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6.



「ヴィーカ」


 瑞々しい、形の良い唇が呼ぶ。この名前で呼ぶ人間は、世界で1人しかいない。

 声の方を見れば、ふわふわのミルクティー色の長い髪、大きな葡萄酒色の目をキラキラとさせ、小柄な身体で背伸びをし、両手を広げた女がいた。

 あぁ、これは夢だとルドヴィクは思った。この女がここにいるはずが無い。頭でわかっているが、夢の中の自分は、幸せそうに笑う女を抱きしめて名前を呼んでいた。

 遠い昔の記憶。女の感触や温もりはまだ憶えている。それが虚しくて、余計に辛かった。


 場面が変わった。見覚えのある風景だ。税関施設の無機質な一室。女と、まだ小さかったフィリアがいた。初めてフィリアを見た時のルドヴィクは、初対面の子供だからと言うより、年齢にしては小さく、痩せ細った姿にひどく驚いた。


「貴方の種なんだから、貴方も育てて」


 女は無感情に言い放った。きらきらしていた大きな目は、軽く充血している。見れば、フィリアと繋いでいない方の手は、爪が食い込むくらいぎゅっと握られ、震えていた。

 駆け寄ることはできない。心配することも、慰めることも。ルドヴィクには権限が無かった。唯一この場で許された行動は「わかった」の一言だけ。目を合わせることすら、許されない立場だった。


 月の無い暗い部屋。

「ごめんなさい、ごめんなさい、」

 遠い記憶の中の女が崩れるように泣いている。

 そこで夢は終わり、眠りから覚めた。


「…最悪」


 枕に顔を埋め、ルドヴィクは吐き捨てるように呟いた。





種って言うな

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