第81話 クリキャン! 葵の男の料理!
花音『ようやく期末テストも終わったということで」
花音『みんなでクリキャンの準備を頑張ろう!』
花音『交換用のプレゼント、忘れないでね!』
そんな花音のポストが先日設立された、クリキャン用のトークルームへ舞い込んできた。
そしてただいま、俺はクリスマスキャンプーークリキャンーーで行われる、プレゼント交換で使うプレゼントをアウトドアショップにて選定中だ。
今回は男女混合で、しかも俺にとっては人生初のプレゼント交換。今まで、親以外にプレゼントなんて贈ったことのない俺は、現在とても困っております。
まぁ、今回はキャンプなので、関連したもので良いかと"ハンドルと蓋が青色のメスティン"を購入することに。
メスティンだったら、なんとなくみんな知っているだろうし、お弁当箱にも使えるだろうし、良いだろうと。
無事、交換用のプレゼントを購入し、帰宅しようとしたその時。
季節柄なのか、店頭に飾られていたソレに目が止まる。
なんとなく、ソレをみた途端、花音に似合いそうだと思った俺は……
「まぁ、当日渡せなくても、後々本当のクリスマスに渡せれば、良いかなぁ……」
ーーかくして、準備が整った俺たちは、クリスマスキャンプの実施場所である"高台のキャンプ場"へ向かってゆく。
ここは俺と花音の住む場所よりは、どちらかというと、樹が住む街に近いキャンプ場だ。
なぜ、ここを選んだのかというと……
「すごぉーい! 街が一望できるぅー!」
俺と一緒に、先にキャンプ場入りしていた花音は、とても興奮した様子を見せていた。
ここは高台にあるキャンプ場で、目下の街を一望できる。クリスマスキャンプにはうってつけの場所なのだ。
やがて続々と、種田さんや剛田くんたちがやってきて、最後のあたりにーー
「久しぶり、樹ちゃん!」
「ん! ホントだね、花音ちゃん!」
すっかり樹と仲良くなった花音は身振り手振りで、来訪を喜んでいた。
「それじゃあ、クリキャン準備の開始よ!」
そして種田さんの一声で、クリキャンの準備が始まった。
剛田くんや樹はサイトの設置、種田さんや花音はそのサイトをクリスマスらしいガーラントや装飾で飾り付けを始める。
さて、じゃあ俺も自分の役割を始めますか!
まずは焚き火台でいつものように火起こし。
良い具合で火が起こり、そこへ備長炭を投入。
今回は火持ちの良さが肝心なので、少し奮発して備長炭を用意したのだ。
あとは備長炭に火が着くの待つだけなので、その間に食材の下ごしらえへ。
「ねぇねぇ! 葵くんの料理、見てても良い!?」
と、青い瞳をいつも以上にキラキラさせた花音がひょっこり姿を現す。
「良いけど、他の準備は?」
「もうほぼ完了したし! だからタネちゃんが葵くんのところ行っても良いよ、って!」
「そうなんだ。まぁ、良いけど……」
「よかったらさ、説明しながらやってくれる?」
「わ、分かった……」
俺より遥にお料理スキルの高い花音に説明するのはぶっちゃけ恥ずかしいのだが、期待されているのだったら仕方がない。
「じゃあ始めるぞ」
俺は発泡スチロールの保冷庫から取り出したのは、丸鶏……つまり鶏肉一羽分だ。
「まずは丸鶏に塩、胡椒、クミン、パプリカパウダーをふりかけよーく揉む! あとで油で落ちちゃうから、結構多めで問題なし。あと塩以外のスパイスはお好みでアレンジOKだから」
「ふむふむ!」
次に取り出したのは冷凍食品のピラフ。
「このピラフは丸鶏のお腹の中に詰める。口は爪楊枝なんかでしっかりと塞ぐ」
「中に入れるのってピラフ以外でも良いのかな?」
「もちろん! パスタでも、ビーフンでも、野菜とかでもいいよ。焼く過程で鶏の脂が染み込んで凄く美味しくなる。でも、野菜の場合は根菜類が適してるかな?」
「そっか、じっくり火を通すから根菜類がいいんだね。なるほど!」
料理のことで花音が唸ってくれている。なんと喜ばしいことか!
