最終話 これからもみんなで楽しいキャンプライフを!
「わぁー! この空気ひっさびさぁー!」
花音は森の空気を目一杯吸い込んで、大きな胸をより大きく膨らませていた。
彼女のマウンテンパーカー姿も久々に見られれて、なんだか懐かしい。
俺も俺とて、久々のキャンプなので今からワクワクドキドキが止まらない。
しかも今回、地元に新しくできたこのキャンプ場を選んだ訳はーー
「よぉ、葵!」
「お久しぶりです、高橋さん! ようやく来れました!」
キャンプの師匠である高橋さんは、長い放浪生活の末、俺の地元の山奥に素敵なキャンプ場を開いてくれたのだ。
人生の師匠が、地元に帰れば居てくれる。
これほど有難く、嬉しいことはない。
「いくら俺のキャンプ場だからって、彼女とテントで変なことすんなよ?」
「し、しませんよ! それにそういう発言って、花音に対してのセクハラ発言ですよ!」
「あは!」
と、そんな冗談まじりな会話をしつつ受付を済ませ、再び車へ乗り込んだ。
ここはオートキャンプ場なので、サイトの近くまで車での乗り付けができる。
車に乗り始めてつくづく思うのだが、これだといろんなキャンプギアをぎっしり持ち込めるので本当に便利だと思う。
「じゃあ早速サイトの構築を!」
「ラジャー!」
と、早速サイト構築を始めようとした時のことーー
「かのー! 久しぶりー!」
「わぁ! タネちゃーん!! 来てくれてありがとぉー!」
仲間の一番乗りは花音の親友の種田 菜種さんだった。
彼女は高校卒業後、美容専門学校を経て、今では都内でスタイリストになるべく日々奮闘中である。
次いで、吉川さんや田中さんのグループも続々と合流し、その度花音はキャッキャとはしゃいだ様子を見せている。
と、そんな中、花音たちの脇を通り過ぎてゆく、2台の大型バイク。
「よっ! 香月!」
「お待たせぇ〜!」
剛田くんと骨川くんは高校を卒業し、俺が地元を離れても、男友達として付き合ってくれていた。本当にありがたいことだ。
「じゃあメンツもほぼ全員揃ったってことで、一気にサイトを作っちゃおー!」
花音の元気な一声で、俺たちは改めてサイトの構築を始めた。
そうしてあと少しで、サイトの完成がしようとしていた時のことーー
「み、みんな……ひ、久しぶり、ですっ!」
「樹ちゃんっ!!」
花音は手にしていたハンマーとペグを放り出した。
そして成人しても尚、相変わらず男みたいな格好をしている樹へ飛びついた。
「会いたかったよ、樹ちゃん! 本当に……!」
樹も感極まった様子で、花音のことを抱きしめ返す。
「僕もだよ、花音ちゃん……! いつも、応援へ来てくれたのに、なかなか会えなくてごめんね……」
「ううん、良いの。いつかまたこうやって会えるって信じてたから……金メダル、おめでとうね!」
「ありがとう、僕頑張ったよ……!」
花音と樹はこの5年間、ことあるごとにRINEでメッセージを送りあっていた。
しかも俺と喧嘩をした日にゃ、花音は樹と延々と通話をしていて、最後に俺が樹から電話越しに叱られて……そんな風に俺たちはこの5年間過ごしてきた。
俺よりも花音の方が、すっかり樹のマヴダチである。
「てかさ……花音ちゃんは真っ先にこうしてお祝いしてくれたのにさ……おいくん何も言ってくれないの酷くない?」
樹はジト目で俺のことを睨み、苦言を呈してくる。
「ああ、悪かった。おめでとう」
「えー? それだけ? 僕、中学の時、君に言われたからこれまで頑張ってきたんだけど?」
「そうだよ! もっとちゃんとお祝いしてあげなきゃダメだよ葵くん!」
まさか花音までもが援護射撃をしてくるとは予想外だった。
これで生半可なお祝いの言葉を送った日には、余計に花音と樹の怒りを買うと思ったのでーー
