2ー2.
家の扉に個人端末をかざしてロックを解除すると、室内に人の気配がした。
(あ、パパ帰って来てる)
リビングに入るが誰もいない。ということは、きっとシャワーだろう。自室に戻り、制服から私服に着替えた。制服をハンガーにかけながら、フィリアは深くため息を吐いた。正直、今までの経験から、勝算は無い。軍人だからなのか、父はルールに対して厳しい。よく酒を飲みに来る父の同僚たちより、かなり。先日お小遣いをもらったばかりで「イモ食べ過ぎてデータ買えない」なんて言ったら…
「フィリ?」
(来たーっ)
ノックの後に扉が開くと、背中まである灰色の長い髪をまだしっとり濡らした青年、父のルドヴィクが顔を覗かせる。
「帰ってたのか」
「ただいま、パパ」
「おかえり」
今回は2日ほど不在だった。少し疲れているのか、目の下にクマができているが、帰って来た娘を見て安心したのか、うすく笑った。
(いつものパパだ。いける?いやー)
頭を抱えてい唸っていると、ルドヴィクは不思議そうな、訝しそうな顔をし「何」と鋭く聞く。フィリアは思わず小声で「まだ何もしてないよ…」と首をすくませた。
なら良い。とバスタオルで髪を雑に拭きながら、リビングの方に向かう。このままの状態にしていても話が進まない。フィリアは意を決してルドヴィクに言った。
「パパ、お小遣い欲しい」
ゴッ
痛そうな音を立ててルドヴィクは壁にぶつかってしまった。
(えええ眠いのかな?面白い反応した)
と思えたのも束の間。眉間に皺を寄せ、怖い顔でゆっくりと振り向く父。目を合わせられない。
「ついこの間渡しただろ」
それは覚えているが
「イモを食べ過ぎました!」
「アホか!」
長年の経験から、父の前だと隠し事ができない。しかし予想外だったのか間の抜けた叱責だった。やっぱダメか。と肩を落とす。
「後先考えて買い食いしろ。で、理由は?」
おや?
「何か欲しい物があったのか?」
「雑誌、今日配信なの!」
期待で目を輝かせ、フィリアは顔を上げた。一方ルドヴィクは頭が痛いのか、バスタオルで頭を押さえている。
「珍しいな。時間が経てば図書館で借りられるだろ」
「自分のが欲しいの!アリエリアナ様が出るんだから!!」
「アリエリアナ…?」
その名前に驚いたように顔を上げる。
「帝国の?」
「他にいるの?女性軍人の憧れだよ〜…パパもファン?」
「バカ。アウレシアの魔女だぞ?あの女」
吐き捨てるように言い、リビングのソファにドカッと腰を下ろした。
「アウレシアって…」
「帝国の首都。それくらい勉強しとけ」
「そっちじゃなくて。アウレシアの魔女って?」
初めて聞く単語に目をぱちくりさせる娘を見て、ルドヴィクは“あー…”と気まずそうな声をだした。
「“白い厄災”、“アウレシアの魔女”。連邦軍の間ではそう呼ばれている」
「かっこいいじゃん」
「??…そうか?」
さも当たり前のように言い切られ、本気で困惑している。気持ちを切り替えるように息を吐き、ルドヴィクは個人端末を弄り口を開いた。
「現物支給」
「やった!ありがとーーーーー!!」
用意ドンで抱きつきに来ると思いきや、大声で感謝を伝え、自室のタブレット端末までダッシュで消えていった。フィリアのその元気な姿を見て、ルドヴィクは“次の小遣いから差っ引く”と言うのを忘れたなあと思いながらソファに横になった。
パパ優しい(笑)だから、きっと翌朝には伝えてくれるよ。次回のお小遣いの内訳を目に見える形で。優しさに泣いちゃうね。




