表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/98

人生初めてのホワイトデーは……

「ああ、そういやそろそろホワイトデーかぁ……」


 ふらっと寄ったコンビニで、ホワイトデーと書かれたポップをみて、思わずそう呟いた。


 3月14日は、バレンタインデーのお返しの日であるホワイトデー。

これは日本独特の風習であり、1970年代から始まったそうな。


 去年まではホワイトデーなんて"ふーん"と思う程度だった俺。


 でも今年は……いや、"今年からは"この日に対して真剣に向き合わなければならないのだろう。

なにせ、俺には今「花守 花音」っていう、超絶可愛い恋人がいるのだから。


 それに今年に限ってだろうけど、花音の親友の種田さん、文化祭の時から普通に話せるようになった吉川さんのグループや、田中さんからもチョコレートをいただいている。

 樹もなんだかんだと言って、コンビニで使える500円クーポンを送ってくれてたし……。


 人生初のホワイトデーがまさか、こんなにも大ごとになるなんて……。

そろそろ真面目に、何でお返しをしたら良いか考え出すべき時である。


 でもみんな性格とか趣味嗜好が全然違うっぽいし、一体どうしたら良いのやら。


 そんなことばかり考えていると、あれよあれよという間に時間が過ぎてゆき、何も決まらないままホワイトデーを週末に控えたある日のことーー


「ねぇ、葵くん、今週末ってホワイトデーじゃん?」


「んぐぅっ!?」


 いつものように花音と東屋でお昼を取っている時のことだった。

まさか、花音からその話題を振ってくるとは……


「そ、そういえばそうだね……。それが何か?」


「あのさ、もしまだお返しが決まってなかったら、お願いがあって……」



●●●



 そうして迎えた、週末のホワイトデー当日。


 どえらいことになったしまった俺は、朝から自宅の庭にキャンプ用の椅子やテーブルと並べたり、ダッチオーブンを用意したりと大忙しだった。


「お、おい、葵……お友達が来たぞ……?」


 苦笑いを浮かべた父さんが呼びに来たので急いで店前へ回る。


「あ、あ! お、おはよう、香月くんっ!」


「ど、どうも。田中さん、早いんですね……?」


 家に1番乗りしてきたのは、文化祭以降、毎朝教室に入ると必ず挨拶を投げかけてくれる田中 美海さん。

 普段はおとなしくて、地味な印象が強い彼女だが、普段着が凄く女の子っぽいふわふわしたもので、いつもと印象がまるで違う。

 というか、普段とのギャップがあり過ぎて、思わず見惚れてしまう俺だった。


「や、やっぱ似合わないかな? 私にこういう格好……」


「あ、いや……そんなことは! 凄く似合ってるし、良いと思う!」


 そんな拙い賛辞だったが、田中さんは凄く嬉しそうに微笑んでくれた。


 なんとなくちょっとおどおどしているところとか、髪が真っ黒なところとか。

そんな色んなところが昔の樹に似ている田中さんへは、以前から勝手に親近感を覚えていたりして。


「あーっ! 浮気してるぅ!」


「ウチらもまぜろー!」


「まぜろぉー!」


 と、明るい声を放って、次にやってきたのは我がクラスの"ギャルい三連星(本人達自称)"の吉川 穂奈さん、三宅 秋華さん、桜井 翔子さんの3人組。3人ともばっちりメイクも、服も決めていてとても可愛い。こういう人たちと、仲良くしていることが、今でも信じられない俺である。


「んじゃ、浮気記念に5人で証拠写真撮っちゃおー!」


「これって、いわゆる文々砲ってやつだよねぇー!」


「タイムラインにアップしちゃおー!」


「お、おい!?」


 と、破天荒なテンションで俺を囲み始めるギャルい三連星。


 なぜか、ちゃっかり俺の前を陣取って一緒に写ろうしている田中さん。

 

 そして壁からうっすらと顔を出し、般若のような目つきで俺のことを睨んでいる我が母親。

いや、違うんだ母さん、これは……!


「待ちなさい、あなたたち! 正妻様の御成よ!」


「ちょ、ちょっとタネちゃん! そういうのやめてよぉ!!」


 そして最後に現れたのは種田さんと、今回のホワイトデーパーティーを企画した花音。


 とりあえず、撮影云々は後回しということになり、みんなを準備万端な庭へ案内し、出来上がるまでくつろいでもらうことに。


ーーホワイトデーは、せっかくだから俺手作りのお返しスイーツをみんなで食べたい。

先日、花音がそう提案してきて、本日のこのカオスなパーティーが成立してしまっていたのだった。


 というか……誰が俺にバレンタインにチョコを渡していたか花音へは話していないのだが、全てを把握している我が彼女の情報収集能力の高さには甚だ驚きを隠しきれない。さすがは陽キャで、クラスの中心人物の花音だと思った。

 そんな子が今や、俺の彼女。人生何が起こるか、全くわからないもんである。


 ではそろそろ調理開始!