「樹、金メダルおめでとう! めっちゃ頑張った! すごい! 俺、ずっと信じてたぞ、樹なら絶対にできるって!」
「あは! いっぱい褒めてくれてありがと、おいくん! でも、僕はまだまだ前に進むからね! だからこれからも花音ちゃんと一緒に応援よろしくね!」
「ではではー! 挨拶もそれぐらいということで、乾杯にしましょ!」
と、高校時代から仕切り屋の種田さんに促され、俺たちはバーベキュー台を囲みつつ、ビールや缶酎ハイやら、思い思いのお酒を手に取る。
ちなみに、全て香月酒店提供の品々だ。
「あれ? 花音ちゃん?」
ふと、樹はジュースの缶を握っている、花音の左手へ視線を寄せている。
「え? あ、う、うん、まぁ……」
「ああ……!」
「か、確定じゃないから……でも一応、お酒はやめとこうかなって……葵くんにもまだ言ってないし……」
「そっか、そっか! だったら、あっちの方は良い機会だからみんなに発表すれば?」
樹にそう言われた花音の頬が一瞬でカッと真っ赤に染まる。
どうやらあの件に関して花音は樹へは話していたようだ。
「い、良いよ、今日は! 今日は樹ちゃんの金メダル獲得のお祝いだし……」
「別に大丈夫だよ! それにさ、さっきからみーんな、おいくんと花音ちゃんの手にある"ソレ"が気になって仕方がないっぽいよ?」
そこまで言われては、いよいよだんまりを決め込むわけにも行かず。
俺と花音は揃って、左手を皆へ掲げた。
左手の薬指では、先日俺が送ったシルバーのリングが輝きを放っている。
「どっちが言う?」
「あ、葵くんが言ってよ!」
「わ、分かった……えっと……俺たち……!」
みんなの視線が一気に俺へと集まる。
正直、めちゃくちゃ怖いが、ここまできたら言うしかないっ!!
「大学卒業したら……け、結婚しますっ!」
俺がそう宣言した途端、樹をはじめ、皆が万来の拍手と嬉々とした歓声を送ってくれる。とはいえ、みんなの表情から「そうなるなんて、昔からわかってた(笑)」的な雰囲気が伝わってくるのだった。
まさか、かつては隠キャでボッチだった俺に、こんな日が本当に訪れるとは……人生何があるかわからないなと思った次第。
だから人は誰と出会うか、誰と付き合うかで変われるのだと感じている。
「では、今日は! 木村 樹さんの金メダル獲得と、かのが、"香月 花音"になるお祝いとして! かんぱーい!」
種田さんの発声で、乾杯をする俺たちだった。
と、そんな中、なぜか俺の脇腹を花音がツンツン突いてくる。
「ねぇ、あのご家族困ってるみたいじゃない?」
そう言われ花音と隣のサイトへ視線を向けた。
そこには家族連れのキャンパーが居て、少々困った様子を見せている。
どうやら、上手く火付ができないらしい。
奥さんも、お子さんもウズウズしている様子だし……ちょっと空気が微妙になりそうな雰囲気だ。
「行ってみるか?」
俺がそう問いかけると、花音はにっこり微笑んだ。
「行ってみよ、葵くん!」
「おう! みんな、悪い! ちょっと隣のサイトへ行ってくるから、少々お待ちを!」
俺と花音は2人で、困っているご家族のところへ向かってゆく。
これからもこうして花音とは手を取り合って、明るく、楽しく過ごして行ければと思う。
そして近い将来、お隣のご家族のように、奥さんになる花音と、いつかできるだろう俺たちの子供とのキャンプを……!
って、今日に限って花音がジュースを選んでいたってことは、もしかして……!?
★おわり★
ここまでありがとうございました!
まだ評価などがまだな方はこの機会にぜひ!
明日より番外編を掲載して行きます。
引き続きよろしくお願いいたします!




