10ー1.
「これよりフィリア・エイン訓練生がこの機体をジャックします」
この言葉を録音しておいたおかげで、他の少女達に類は及ばなかった。
だがこうして不穏な音声が残っているため、フィリアは軍本部で取り調べを受ける事になってしまった。
「許可無く、海上に出ることは禁止されている」
そんなの知っている。
「何故海上へ向かった?」
「機体の記録を見ればわかることです。操縦システム側では制御不可能でした」
つまり不可抗力だ。
「何故あの海域近くまで行った?制御不可能の原因は、無理な操作が原因だろう」
「あの海域で生体反応を発見しました。回収のために向かいました」
同じような質問を何度するつもりだ。フィリアは正直、辟易していた。
態度に出てしまっていたのか、聴取担当の軍人はイライラし始めている。
「エイン訓練生!たとえ生命反応の回収と言っても、機体のジャックは重大な違反になるんだ!良い加減に…」
「失礼する」
ピッとドアのロック解除音と同時に、仕事中だったルドヴィクが聴取室にやって来た。
「お疲れ様です、エイン中佐」
聴取担当軍人は音を立てて立ち上がり、敬礼する。ルドヴィクも短めに敬礼した。
「すまないな、兵長。家できつく言っておく」
「はあ…エイン訓練生、前回の問題行動といい、これ以上査定下げられないぞ」
少し呆れたように声をかけた兵長の言葉など、ムスッとしたフィリアは聞いていなかった。
部屋を出て先を歩くルドヴィクについて行く。しばらくは2人とも黙ったままだったが、最初に根負けしたのはフィリアだった。
「……ごめんなさい」
ぴたりと歩みを止める。室内灯で明るい軍本部の廊下が、気分もあって心なしか暗く感じた。
「謝ってる顔じゃねーだろ、それ」
前を歩くルドヴィクも止まる。
顔なんて自分からは見えない。けれど納得していない、不貞腐れたような顔をしているのだろう。
「パパ、国の決まりって大切?」
「……当たり前だろ。規則や秩序が無きゃ、国内なんて目も当てられねえぞ」
わかっている。わからないほど子供でもない。
「人の命より大事なの?」
返答は無い。なら、という気持ちで、フィリアは話を続けた。
「軍人になったら、切り捨てなきゃいけない命もあるって言われた。でも、私そんなの嫌だ」
腑に落ちなかった事を話す。何故か握った拳がカタカタと震えていた。
「全部拾い上げるのなんて、無理な事はわかってる。でも、目の前で助けられなかった方が、絶対辛い!」
背を向けていたルドヴィクは振り返り、フィリアの握っていた手を取り、指一つ一つをゆっくり開かせた。力を入れすぎていたのか、爪が食い込んで血が滲んでいる。
「目の前の人命も大事だが、それを優先した結果、お前は仲間の命を脅かした」
ルドヴィクの目線は血の滲んだ手のひらのまま。その手を優しく握っている父親の手にフィリアも目を落とす。
そういえば、そうだった。仲間の情報が無ければ…あの場所から離れてられていなければ…今頃アエリュシオンの兵器で死んでいた。
(あそこまで連れて行ったのは、私だ…)
「ごめんなさい」
心底後悔した。声色に出ていたのか、その言葉を聞いたルドヴィクは、フィリアの頭をポンポンと優しく撫でた。
「仲良くしろよ。長年小隊組むメンバーにだってなるんだから。わだかまりがあったら厄介だぞ」
くるりと後ろを振り返り、また歩き始めたルドヴィクが向かった先は、出口…とは反対方向。
「え、パパどこ行くの?」
「医療棟。フィリ、何か拾って来ただろ。呼ばれてんだよ。」
「えー…」




