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13.



 少女達と別れ、フィリアとブレンは軍用車に乗せられ、軍本部へと連れて行かれた。行動を制限するように、ブレンの両側と背後にには、ピッタリと男性軍人たちがついている。一体何だというんだ。

 先行する軍人について行くと、ゲストルームと書かれた部屋の前にルドヴィクとダリウスが待っていた。連れて来られたフィリアとブレンを見つけると、ルドヴィクは真っ直ぐにブレンに向かって行き、胸ぐらを掴んだ。


「ルディ!」


 ダリウスが慌てて止めに入るが、びくともしない。


「う……っ」

「おい、フィリア(俺の娘)を泣かしてんじゃねぇ」


 押すように手を離され、その場に尻餅をつくブレン。

 目には恐怖の色が見える。


「2度目は無い」

「すみません…」


 ダリウスは、ブレンの周りを囲んでいた軍人たちに「お前たちも止めろよ」と軽く文句を言っている。それでも起こしてくれる気配すら無いので、仕方無くフィリアがブレンの手を取って立たせてやった。


「大丈夫?って…聞いてばっかだね」

「ごめん……」


 謝ってはいるけど、きっとブレンはわかっていないだろう。


「あのね、ブレン。帝国はどうなのか知らないけど、この国では、帝国への差別意識がまだ残ってる状態なんだ。嫌いとかじゃなくて、もっと根本的な何か。すぐにどうにかできない何かだと思う。あと、この国の中では人の容姿とかを言うのは良く無いんだ。そういう、差別意識に繋がるから」


 体格も、皆平均的。フィリアの周りの大人、特にルドヴィクとダリウスがたまたま体格に恵まれているというだけで、ほとんどの人間が型で作ったような身長・体型をしている。それが望まれている。


「個性を持つのが帝国では珍しくないんだろうけど、この国では違う。だから、私の見た目の事を言われたのは、すごく、すごく嫌だった。泣いちゃってごめんね」

「ごめん、僕……何も知らないで」


 ブレンの握った手が震えている。

 言葉が足りなかったかな。そうすればこんな、敵だらけみたいな場所で怯える事は無かったのかな。今日からはもう少し、この国の事を話したほうが良いかもしれない。機密に引っかからない程度に、と怯えるブレンを見てフィリアは思った。


「これから覚えていこう。わからないことがあったら、言葉にしてよ。ね?」






「で、何でここに呼ばれたの?」


 通されたのは先程軽く騒ぎを起こしてしまったゲストルーム…ではなく、その奥の奥。訓練生など普段は絶対に行くことが無いVIPルームと書かれた部屋だった。

 中に入ると先日の閣下はいなかったが、それでも階級が高そうな人間が数人いる。ルドヴィクとダリウスを合わせて8人程。見るからにふかふかしたソファがあるのに、こんなに目があるならソファでピョンピョンできない…うずうずと手を伸ばしそうになっているフィリアに、ルドヴィクが無言の圧をかけている。


「ブレンは座ってて大丈夫だぞ。ブレンは」


 ダリウスも ブレンには座るよう促すが、それとなくフィリアに座るなと牽制しているようだ。一体これから何が始まるというのだろう。


 この室内だと末席のフィリアは、ドア近くの壁側に待機姿勢で立っている。少し待っていると、ピッとドアのロックが解除される音がした。

 また人数が増えるのか?目だけ動かして入ってきた人間を見る。

 ドアが開き中に入って来たのは、実際にこの目で見るのは初めてのテオドリカ帝国軍の制服だった。


(ざ、雑誌で見たやつ!)


 帝国軍人が男性4人女性2人、そしてその後ろからカツカツと硬いヒールの音を立てて誰よりも華奢でオーラを放った人物が入って来た。


「遅くなりましたわ、連邦軍人の皆様」


 マントから見える勲章の数は誰よりも多く、帝国でも連邦でも、あまり珍しくない淡いミルクティーのような色の髪は、何本もの三つ編みを作って後ろでシニョンにして纏めている。古い民族風の頭飾りを着け、帝国風の濃いめの化粧に、瑞々しく熟れた柘榴のような口紅。


「初めまして。テオドリカ帝国軍事部防衛司令室特別調整官のアリエリアナ・ククルスカです」


(あ、アリエリアナ様だーーーーーーー!!!)


