第80話 クリスマスの予定
「本格的に寒くなる前にさ、俺らで一度ツーリングキャンプしねぇか?」
剛田くんは特盛ごはんに、唐揚げといったワイルドなお弁当をガツガツかき込みながそういってくる。
「お! 良いね! 大先生はいかがですかな?」
サンドイッチを摘んでいる骨川くんも乗る気なようだ。
「やろう! ぜひ!」
俺も俺とて、一度同性の友達とツーリングをかねたキャンプをしてみたいと思っていたので、とても嬉しい。
そしてこうやって、気の合う同性の友達とこうしてランチができていることに、とても感謝をしている。
と、そんなことを考えている中、目の前の扉が開いた。
今日は学食ランチだった花音や種田さん、そしてお友達の面々が教室に戻ってくる。
すると、すぐさま俺に目をとめた花音は、嬉しそうに微笑んで手を振ってくれたので、こちらも振り返す。
種田さんが花音の脇腹を小突いて、彼女が赤面するのは、今や予定調和。
「相変わらずラブラブですなー! てか、香月と花守さんが付き合い始めてどれぐらいだっけ?」
「2ヶ月くらいかなぁ……」
骨川くんに問いを聞き、花音と付き合い始めてもう2ヶ月も経つんだと、改めて思った。
「つーか、まだ2ヶ月ってのが驚きなんだよなぁ……」
と剛田くんはぼやく。そしてこれは、花音と付き合い始めて、その話が広まってからみんなに言われたことである。
どうやら種田さん以外の全員が、文化祭準備のころから、もうすでに俺と花音が付き合っていると思っていたらしい。
確かに今思い返せば、付き合う前から俺と花音って異様に仲が良かった、と感じている。
「で、彼女持ちの香月大先生はどうすんのよ、今年のクリスマス?」
「クリスマスって、早すぎじゃ?」
そう返すと、剛田くんはやれやれと言った具合に首を横へ振った。
「今の期末テスト期間が終わったら、あっという間にクリスマスだぜ? もしデートすんなら、早めに色々押さえた方がいいって」
永らくラグビー部のマネージャーと交際している剛田くんの言葉には説得力があった。
そっか……俺、今は彼女持ちで、そういうイベントごともちゃんと頭に入れておかなきゃいけないんだ。
それに……
ふと、種田さんたちと楽しげに会話している花音の背中を見やる。
相変わらず花音は後ろ姿だけでも可愛いと思う。そんな子が今や俺の彼女。
そして交際2ヶ月目。お互いになんやかんやと忙しく、ハグ以上の進展はしていない。
そろそろ、花音とキスをしてみたい。俺は最近、そんなことを考えるようになっていた。
●●●
「お待たせー! 帰ろー!」
テスト期間で、部活がないため、忙しい花音と一緒に下校することができる貴重な機会だった。
とはいえ、学校からバス停までの短い道程ではある。
だからこの短い間に、今日昼間に剛田くんから頂いだアドバイスを実行に移すべき時!
今日こそは彼氏として、彼女の花音と今年のクリスマスの予定を話し合わねば!