 まずは人数分のリンゴを用意し、芯の辺りをくり抜いて穴を形作る。

その穴の中へ砂糖、バターを入れ、シナモンを振りかける。

あとは下処理をしたリンゴをアルミホイルで巻いて、チンチンに温まっているダッチオーブンの中へ入れて、待つだけ。


「お待たせしました、"焼きリンゴ"です!」


「「「「「「おおおおおーーーーーー!!!」」」」」」


 出来上がった特製"焼きリンゴ"を目にしたみんなは、とても嬉しそうな声を上げてくれる。


「わぁ……これ美味しい……! やっぱ香月くんってすごいなぁ……! 花音ちゃん、良いなぁ……」


「美海ちに同意っ! かのちゃんの自慢の彼ぴだもんねー?」


「んふふ、だってよ、かの?」


 花音はみんなにそう言われて、顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにプルプルと肩を振るわせている。


 なんか、俺よりも花音の方が褒められてるような……?


 まぁ、良い。みんなが喜んでくれてるのなら。


そうしてホワイトデーのお礼である、焼きリンゴパーティーは盛りに盛り上がって、スモアまで提供してお腹がいっぱいになったタイミングで……


「おーっし! このままのテンションでカラオケ行こー! 今回こそは美海ちも連れてくからねー!?」


「ああうう……私、童謡しか歌えないけど、笑わないでね……?」


 とそんな感じで、吉川さんを先頭にみんなはカラオケへ行く流れとなっていた。


「葵くんは後で合流でいいかな?」


「おう、片付けがあるから」


「わかった! まってるねぇー!」


 花音もまたみんなと先にカラオケへ向かってゆく……が、数歩進んだところで踵を返して、タタっとこちらへ駆け込んできて、


「っ!? か、花音!?」


 急に抱きつかれ、さらに頬へキスまでされ驚く俺。

そんな俺のことを見て、花音はにひひといった笑みを浮かべている。


「したくなったからしちゃった! じゃ、またあとでねぇー!」


 全く油断も隙もあったもんじゃない。

だけど、それだけ花音は俺のことを好いてくれているわけで。

俺自身も、そんな花音のことが大好きなんだと再認識する。


 さて、そろそろ片付けと同時に、"あっち"の方もすませておかないと。


 スマホを取り出し、久しぶりに"樹"のトークルームを表示する。

そして、コンビニで使える1000円分のクーポンコードを送信し、その上で……



A.KOUDUKI『ホワイトデーだから』



 花音が焼きリンゴパーティーをすると言い出した時、一瞬だけ樹も誘おうかと考えた。


 でも、樹はそろそろ留学が迫っているので、引っ越しで忙しそうだし……それに、なんとなくだけど、誘っても断られるような。

そんな気がしたのだ。



樹『ちゃんと倍返し』


樹『偉い』


樹『同額だったら、友達辞めるとこだった!』



 そんな短いメッセージの後に、マスキュラーポーズをとる筋肉ムキムキな擬人化黒猫のスタンプが送られてくる。

 相変わらずの樹の妙なセンスに吹き出しそうになったり、いつも通りだったのが嬉しかったり。



A.KOUDUKI『さっきまで、ホワイトデーのお返しとしてみんなに焼きリンゴを振舞ってて』



樹『モテるようになった自慢?』



A.KOUDUKI『まぁ、そう』



 樹だから理解してくれるだろうと、軽口のメッセージを返す。

 だがすぐに既読が付くも、メッセージは返ってこず。

 やっぱり誘わなかったことに腹を立てているのだろうか、それとも冗談がすべったか? ……と、思っていると急に着信が……!?


「お、おう……久しぶり……!」


 おそるおそる平静を装って電話に出る。

こうして樹と通話をするのは、冬キャンプ以来で、とても久々だ。


「ん。こうやっておいくんと直接お話しするの久々だね」


 樹の声も以前とは変わらない気がした。

そのことがとても嬉しいと思う俺がいる。

だけど前みたく映像通話じゃないのは、樹なりの俺との関係の線引きなんだと思う。


「急にどうしたんだよ、電話なんてしてきて?」


「よかったね!」


 棘もなく、素直に賛辞を送ってくている樹の声を聞き、胸に熱いものが宿る。


「うん、よかった。去年じゃ、こんなこと考えられなかったし……」


「花音ちゃんのおかげだね!」


「ああ。でも……」


「ん?」


「やっぱ、その、ちょっと……樹がいないのは、物足りなかったっていうか……」


 思わず本音が溢れ出た。すると電話の向こうの樹は"あは!"と妙に明るい笑い声を上げる。


「誘われても断ってたよ。いま引っ越し作業で忙しいし!」


「そ、そうだよな……悪い」


「んーん。でも、そうやって僕のことを、今でも考えてくれててありがと。すっごく嬉しいよ、そういうの……」


「出発、来週だったよな。当日は花音と一緒に見送りに行くからな」


「ん! 僕も花音ちゃんに会いたいからさ、必ず来てよね?」


「ああ、もちろん!」


 そこで会話が取り切れたことがきっかけで、俺と樹はそそくさと通話を終えるのだった。


 そうして耳の中へ未だに残り続けている樹の声を反芻すると、先ほどまでのやりとりのような関係が、やはり俺と樹には相応しいのだと改めて感じる。


 付かず離れず、男女の垣根を超えた、なんでも気軽に話せる"マヴダチ"という関係を、樹とはこれからも続けて行きたいと思う俺だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