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2ー1.

「フィリ、何見てたの?」

 更衣室の個人ロッカーに制服をかけ、中に着ている戦闘用ダイビングスーツ1枚になる。

「本当に、序章の三国同盟のページだよ」

「あんなの、小さい時から教えられてるんだから、今更見る必要無いじゃない。耳にタコ…目バージョンってなんて言うのかしらね?」

「それ、シンプルに“聞き飽きた”って言うんだよ」

 女子だけの空間に、柔らかなクスクス笑いが心地良い。水中用のブーツに履き替え、細く柔らかい指が兵器で傷付かないよう、手袋を付ける。

 オルカニア連邦の国民は国民皆兵の国の方針の元、初等教育中盤から完全に男女に分けられ、中等教育が始まる11歳で本格的な軍事訓練を開始する。そして16歳で卒業と同時に軍人として戦場に立つ事になる。希望すれば、だが、そう教育されているため、ほとんどの子どもたちが軍人になる。軍人といっても様々で、保育、託児、医療関係、行政などの職員、街中の清掃員も、この国では軍人だ。もちろん、他の民間職も存在する。小売業、料理人など…、この国で戦闘力を持たない国民は、初等教育課程以下くらいだ。

 オルカニアは全て軍事で回っている。この14歳の少女たちも、あと2年でその社会の一部になる。

(あと2年か)

「フィリ」

 手袋のボタンを留めながら考えていると、チームメイトのシオラが声をかけてきた。

「もう、フィリったら。また頭ボサボサよ?私が結ってあげる。座って」

 シオラの言葉が聞こえたクラスメイトは少し羨ましそうな顔をした。

「いいなー、シオ。チームメイトだからってフィリを好きにできて」

 誰かの声にフィリアもシオラも「言い方」と苦笑した。

「だってフィリ、いつもテキトーなんだもん。戦闘訓練の時くらい、櫛通してまとめておかないと」

 シオラはフィリアのいるチームの中でも少しお姉さん気質だ。ミルクティー色の髪を通っていく櫛に少し心地良さを感じながら、フィリアは一言だけ。

「でも前みたく巻いて縦ロールだけは勘弁して」

 どっと更衣室に笑いが溢れた。

「あれねー!教官たちもちょっと困ってたね!」

「査定に響くと困るんだ」

「フィリ、実技系トップじゃない?そんなに危ない?」

 先に準備を終えていたチームメイトのニーヴが、フィリアの隣に座っていたずらっぽい灰色の目で顔を覗き込む。

「あ、まさか昇進欲?」

「まだ訓練生なのに、そこまでガツガツしてないよ。でも座学があまり良くないから、素直に安全圏にいたいだけ」

「そうだったかそうだったかー」

「そんな言い方しないでよ」

 困ったように笑いながら、フィリアは片手でニーヴの頬を包むように撫でた。

「ニーヴ可愛いんだから、意地悪しないでほしいな」

「…スケコマシよ!」

「え?」

 一瞬静まり返った室内。最初に叫んだのはニーヴだった。

「フィリ、そういうとこ、良くないわ!!」

「え、そ、そう?ごめん」

「髪、今日は三つ編みね」

「シオラも言ったほうが良い!フィリのこういう王子様ムーブかますところ!!」

「王子様って何?」

 キャーキャーと楽しそうな悲鳴の遠くの方で、予鈴が聞こえた気がした。





 戦闘訓練終了後、海中から戻ってぐっしょりと濡れている訓練生たちに、担当教官は今日の出来や次回への課題ではなく「更衣室でも騒ぎすぎないこと」と一言だけ言って、本日の授業が全て終了した。

「更衣室の防音機能、死んだ?」

「まさか。この国で?あり得ない」

 下校も学校での行動も、実技の出撃班であるチームメイトで行動することが多い。訓練生は1チーム5名。フィリアは第5班。お姉さん気質のシオラ、身長も小さく小動物のようなニーヴ、他に座学トップのモイラとしっかり者のイングリズがいる。

「帰り、寄りたいところある?」

 前を歩くイングリズが4人に声をかけた。

「今日はこのまま家に帰りたい」

「私も」

 いつもなら植物ある公園で話したり、軽食を食べに行くが、ニーヴとモイラは用事があるのかソワソワしている。

「急いでる?」

「今日配信の雑誌にアリエリアナ様のインタビュー載ってるのよ!」

 3人同じタイミングで、うきうきと話すニーヴとモイラを見た。

「帝国軍の?女性でしかも最年少で高官になった?」

「他に当てはまる“アリエリアナ様”を知らない」

「お小遣い、まだ残ってたかな…」

 3人とも、腕につけた国支給の個人端末を確認。あ…っと悲しそうに地面に膝をついたのは、フィリア1人だった。

「昨日のフィッシュアンドチップスのイモを増量しなければ…」

「学校にプライベート用のデータ持って行けないし、次の休日に私の家来る?」

 あまりの落ち込みようにシオラが提案したが、フィリアは首を横に振った。

「自分用が欲しい…ダメ元で頼んでみようかな…」

「お父さんに?今日帰って来るの?フィリのお父さん、戦闘部隊の精鋭じゃなかった?よく海中に出てるって」

「今日は帰って来るって言ってたはず…」




この国の住人はおおかた海の男と海の女


誤字がありましたので修正しました。(2026.2.27)

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