なんかだんだんテンションが上がってきたぞ!
そうして丸鶏の下準備は終わったので、焚き火台の確認へ。
焚き火台では既に備長炭が赤々と燃えていた。
「じゃあ、そろそろ食材をコイツへ!」
「わぁ! これがダッチオーブンかぁ! 本物初めて見たぁー!!」
黒光りする鉄製の分厚い鍋ーーダッチオーブン。
アシスタントを卒業するとき、記念にと高橋さんが譲ってくれたもので、完璧なシーニングが施されている極上の品で、今でも大切に使っている。
「こっからはもうほとんど解説することないぞ。まずはダッチオーブンへ厚めに輪切りにしたニンジン、半分に切った玉ねぎ、ジャガイモは丸ごと、を底へ敷き詰める。ちなみに今回、ニンジンと玉ねぎはみんなで食べやすいように切ったけど、切らずに丸ごと入れても全然OK! で、その上にさっき加工した丸鶏を置く!」
「豪快だね! 男の料理って感じ!」
「はは、確かに! 最後にローズマリーを振りかけて、蓋をして……」
蓋をしたダッチオーブンを、焚き火台の上に設置した五徳の上へ設置。
「あとは蓋の上にも火のついた炭を置いて、30分位待つだけ!」
「うふふ! どんな焼き上がりになるんだろうなぁ……楽しみだなぁ!」
そう楽しげに語る花音に、俺は心奪われていた。
もっと正確に言ってしまえば、さっきから楽しげな言葉を紡ぎ続けている、彼女の唇にだ。
花音の血色が良くて、ぷっくりとしているそこに早く触れてみたい。
最近の俺はそんなことばかりを考えてしまっている。
「な、なぁにさっきから私のほうばっかりみてるの……?」
すると俺の視線に気付いたのか、花音が熱い視線を寄せてくる。
たったそれだけで、胸はドキドキしだすし、体の芯が熱くなる感触を得るというか。
もしもここが少女漫画の世界で、俺がオラオラ系の登場人物だったのなら、勢い任せにキスでもしてたんだろうけど……
「あ、いや……なんでもない……」
やっぱり恥ずかしさのあまり花音から目を逸らしてしまう俺だった。
「そんなわけないじゃん。わかってるんだから! えいえい!」
「うはっ!? だから脇腹つんつんやめっ……!」
「言え言えっ! このこのぉー!」
「ああ、もう! 相変わらず花音は可愛いなって、見惚れてただけだよ!」
「ふぁっ!?」
花音は珍妙な声を上げた。
薄闇の中でもわかるほど、頬が真っ赤に染まりだす。
「ありがと、葵くん……! 葵くんも、すっごくかっこいいよ?」
「そ、そうか?」
「うんっ! 私の自慢の彼氏っ! えへへ!」
自分が世に言うイケメンでないことはわかっている。
だけど、花音が言ってくれるその言葉だったら信じることができる。
「ありがとう、花音。これからも花音にそう言ってもらえるよう頑張るね」
「別にあえて頑張らなくてもいいよ〜。そのまんまの葵くんが私、好きなんだから!」
そんな風に嬉しい言葉を言い続けてくれている花音の唇を、やっぱり注目しちゃったりして……ちらっと、横目で周りの様子をみてみると、みんなはこっちの方を見ていなくて……だったら、今が花音とキスをするチャンスなのではないかと……!
「あ、葵くん! なんかちょっと焦げ臭い匂いがしてるよ!?」
「ええ!?」
花音の慌てた様子の言葉で現実に引き戻される。
やっぱり料理をしたり、火を使ったりするときは、そっちに集中しなきゃと反省する俺なのだった……。




