15.
※ ほんの少し、残酷な描写があります。
ねえ、あなたは忘れてしまったかしら?
あの日 外は雨が降っていて
傘も差していない ボロボロのあなたが路地裏に座ってて
今にも死んでしまいそうだったから 連れ帰ったこと
この辛い人生が ちょっとでも面白くなりそうな気がして
貴方のその大きな手を 傘も差さないで引っ張った
あの日のことを
「ええ、ですから…わたくしがこちらに来たのはたまたまです」
話の中心人物がいなくなった以上、そのままVIPルームを使い続け、変に勘繰られても困る。ルドヴィクはアリエリアナを連れ、軍本部内のひとけの無い、普段使われないエリアの廊下までやって来た。使わないからか、廊下も薄暗い。
(これ、こっちの方が変に勘繰られるんじゃないかしら…)
先程のドスの効いた声が恐ろしかったのか、とりあえず言われた通りにするアリエリアナ。
「マヌエル殿下が事故で亡くなったのも、本当に突然でした…皇后陛下は2年経った今でも、月命日には必ず喪に服しています。個人の陰謀だとしたら分かりかねますけど、我が国がこの件で連邦を陥れたいという意思はありません」
マヌエルの事故は突然だった。乗っていた車が事故を起こし炎上。あまりの炎で遺体は炭化し、DNA鑑定ができないほどだった。運転手も亡くなったが、皇族が1人亡くなっているため、死体は見せしめに吊るされ、家族も平民に堕とされた。今では生きているかも怪しいところだ。
「これだけ大きな事件になっているのです。実は生きていました、だなんて…我が国も、この件に関してかなり慎重になっていて、わたくしを含め一部の者しかこの件を知らされていません。わたくしがこちらに派遣されたのも、殿下と直接会ったことのある人間だから、という理由からです。じゃないと…来ないわ。こんな国」
アリエリアナの吐き捨てる様な言葉も、ルドヴィクは黙って腕を組んで聞いている。
「殿下が発見されたのは、帝国からもかなり離れた沖の方です。アエリュシオンにも、その周辺の日に飛行物体を飛ばしたか、データを送ってもらいましたが、風や波の動き、フライトデータも大型ドローンのデータも全てあわせても該当はありませんでした。飛んでないんですもの、真っ白」
はあーと、大きなため息が出る。
「消去法です。疑いたくて疑っている訳じゃありません。が、連邦じゃないとありえないんです」
「この国は、国の利益にならない事なんてしないぞ。皇帝の末皇子なんて、毛ほどの役にも立たねぇじゃねぇか」
「あら、それはさっきのわたくしの“こんな国”発言の仕返しかしら?」
「お前めんどくせぇな」
「何ですって!?………はあ、でも殿下がこんな状態じゃ、わかるものもわからないわ。わたくしも無理はさせたくないの。でも、他国で生きられる時間は限られている。殿下がいつから連邦にいたのかわからない…協力してくださらない?」
両手を合わせ、お願いのポーズをして媚を売るアリエリアナに、ルドヴィクは思いっきりデコピンをした。
「痛!!?」
「帝国人の32歳でそれはキツい」
「貴方のその肉体言語はどうにかならないわけ!?私の頭は帝国の精密機械よ!?大事に扱いなさい!!」
「ポンコツの間違いだろ」
「韻を踏めと、誰が言ったのよ!!」
「ギャーギャー喚くな。人が来るぞ、アリエラ」
愛称を呼ばれ、アリエリアナはぴたりと止まる。
「音漏れ気にするなら、室内の方が良かったんじゃないの?ヴィーカ」
連邦の室内防音は三国の中で一番高い。内密の話をしたい場所では、最近だとどこの国でも連邦の防音技術を使っているくらいだ。
「在室記録とかつくんだよ、あれ」
めんどくさそうに、頭をボリボリと搔く。
「そういえば…」
アリエリアナは軍服の端を握りながら俯いた。
「フィリが殿下を見つけてくれたのね。すごいわ」
「あぁ」
「ヴィーカ、ありがとう」
「何が」
足下に、パタパタと水滴が落ちる。
「フィリを生かしてくれて、大きく育ててくれて、ありがとう」
「当たり前だろ」
ルドヴィクはアリエリアナの頬を流れる涙を指で拭い、腕を引き抱きしめた。
「俺たちの子なんだから」
「………うん」
数秒経ってふと気付く。
「アリエラ、軍服にお前の化粧…」
「情緒って言葉、100回書き取りしたらどう?」
真面目な時に言うもんじゃないけど、赤い手拭いマフラー代わりにする歌になりそうなのを必死に軌道修正してました。私も情緒って文字書き取りの刑だわ。




