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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第二章 滲み
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帰還

緋色の弾丸を使用した際の鉄則は、一つ。


証拠を残さないこと。


魔力の痕跡を完全に消すことはできない。

だが、追跡を困難にすることはできる。


主人公は盗賊の懐から奪った小袋を取り出す。


尾行破りの粉。


本来は追手を撒くための道具だが、魔力の残滓を乱す副次効果がある。

風に乗せれば、術式の流れを攪拌し、辿ることをほぼ不可能にする。


戦闘地点を中心に、半径二十五メートル。


無駄なく、均等に振りまく。


風向きを読み、足跡の流れを踏まえ、死角になりやすい木陰にも忘れず撒く。


次に――遺体。


ためらいはない。


火を放つ。


炎は感情を持たず、ただ役目を果たす。

形を失わせ、痕跡を断ち、物語を終わらせる。


骨も装備も、判別できぬほどに。


ギルドへは簡潔に報告するだけでいい。


盗賊五名を討伐。


詳細を問われた場合は――火炎系魔法で仕留めた、とでも言えばいい。


この世界ではそれが最も自然だ。


緋色の弾丸の存在は、知られてはならない。


研究の余地を与えない。

模倣を許さない。


対処法は、すべて鬼子の少女から叩き込まれたものだ。


「撃った後が本番だ」


そう言われ、何度も模擬戦でやらされた後処理。


感情を挟まず、淡々とこなす。


やがて、現場から“戦闘”という情報は消えた。


焦げた匂いだけが、森に薄く漂う。


視線は――感じない。


索敵。


魔力探知。


異常なし。


そこでようやく、身体が悲鳴を上げた。


不意打ちで受けた打撃の痛みが、遅れて押し寄せる。


こめかみが脈打ち、視界がわずかに揺れる。


よく立っていられるものだ。


内心、自分の身体の丈夫さに半ば呆れ、半ば感心する。


腰のポーチからポーションを二本。


迷わず飲み干す。


続けて、スタミナポーション。


喉を焼く感覚とともに、内側から熱が広がる。


裂けかけていた神経が、ゆっくりと繋がる感覚。


完全ではないが、動ける。


森は静かだ。


何事もなかったかのように。


ゆっくりと呼吸を整えた。


最後に、装備を確認する。


銀のアクス。

刃こぼれなし。


投げ斧は回収済み。

ベルトの固定も問題ない。


ポーション残数なし。

赤のリング――問題なし。


ひとつ、深く息を吐く。


森を歩き出す。


戦闘の緊張が切れた身体は、鉛のように重い。

一歩ごとに、足裏が地面へ沈み込む感覚がある。


枝を踏む音さえ億劫だ。

神経が擦り切れている。


視界は正常。

索敵も維持している。


だが、精神が限界に近い。


木々の隙間から、街の灯りが見えたとき、ようやく胸の奥の緊張がわずかに緩む。


門をくぐる。


もう夜中だというのに、街は明るい。


酒場から溢れる笑い声。

酔った冒険者たちの喧騒。

焼いた肉の匂いと、甘い酒の香り。


最初にこの街へ来た時も、同じ光景を見た。


あのときも思った。


自分が、あそこに混ざる未来はない、と。


今日も同じだ。


賑わいは、どこか遠い世界の出来事のように感じる。


足を止めることなく、宿屋へ向かう。


階段を上る足取りは重く、手すりに体重を預けなければ崩れそうだった。


部屋に入る。


鎧を外す気力もほとんどない。


それでも最低限だけ整え、武器を手の届く位置に置く。


ベッドへ倒れ込む。


柔らかいはずの寝具が、硬く感じる。


瞼が閉じる。


意識が沈む。


夢を見る余裕もない。


まるで――

命を一度使い切ったかのように。


主人公は、死んだように眠りについた。

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