第83話 ファーストキス?
「じゃあ、みんな! せっかくだから、この場で開封しましょ! 自分が用意したものを宣言したい人はご自由にどーぞ!」
かくして種田さんの号令で、プレゼントの開封の儀が始まった。
種田さんはお風呂セットだったり、剛田くんにはお菓子だったりと、無難だけど、まぁまぁ喜ばれるプレゼントがお披露目されてゆく。
「わぁ! メスティンだぁ!!」
そして花音の番となり、彼女は獲得したハンドルと蓋がグリーンのメスティンをとても喜んでいた。
まさか、俺と同じメスティンをプレゼントとして用意した人がいるだなんて。
しかも、そのメスティンを用意したのはーー
「あは! 良かった! 僕のを花音ちゃんが貰ってくれた!」
と、花音とはやや離れたところにいる樹が、送り主であることを告白していた。
「ありがと、樹ちゃん! 大事に使うね!」
そうして開封の儀は進んでゆき、いよいよ、俺の用意したプレゼントを獲得したーー
「あ、あれ? 僕もメスティン……!?」
なんということだろうか。
俺の用意した"青のメスティン"は樹の手へ渡っていたのだ。
「も、もしかして、これの送り主って……!?」
「お、俺だ……まさか、色違いを選んでいただなんて……」
恥ずかしながらそう告白する。
するとなぜか、花音が微妙な乾いた笑いをしていることに気がつく。
なんだろ、あの変な顔?
やがて、俺の番が回ってきて、ショッキングピンクの包みを開くと……
「へ!? 俺もメスティン!?」
赤いハンドルに、赤い蓋のメスティンが俺の手元に。
「あ、えっと、それ、私の……! まさか同じメスティンを用意している人が、もう2人もいるだなんて……」
花音が消え入りそうな声でそう告白してくる。
俺のメスティンは樹へ、樹のものは花音へ、花音のは俺へーー つまり俺たち3人は、同型他色のメスティンを購入し、それぞれ送り合った形となってしまったのだ。
驚きはある。
でも同時に俺は嬉しさを感じていた。
この色違いのメスティンが、これからもずっと、俺と、花音と、樹のことを繋いでくれる。
そんな風に思うからだった。
●●●
パーティー自体は程よいところで終了し、男子は男子の、女子は女子のテントへ入り、床に着いていた。
だけど俺は剛田くんと骨川くんがちゃんと寝ているのを確認したのち、ザックの奥底に隠していた本命プレゼントを手に、外へ出る。
さすが真冬だけであって、とても寒い。
そんな中俺は指先を震わせつつスマホを操作して、
A.KOUDUKI『話ししたいんだけど』
A.KOUDUKI『テントの外に出て来れる?』
そうメッセージを送ると、ややあって、毛糸の帽子に分厚いブランケットをマントのように羽織った、モコモコてるてる坊主みたいな格好をした花音が出てくる。
「す、凄い格好だね……」
「だって、寒いんだもん!」
とはいえ、こんな格好をしていても花音は可愛い。何かのマスコットのようだ。
「で、話って?」
「ちょっとあっちで夜景見ない?」
もしも誰かに見られたら恥ずかしいので、そう提案する。
すると花音は二つ返事で了承してくれた。
俺たちはサイトから少し離れた、景色の開けたところに腰を据える。
すでに深夜を迎えてはいるが、目下の盆地には数多の輝きが存在し、クリスマスイルミネーションさながらの様相を呈していた。
「うう……寒い……」
「こっち入る?」
花音はちょっと不安そうに俺の顔を覗き込み、ブランケットを開いた。
今すぐ、そこへ飛び込みたいが、その前に……俺はずっと、花音からは見えなように隠し持ってた、本命プレゼントを掲げる。
「メ、メリークリスマス!」
「ふぁっ!?」
予想外だったろう花音は素っ頓狂な声を上げていた。
同時に頬はどんどん赤くなって行き、目元は嬉しそうに丸みを帯び始める。
「ありがとう、葵くん! すっごく、すっごく嬉しい! 今開けても?」
頷きを返すと、花音は受け取ったプレゼントの包装を丁寧に紐解いて行く。