 推しに会えて体温が一気に上昇し、カクカクと脚が震えているフィリア以外の連邦軍人たちは、皆「魔女が」「なぜ」とざわざわ動揺している。

 その様子を見て、アリエリアナは真っ赤な唇で弧を描いてニッコリとした。


「さすがオルカニア連邦の合理的な建物!どこもかしこも同じ景色で、歩いても歩いても全然見飽きませんでしたわ!!」

「ただの迷子じゃねーか」


 ボソリと、誰かのツッコミに「おい、誰だよ余計なこと言う奴!」と連邦側がまたざわざわしている。声の主がわかってしまって肝が冷えているダリウスとフィリアを除いて。


「閣下、予定より時間を押しています」

「わかっているわ。では早速ですが本題に入りましょう。でもその前に…」


 またヒールの音を立てながら、アリエリアナはフィリアの前にやって来た。

 ヒールを抜いても、フィリアより数センチ身長が高いくらいのだろう。思っていたより小柄で身体も華奢だが、連邦女性には無い豊かな胸が、シワのない軍服を着ていても強調されている。


(わー!生アリエリアナ様が近くにいる!良い匂い!意識飛んじゃいそう!!)

「貴方が、フィリア…エイン訓練生ね?」

「はい」

「閣下!!」


 側近の声を手で制し、アリエリアナは続ける。


「わたくしね、会う人のデータはあらかじめ頭に入れておくのよ。僭越ながら、我がテオドリカ帝国皇帝陛下に代わりまして、このアリエリアナ・ククルスカが感謝をお伝えいたします。我々の帝国国民の命を救ってくれてありがとう、フィリアさん」


 アリエリアナはフィリアと目を合わせ、頭を優しく撫でた。


「いっ、いえっ!めっそうもないです!!」

「ふふふ!かーわーいーいー!ねえエイレーネー、女の子超可愛いー」


 砕けた口調で側近に話しかけるが、エイレーネーと呼ばれたアリエリアナより歳上と思われる側近は、素っ気なく「そうですか」と答えただけだった。


「ねえフィリアさん。私ね、可愛い子が大好きなの。あなたさえ良ければ、帝国に来ない?」


 それまで見守っていただけの連邦軍人もアリエリアナの側近たちも動揺を隠せなかった。年端も行かない子供に、国を捨てさせる事など、どこの国でも大問題だからだ。

 流石のフィリアも言葉に詰まってしまう。だが今ここで発言を許されているのはフィリアのみだ。それに何となくだが、ルドヴィクからの圧が死ぬほど強い。


「で、できません!父に叱られてしまいます!!」


 決死の覚悟で言うと、部屋の中が静寂に包まれた。

 変な事言っただろうか、とフィリアも心配になる。次の瞬間、アリエリアナは腹を抱えて大爆笑してしまった。


「あっはははは!そう!そうよね!!ご、ごめんなさ……ふふふ、あははは!!そう、それじゃあダメね。お父様のご機嫌を損ねるわけにはいかないものね。ふふっ、ごめんなさい。あまりにも、真っ直ぐで。そういうの久しぶりだったから」


 ひとしきり笑った後、アリエリアナは深呼吸してフィリアに向かい合った。


「この場に来てもらったのは、ちゃんとお礼が言いたかっただけなの。貴方はえぇと、ブレンさんの用事が終わるまで、部屋の外で待機していてください。あ、お菓子食べて待ってる?」

「閣下!!」

 エイレーネーの厳しい声を浴び、アリエリアナは「ごめーんねっ」と舌を出し謝った。


 1人部屋を出されたフィリアは、とりあえず待機姿勢で廊下に立っていた。


「若くして将官レベルだから、もっとかっこいいイメージだったけど…」


 頭を撫でてくれた優しい手…


「あったかい人だったなぁ…」






雑誌の中のアイドルですね。

無駄にゲストルームからVIPルームに移動したのは、連邦側の先方への配慮。

そのおかげで迷子になる先方。案内つけてあげて…。

アリエリアナ・ククルスカの頭の飾りは、ココシニクみたいなものです。

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