍬の音が止んだ。


止まった、というより、吸い込まれた。


視線が集まる。


冷たくも、熱くもない。


ただ、測る目。


「何だ」


声は乾いていた。


俺は答える。


「仕事を探している」


自分の声が、どこか遠い。


男は近づき、俺の顔を見る。

そのあと斧を見る。


「……木こりか」


分類された。


それ以上でも、それ以下でもない。


森の奥に倒木がある、と言われる。

頼みではない。

必要な作業の確認。


俺は頷く。


背後で小さな声が流れる。


「痩せてるな」


「変な金を持ってるらしい」


風はないのに、声だけが動く。


森は湿っていた。

腐葉土の匂い。

足裏に沈む柔らかさ。


倒木は苔に覆われ、長く横たわっている。

静かに朽ちる途中の姿。


斧を握る。


柄が汗で滑る。


振り下ろす。


刃が触れた瞬間、抵抗が消える。


切る、というより、分かれる。


世界に最初から引かれていた線をなぞるように、木が裂ける。


音が遅れて届く。


乾いた、短い音。


背後に気配がある。


一定の距離。


近づかない。


「……ふーん」


低い声。


感情のない確認。


「便利だな」


それだけだった。


森はまた静かになる。


驚きは長く留まらない。


奇跡も、作業の中に溶ければただの効率だ。


村へ戻ると、井戸端の水面が揺れている。

女たちの視線が一瞬こちらを掠め、すぐに離れる。


子供がこちらを見ている。

母親の手が、静かにその肩を引く。


夕暮れは赤くない。

淡く、色の薄い橙色が屋根を撫でる。


誰も話しかけない。


誰も追い払わない。


ただ、そこに“置かれている”。


使える間だけ。


あてがわれた小屋は湿っていた。

藁の匂いが重い。


横になると、天井の隙間から細い光が落ちている。


革袋を開ける。


青錆の浮いた硬貨が、月に照らされる。


鈍い緑。


腐食はゆっくり広がる。


磨けば戻るのかもしれない。


だが、磨く気力がない。


硬貨を指で転がす。


冷たい。


価値はある。

だが、受け取られない。


腹の奥が、空洞のように静まっている。


万物を両断できる。


そう言われた。


だが俺は、この村の沈黙を切れない。

距離を切れない。

視線を切れない。


夜が降りる。


どこかで戸が閉まる音がする。


それはひどく遠い。


目を閉じると、青錆の色だけが残った。


腐食は、外側から始まるのか。


それとも、内側からか

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