5ー2.
女性以外1人もいない学校に男の声。5人共慌てて振り返ると、目に眩しい光が当てられ、何も見えない。
「あれ?フィリ?何して…」
光…手持ち用のライトが下げられ、見えた顔は少し気の良さそうな顔…フィリアのよく知った人物、父の同僚のステンだ。
「ステン…?やば!みんな逃げ…」
「フィリア・エイン!!!そしてそこの訓練生4人!今すぐその場に正座しろ!!!」
夜に響く雷のような怒声?5人の逃げ場を塞ぐように、ステンの反対方向からルドヴィクと、困ったように笑うダリウスが現れた。
「え、誰…」
「一番背の高い、長髪の人。フィリのお父さんだよ、アレ」
「若すぎにも程がある!」
「みんな、やばいよあれ…ガチ切れだよ、座った方が安全だよ」
フルネーム呼びは怒りの度合いで言うとMAXな状態。全員顔を見合わせ、言われた通りその場に正座する。フィリアの持っていたイングリズの端末は、「これ、一旦没収ねー」と、ダリウスに回収された。
「何で、教官以外の正規軍人が学校に…」
「誰が無駄な発言を許可した、訓練生」
「あ…っ、うっ」
ルドヴィクの鋭い眼光と言葉で、モイラはボロボロと泣き出してしまった。真っ青になっているフィリア以外3人も涙目になっている。
「…で、こんな時間に子供だけで施設に忍び込み、端末開いて一体何やっていた?」
腕を組み睨み付ける。蛇に睨まれたカエルそのものだ。一言でも発する勇気など、4人の訓練生達には無いだろう。
「明日の訓練のシステムを書き換えてました…」
だんだんと小さくなっていくフィリアの声に苛々したルドヴィクは舌打ちし、腹の底から
「このバカ!!時間外の侵入も施設内のデータ改竄も、規律違反だぞ!!わかってやっているのか!?」
啜り泣く声が1人2人と増えていく。
「泣いたって…」
「はい。ルディ、ストーップ。そこまでー」
端末を確認し終えたダリウスが、怒るルドヴィクと正座している訓練生達の間に入り制止した。
「ルディ、今回のリーダーは誰?」
「…ダリ」
ため息を吐き怒りを抑えながら場を譲るルドヴィクを見、ダリウスはにっこり笑った。
「はい、それじゃあ訓練生の諸君、俺はダリウス・シアルドだ。階級は少佐。先程エイン中佐が言ったように、時間外侵入、データ改竄は叛逆予備行為と見做されかねない」
スッとその場の温度が下がる。彼の訓練生達を見る目は笑顔だ。
「だが、諸君はまだ訓練生だ。諸君の処分は軍ではなく、学校の管轄になる」
「ダリ、データ改竄はさすがに…」
顔には出さないが少し心配しているのか、ルドヴィクが寄る。ダリウスはそんな彼の肩を、安心させるようにポンと叩いた。
「フィリア・エイン訓練生、危なかったね。アレが完了していれば庇いきれなかった。でも、俺が教えた技術をこんな風に使われるのは悲しいな。ね、フィリ?」
笑っていない。目は笑っていない。これは怒っている時のダリウス・シアルドだ。今この場にいる彼の同僚2人も、久々に怒る彼を見て少々気まずそうな顔をしている。名指しされたフィリアも汗を流しながら「ごめんなさい!」と謝った。
「まあ、このデータはもう少し読み込んでいかなきゃだけど…フィリが弄ったのって、この部分だけだよね?」
仕事時の真面目な目で内容を確認してくる。「うん」と返事をすると、いつもの笑顔に戻って、フィリアは少し安心した。
「そっか。うーん…」
まだ何か悩む事があるのだろうか?不思議に思っていると、数人だろうか、こちらに向かって来る音が聞こえて来た。
「ダリウスー、ここの学校の教官連れて来た…って、フィリ!?」
ルドヴィクの同僚のキーアンだ。どうやら学校関係者を連れて来るよう、事前に指示を受けていたらしい。
(チームで行動が基本だから、そりゃそうなんだけど、勢揃いだよ…もう勘弁してほしい…)
3年くらいネタにされそうな気がする。今意識を失えば、無かったことにならないだろうか。フィリアはスッと目を閉じたが、何もならなかった。
「お前達、こんな時間に何をしている!」
連れて来られた教官達は驚いたり怒ったりしている。泣きながらブルブルと震えていたモイラが突然叫ぶように口を開いた。
「私が悪いんです!、みんなは私の我儘に付き合ってくれただけ…!私が…っ、だって、お父さんやお母さんに、実技の査定で怒られるの、嫌だったから…っ怖くて…みんなは悪くないんです!!」
「あ、そういうの良いからー」
同情も何も無く、さも当然のようにダリウスによって決死の叫びをぶった斬られたモイラはきょとんとした。
「話の腰を折るようで悪いけど、ダリ、人の心不携帯?」
「フィリ、俺たちもあくまで仕事だからそういうの既にどうでも良くなっちゃったっていうか…ほら、見てルディのあの死んだような目。あれが成れの果て」
「人の親を成れの果てって、残念だけどあれは通常運行だよ。元気に生きてる目だよ。」
「おいそこの師弟。聞こえてんぞ」
誹謗中傷を受け、不機嫌そうなルドヴィクは普段の調子で会話し始めたダリウスとフィリアへ指摘した。
「じゃ、良いかな。訓練生諸君。君たちはこれから教官達から長〜い説教を受けて、親御さん達に迎えに来てもらったら、今度は家でた〜〜っぷり叱られてね」
「やだーーーーー!!!」
今度はフィリアが悲鳴を上げた。が、ダリウスは「そんな事言ってもねぇ」と取り付く島もない。ステンとキーアンの方を見ても“そりゃそうだ”と言いたげな顔をしている。ルドヴィクの方など、恐ろしくて見れるわけが無い。
「まだ訓練生のうちの失敗で良かったね」
ダリウスは良い笑顔で明るく言うが、訓練生の彼女達にとっては死刑宣告も同然だった。
言われた通り、教官達からはしっかり絞られ、怖い顔をして迎えに来た親達からは、家で信じられないくらい叱られた。
フィリアといえば、「学校でも怒られたのに、家でまで…効率悪い」と呟いたのがルドヴィクに聞こえてしまい、かなり泣きを見たらしい。
「疲れた…」
泣き疲れて寝たフィリアの様子を確認し、ルドヴィクはリビングに酒を用意しながらダリウスに連絡を入れた。
「ルディお疲れ」
通話先のダリウスの声にも疲労が聞き取れる。
「すまなかったな、フィリが…」
親として責任を感じているのか、ルドヴィクの声がいつもより暗い。
「それはまた別問題だったし」
「そういえば、フィリに何確認していたんだ?」
強い酒を口に少し入れる。スーッと熱く、アルコールが口内に広がっていく感覚がした。
「うーん、解析はこれからになるけど、報告は上げるから先に言ってても良いかな、同じチームだし。高度な改竄記録が見つかった。」
連邦人は強い酒をストレートで飲む化け物ばかりです。




