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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第三章 獣
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隠匿の城

朽ちた城。


かつては王侯が宴を開き、旗が風を裂き、兵が整列していたであろう石造りの大城郭。

だが今は、天井は崩れ、壁は穴だらけ。蔦が石を侵食し、床には雨水が溜まり、腐臭と湿気が充満している。


砕けたステンドグラスから差し込む月光だけが、わずかに内部を照らしていた。


玉座の間と思しき広間。

天井は半壊し、夜空が覗いている。


そこに、一人の男が座っていた。


石の台座に座る男は、闇の中に溶け込んでいる。


「……そうか。剛腕は死んだか」


横の影から、黒いフードの女が進み出る。


「はい。剛腕、そして直前に取引予定だった五人の盗賊も全員死亡」


一拍置き、続ける。


「ただし――形跡は完全に消されています」


男の指が、わずかに止まる。


「死因は不明。斬撃か、魔法か、毒か……判別できません。使用された魔法の残滓も検出できず、現場には意図的に痕跡を断った形跡があります」


静寂。


「……何も残っていない、か」


「はい。あれは素人の仕事ではありません」


女の声は低い。


「盗賊の習性、隠蔽方法、報復の流れを熟知している者の犯行」


「あるいは――」


わずかに間を置く。


「復讐者」


「もしくは内部の反抗者」


闇の中の男は、静かに息を吐く。


「内部か……」


城の奥で風が唸る。


「倒した人間の情報は?」


「皆無です」


即答。


「目撃証言なし。金の流れにも異常なし。討伐報告も確認できません」


「まるで――」


「最初から存在しなかったかのように、消えています」


男はゆっくりと立ち上がる。


月光がわずかに輪郭を照らすが、顔は見えない。


「剛腕は確かに入口に過ぎん」


低く、愉悦を含んだ声。


「だが、その入口を音もなく潰す者がいるとはな」


数歩、歩く。


「探れ」


短い命令。


「復讐者か、裏切り者か、あるいは別の獣か」


黒フードの女が跪く。


「御意」


男は最後に呟いた。


「……面白い」


闇が、わずかに嗤った。


盗賊を襲う者がいなくなったのは、いつからだったか。


思い返せば――あれは奴らがこの王国へ攻め込んできた頃。


魔王大戦。


その戦が、すべてを変えた。


王国の兵は前線へ。

騎士団も、傭兵も、守備隊も。

村を守っていた剣は抜かれ、盾は戦場へ運ばれた。


国内は空洞になった。


治安という名の壁に、穴が空いた。


いや、穴ではない。


底の見えない溝だ。


抜け道。盲点。死角。


呼び方は何でもいい。


だが確実に、王国の内側に“隙”が生まれた。


盗賊はその隙に根を張った。


奪っても、焼いても、殺しても、

追ってくる者はいない。


慢心していたかもしれない。


この盤面は、もう動かないと。


だが――


剛腕が倒された。


それはただの損失か。


それとも亀裂か。


あるいは、骨のようにさらに硬くなるための再構築か。


未来は誰にも読めない。


ただ一つ。


今まで“簡単だった盤面”を覆す可能性を秘めた人物が現れた。


それだけは確かだ。


男は、ふと三年前を思い出す。


村を襲った、あの夜。


ただの村人のはずだった。


だが一人、異様に手強い人間がいた。


刃の運びも、目も、覚悟も。


目の前で同業者が次々と倒れる中、

男ともう一人だけが――見ているだけだった。


逃げた。


それが最善だった。


そう、思い込んだ。


あいつは死んでいるだろう。


あの状況で生き残れるはずがない。


だが。


もし。


あの時のような“イレギュラー”が、また現れたのだとしたら。


男は小さく息を吐く。


そして――


影の中へ、さらに気配を沈める。


次の瞬間。


そこにはもう、誰もいなかった。

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