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世界の断頭(仮)  作者: でいおん
第一章 値札のついた命
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転生

「ギフトは――《木こり》」


その言葉が告げられた瞬間、俺は自分の鼓動の音だけを聞いていた。


どくん。

どくん。


やけに大きい。

玉座の間は広いはずなのに、音が内側に反響しているようだった。


周囲がざわめいた気がする。


だがそれは、波紋のように広がることもなく、すぐに消えた。


失望、というほどではない。


興味が薄れただけだ。


それが一番堪えた。


「万物を両断する能力とのことです」


側近が補足する。


王は、頷きもしなかった。


書類に視線を落としたまま、淡々と聞いている。


俺はそこで理解した。


――ああ、外れか。


勇者は聖剣を掲げ、空気を震わせた。

魔術師は魔力で燭台の炎を揺らした。

聖女は光を降らせ、人々を跪かせた。


俺は、斧だ。


「路銀を与える。民として生きよ」


王は顔を上げなかった。


それは裁定ではない。


処理だった。


書類を一枚、片付けるような声だった。


その瞬間、配下の一人が小さく笑った。


「魔王軍も森なら怖いでしょうな」


数人が、くくっと喉を鳴らす。


王は止めない。


止めるほどの価値もないのだろう。


「……失礼」


俺は頭を下げた。


声は、自分のものとは思えないほど静かだった。


玉座の間を出るとき、背中が軽かった。


期待が剥がれ落ちた分だけ。


だがその軽さは、羽のようなものではない。


中身が抜け落ちた軽さだ。


廊下は長く、冷えていた。


磨かれた床に、俺の足音だけが響く。


だがすぐに、その音に別の声が混じる。


「聞いたか? 木こりだと」


「召喚儀式にいくらかかったと思っている」


貴族たちが、隠そうともせずに囁く。


魔石、賢者、儀式陣、供物。


国家予算の何割を削ったか。


具体的な数字まで飛び交う。


その中に、俺がいる。


まるで投資に失敗した商人のような目で、値踏みされる。


「転生者は対軍勢用の兵器だ」


文官が腕を組む。


「一騎で千を討つ力。都市を守る象徴。それが最低条件だ」


「なんでも切れる? で、何を切る」


「薪か?」


笑いが起こる。


乾いている。


心底どうでもいいという笑いだ。


怒りは、湧かなかった。


代わりに浮かんだのは、理解だった。


ああ、そうか。


俺は“人間”ではないのか。


俺は“期待値”だ。


この国が支払った金額に見合うかどうか。


それだけで測られる存在。


「軍勢を相手にできぬ力など、兵器として不十分」


兵器。


その言葉が、胸に沈む。


俺は自分の手を見る。


震えていない。


なのに、妙に遠い。


万物を両断できる。


だが、軍勢は両断できない。


空を埋め尽くす魔物も、魔王の結界も、一振りでは消えない。


つまり、役に立たない。


「民として働くなら税の足しにはなるだろう」


誰かが言う。


それに、数人が笑う。


俺の背中に視線が突き刺さる。


軽い。


重くもない。


ただ、“終わったものを見る目”。


その視線が、一番痛い。


城門へ向かう途中、ふと振り返る。


巨大な城。


高い塔。


王国の象徴。


あそこに、俺の居場所はない。


最初からなかったのかもしれない。


門番が門を開ける。


ちらりと俺を見て、にやりと笑う。


「薪割りなら頑張れよ、転生者様」


門が閉まる。


重い音が響く。


その音は、世界が切り離される音に似ていた。


外の空気は冷たい。


城の外は、思ったより静かだった。


俺は斧を握る。


これが俺のギフト。


万物を両断する力。


だが今、俺の中で切れたのは何だろう。


国との繋がりか。


期待か。


それとも――


自分の価値か。


足が前に出る。


行くあてはない。


ただ一つだけ、はっきりしていることがある。


俺はこの世界に呼ばれた。


金をかけて。


期待を背負って。


そして――


値札だけが残った。


中身のない商品として。

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