「あ、これって……これって、まさかっ……!」
花音は包みの中ら出てきたOD缶と流線型をしたガラスの円筒に青い瞳を輝かせている。
「ルミエールランタンっていうんだよ、これ」
プレゼント交換用のメスティンを買いに行った時、店先で見つけたこれ。
ぶっちゃけ、ガス缶無しで5000円以上はするものである。
これって色んな意味で有名だし、花音も知っているだろうし、たぶん喜んでくれるかと思い、勢いで購入したものである。
「これ、ずっと欲しかったやつよだよぉ! ありがとぉ、葵くんっ! さっそく点けよっと!」
花音は手際よくOD缶へガラスのランタンを接続した。
点火スイッチをひねれば、あっという間にガラスの円筒の中へ、温かみのある蝋燭のものによく似た炎が浮かび上がる。
だけどそれを見て、花音はやや不満げな表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「なんかちょっと光量弱いなって」
「まぁ、この穏やかな光量が売りの一つだから……っ!?」
突然、頭上から柔らかい何かが覆い被さって来た。
壁ができたおかげで、穏やかな光量が反射によって、強まる。
「わぁ! やっぱりこうした方が明るいし、葵くんもあったかいよね!」
「そ、そうだね」
俺と花音は寄り添いながら、一枚のブランケットを頭からかぶって、暫しルミエールランタンの炎を楽しむ。
淡い炎に照らされている花音の横顔は本当に綺麗で。ここ最近、欲しくてたまらないと思っている花音の唇も輝いているように見えて、俺の胸の鼓動とか、他色々が熱を帯び始める。
「ね、ねぇ、葵くん……私、今日は、葵くんみたく個人的なプレゼントを用意してないんだけど……」
ふと花音はすごく申し訳なさそうに、そう言ってきた。
「そ、そりゃ、まぁ、しかたないよ。お気になさらず……」
「やだよ、こんな素敵なものをいただいて、何も返さないだなんてできないよ」
ちらりと花音は熱っぽい視線をこちらへ向けてきた。
それだけで、俺の体温が急上昇を見せる。
「……今の私で、葵くんにお返しできるものって、ある……?」
花音は青い瞳を震わせつつ、頬を赤く染めてそう言って来た。
たぶん、大丈夫。これはきっと。そして花音も、期待してくれている。
だったら……!
俺は花音の青い瞳に自分の姿を映し出す。
「んっ……」
花音はそっと目を閉じ、僅かに顎を上げた。
俺はそんな花音へゆっくりと近づいて行き――生まれて初めて、異性の柔らかさを唇で感じた。
ファーストキスは想像以上に気持ちよく、なによりも強い幸福感を得るものだった。
「ようやくして貰えた……」
キスを終えると、花音はややため息混じりにそういった。
「も、もしかして待ってた?」
「そうだよ! だって私たち、付き合いだしてそろそろ3ヶ月だったんだよ? なのにさ、葵くん、全然手を出してくれないし……私って、そんなに魅力ないのかなって、ちょっと凹んだりしてたんだから……」
「ああ、それはごめん……」
むしろ魅力がありすぎて、手が出しづらかったというのが本音である。
「もう一回、しよ?」
「ああ」
一度してしまえば、2度目はそんなに躊躇いもなく。
それでも胸を高鳴らせつつ、もう一度唇を重ねあうのだった。
「えへへ……3回目、いただきました……!」
「え? 2回目じゃ?」
「あ、え、えっとね……ここで、葵くんへ衝撃の告白が……」
この告白は本当に衝撃だった。
まさかいつぞやのキャンプの時、俺の唇は一度花音に奪われていたとは……。
となると、花音はその時から俺へ好意を寄せてくれていたようなので、今日この日まで随分待たせてしまったことを申し訳なく思ったり。
ーーでも、俺と花音はもう恋人同士で、キスまでしてた。
これはそれだけお互いを想い合っている証拠。
ならもう、ためらったりはしない。
そしてこれからも花音との関係を、どんどん深めて行きたい。
そう強く思うのだった。




