表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第三章 獣
18/25

残を喰らう獣

洞窟の奥。


暗闇の中から、ゆっくりと一人の男が姿を現した。


箸のように細い手足。


無駄な肉が一切ない身体。


そして――


狐のように鋭い顔立ち。


細く吊り上がった目が、こちらを射抜く。


その眼光は、獲物を値踏みする獣のそれだった。


男はしばらく黙ってこちらを見ていたが、やがて口の端をわずかに上げる。


「ほぉ……」


感心したような声。


「これはまた貧弱な装備……」


一度言葉を切る。


そして首を傾げる。


「……いや」


「あえてこうなのか?」


ゆっくりと歩きながら、こちらの全身を観察する。


まるで舐め回すような視線。


「ただ言えるのは」


指先で軽く斧を指す。


「これはとにかく――」


「盗賊を狩るために向いた装備だこと」


目が細くなる。


「洞窟を想定してなのか?」


「それともギフトによるものか?」


さらに近づく。


視線は武器へ。


「武器は斧を中心に構成」


そして腕を見る。


「二の腕まで伸びたその手袋」


顎に手を当てる。


「何か隠しているようにも見える」


そして小さく笑う。


「それに」


「腕がとにかく上等だ。」


完全に分析されている。


男はふっと息を吐く。


「あぁ」


肩をすくめる。


「おしゃべりなのは俺も一緒だ」


軽く手を振る。


「すまない」


「君を見て色々勘繰ってしまった」


そして、少し残念そうに言う。


「だが今日は」


指を立てる。


「君に構っている暇はないんだ」


顎で床の死体を示す。


「こいつの食事会でね」


そう言って――


ゆっくりと手を洞窟の奥へ向けた。


その瞬間。


奥の暗闇が、動いた。


重い足音。


のし……のし……


姿を現したのは――


巨大な獣。


全身は虎のような体躯。


だが毛は薄い灰色。


筋肉は異様なほど発達している。


しかし肉付きは、どこか不気味だった。


まるで――


毛の少ないハウンド犬のように細い。


骨格が浮き出ている。


そして異様なのは脚。


前脚が四本。


左右に二本ずつ。


地面を掴むように広がっている。


後ろ脚は二本。


計六本脚。


前脚と顔の周りは――


血まみれ。


まだ新しい血だ。


獣は喉を鳴らす。


コロ……コロ……


低い振動。


獲物を見つけた獣の音。


そのまま、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


のしり……のしり……


灰色の怪物は、こちらを見据えていた。


だが――


獣は、こちらを見ていた視線をふいに逸らした。


そして、ゆっくりと歩き出す。


薄汚れたカーテンへ顔を突っ込む。


次の瞬間。


ぐちゃり。


肉を裂く音。


骨を砕く音。


ガリ、ガリ、ガリ……


死体を――


貪り喰っている。


一体目。


二体目。


三体目。


四体目。


ものの数秒だった。


四つの部屋にあった死体は、骨すら残らず消えた。


そして最後。


床に転がっていた、先ほどまで戦っていた屈強な男の死体。


獣はその頭に噛みつく。


バキッ


頭蓋が砕ける。


そのまま丸ごと飲み込み、肉も骨も――


完食した。


血を滴らせながら、獣が喉を鳴らす。


ゴロ……ゴロ……


その様子を見ながら、細身の男が口を開いた。


「こいつの名前は」


軽く顎で示す。


「残を喰らう獣」


男は静かに話し始めた。


「盗賊が飼う獣の一匹だ」


こちらを見る。


「不自然に思うかもしれないが」


肩をすくめる。


「本来ここは盗賊の寝ぐらなんかじゃない」


指で床を叩く。


「言うなれば――」


薄く笑う。


「レストランだ」


洞窟の奥を指す。


「ここに派遣される盗賊のほとんどは」


「そのことを知らないがね」


男はゆっくり歩く。


「盗賊の世界にもな」


「使い物にならなくなる奴はいる」


目が細くなる。


「ただ爪弾きにするだけじゃ問題がある」


「裏切るかもしれないからだ」


そして死体があった場所を見下ろす。


「だから――」


「使えなくなった奴」


「周りから必要とされなくなった奴」


「そういう連中は」


少し楽しそうに言う。


「資源として使う。」


鼻で笑う。


「中年の腐り切った感性のアホなおっさん盗賊」


「そんなの誰が必要だと思う?」


視線を向ける。


「この組織に必要ない存在は」


指を鳴らす。


「全部搾取する。」


「それが盗賊の掟ってやつだ」


そして、少し首を鳴らす。


「さて」


微笑む。


「そろそろデザートに進むとしようか?」


男は獣の背へ軽く飛び乗る。


慣れた動き。


背中に突き刺さっていたククリナイフを引き抜く。


血を払う。


そしてこちらを見る。


「私は――」


ナイフを構える。


「ビーストテイマーだ」


獣の背で身を沈める。


次の瞬間。


「さぁ」


口角が上がる。


「これでしまいとしよう」


ドンッ!!


六本脚の獣が地面を蹴る。


岩床が砕ける。


灰色の怪物と男が、一体となって――


こちらへ襲いかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