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3.

 ゴーグル越しの海の中、遠くに小魚が見える。口に小さな酸素発生装置を咥え、足で水を蹴り狭い実習用戦闘機に入って行く。チームメンバー5人が全員機内に入ったのを確認し、ハッチを締めポイントまで移動。ポイントの座標が合っているのを確認してから、機内を空気で満たす。ここまでが戦闘訓練の基礎中の基礎。

「機内、酸素濃度正常」

「みんな、装置外して。変なとこ無い?」

「大丈夫」

 やっと呼吸を楽にできる。縦に長い戦闘機は全員平面に座れるスペースなど無く、腰を掛けられるかな程度の細く小さな椅子のようなものと、固定ベルトを使う。1人ずつ順番にしか出入りできない。海中で水と共に出入りなど、効率が悪く見えるが、敵に見付からないようにするには現状これが最適解らしい。それがわかるまで、多くの命が海中に散っていった。戦闘機が小さく狭いのも、機動力の問題だという。陸や空の人間には無理があるらしいが、連邦人の小柄で薄い体型が機体の小型化を可能にした。

「今日のダミー数は?」

「100。70以上で合格」

 管制、オペレーター席にいるニーヴとモイラが全員に聞こえるように確認。操縦とサポートはイングリズとシオラ、フィリアは今日は狙撃手だ。

「フィリが撃つなら、今日は終わるの早いね」

「12時の方向、ダミー32体、3時の方向に13体確認」

「了解。こっちで目標エリアにミサイル撃っとくから、フィリは撃ち漏らしの方よろしく」

「了解」

 イングリズの指示に頷くフィリアはいつもより少し元気が無かった。心配したシオラが「大丈夫?」と聞くと、フィリアは外を見るスコープを真剣に覗き込みながら、少し具合が悪そうに、

「昨日のインタビューページ、端から端まで10回は読んだから、目がチカチカしてる…」





 乾いた戦闘服に着替え、その上から制服を着ていく。更衣室に数台しか無いドライヤーは並ぶため、待っている間はいつもタオルで髪の水を拭いながらお喋りの時間になっていた。

「フィリ良かったね。交渉うまくいったんだね」

「前借り状態だったよ…」

 本気で買い食い考えなきゃなあと思うと、気分が沈んでしまう。

「フィリのお父さん、しっかりしてるんだね。若いのに」

 まあまあと慰めるシオラに同意するように、ニーヴも話に加わって来た。

「若いっていうか…この間本部に届け物行った時初めて見かけたけど、お兄さんかと思ったよ」

 よく言われる。反応しようとしたが、やめた。この話はあまり好きじゃ無い。戦闘服を留めるフィリアの手が途中で止まった。

 この国の人間の寿命は“生きていれば”150歳。子供時代の成長は三国とも変わらないが、成体になると老化が途端にゆっくりになる。子供でいられる時間は短く、働ける年齢になってからはとても長い。死ななければ。それに伴ってなのか、“結婚適齢期”が国によって決められており、大体40〜50歳の間に国によって決められた相手、または数少ない恋愛によって婚姻を結び、最初の子を“授からなければならない”。

 ルドヴィクの年齢は38歳。つまり、フィリアの父の年齢というのは、思春期の娘がいるには、はるかに若過ぎた。

「フィリ?」

 何かあればシオラはすぐに気付いてくれる。有難いやら、鬱陶しいやらで、ごちゃ混ぜだ。

「大丈夫?」

「…戦闘服の留め具が…上がらない…」

 見ると、胸が入りきれておらず、苦しそうな状態だ。「あ…」と気まずそうにするシオラをよけニーヴが顔を出し、留め具と格闘しているフィリアを元気に励ますように背中を叩いた。

「フィリまたサイズアウト?もー、フィリって帝国人みたいな体型して…」

「ニーヴやめて!!!」

 シオラの怒声が更衣室に響き渡り、他の訓練生たちもしんと静まり返った。

「ニーヴ、他者の外見に触れる行為は、軍規違反だよ…」

 軍規は、軍事国家であるオルカニア連邦では法律と同じ。

 真剣な目で見据えられ、ニーヴは泣きそうに「ごめん」と小さく謝罪した。

「シオ、大丈夫だよ。ニーヴも。平気だから!私、教官室に相談してくるね!!」

 努めて明るく、ニーヴの頭を撫でてからタオルで胸元をかくし、フィリアは空気の冷えてしまった更衣室を出た。

 誰に似たのかわからない、他に女の子たちよりも大きくなる胸や体付きに、最近とてもうんざりしていた。閉じた目に力が入り、眉間に皺が寄ってしまう。

(この身体、好きじゃない)

 好きじゃないけど、他の女の子たちの前でこんな顔はしたくない。

 男で一つで育てられ、小さな頃から父の周りの男達に囲まれていたからか、フィリアは女の子への扱いがよくわからなかった。しかしわからなくても、この優しい箱庭のような世界が大切で大好きだった。

 だから異物になりたくない。この世界で、この学校で。

 ズズッと鼻をすする。

 涙が出そうだった。





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