「あ! 葵くん、ちょっとお願いがあるんだけど!」
と、俺が口火を切ろうとしたその時、花音が声を上げる。
「な、なに?」
「実はさ、今日のお昼にたねちゃんたちと『クリキャン』しようって話になって!」
「クリキャンって、クリスマスキャンプのこと?」
「そ! 森のカフェメンバーでやりたいなって! 去年の傾向から、うちのお店クリスマスって大忙しだから、先にやっちゃおーって、タネちゃんたちが言ってくれてて」
「なるほどね」
俺は平静を装って、さっとそう答えた。
お店の事情なら仕方がない。それにこの交際に際し、俺と花音は自分たちの恋人同士の予定よりも、友達たちとの予定を優先しようと決めていた。花音は元々人付き合いが多いし、俺だって文化祭を機にクラスのみんなに受け入れられたので、交友関係を広げたいと思っているからだ。
これはひとえに、お互いのことをパートナーとして強く信頼できているからこそ、できることである。
「葵くんも、剛田くんたちを誘って参加してくれるかな?」
「もちろん! で、いつ?」
「わぁ! ありがと! 期末終わりの週末を予定してるよ!」
「12月の上旬だね。わかった」
「で、場所とかなんだけどさ、葵くんの考えも聞きたくて……」
短い道程の中、俺と花音はクリスマスキャンプのことについてあれやこれやと話し合う。
最初はちょっと微妙な気分で引き受けた俺だったが、話してゆくうちにテンションも上がり初めてゆく。
今年は俺にとって、飛躍の年にもなったし、締めくくりのイベントはみんなでワイワイするのも悪くはないと思う。
と、大分話が詰まってきて、バス停で花音の帰りのバスを待っている時のこと、
「あ、あのさ……葵くん……樹ちゃんをさ、クリキャンに誘ったら来てくれるかな……?」
「樹を?」
「森のカフェの時もお世話になったし、他のみんなも会いたがってて……」
思い返せばここ2ヶ月、色々とバタバタしていて樹との連絡をとっていなかった。
あっちからも、忙しいのだろうか、全く連絡がない。
「わかった、今夜あたり聞いてみるよ」
「い、良いよ! 私が聞くよ! 私が提案したわけだし……」
「大丈夫だって。俺もここ最近、樹と喋ってなかったし、ちょうど良いかなって」
「……そっか。じゃあお言葉に甘えてお願いしても?」
「おう、任せてくれ」
ちょうどバスがやってきたので花音はそそくさと乗り込んでゆく。
俺は花音の乗ったバスが見えなくなるまで見送った後、帰宅する。
そしてタイミングを見計らって、久々に樹への連絡を試みた。
相変わらずというべきか、樹はなかなか出なかった。
それでも我慢強く待っているとーー
「……」
「よ、よぉ、樹。久しぶり!」
画面に浮かんだのは、むちゃくちゃ仏頂面な樹だった。
『ねぇ、おいくん、今僕がなんでこんな顔してるかわかる?』
「わ、悪かったよ、2ヶ月ぶりになっちゃって……」
『そのことは別に良いよ。僕だって練習とかで忙しかったし。てか、そこで怒ってるんじゃない』
じゃあ樹は一体何に怒ってるんだ……と、とても困っていると、画面の向こうの樹は盛大なため息を吐いた。
『わかんない?』
「すみません……」
『もぉ……僕、おいくんからの結果報告をずーっと待っていたんだけど?』
「結果報告? なんの?」
『2ヶ月前、四尾連湖』
樹は憮然とした態度で、端的にそう言い放つ。
樹が待っていた報告って、まさか……!?
「あ、えっと……あの日を境に、俺と花音付き合い始めました……?」
『はぁ……ようやく教えてくれたぁ……あのさ、僕さ、この2ヶ月ずっとモヤモヤしてたんだよ? あのあと、どうなったのかなぁとか思って。でも僕から聞くのもあれかな、と思って黙ってたらさ、これなんだもん!』
「わ、悪かったよ。わざわざ言うことでもないと思って……」
『そりゃさ、あの時四尾連湖で会わなきゃそれでも良かったけどさ、あの時僕たち会っちゃったし……ぶっちゃけ、あの時、僕2人のこと考えて気を遣ったわけだし』
やっぱり四尾連湖で会った時、樹が花音の誘いを断ったのは、気を遣ってくれていたんだと思い知るのだった。
『いうなれば、連載漫画のとっても良いところで急に休載にされちゃう感じ? このモヤモヤ感伝わる?』
「申し訳ございませんでした……」
『ん! でも今日でようやく、そのモヤモヤも解消できたってことで……おめでとう、おいくん! 良かったね!』
「ありがとう」
『で、今日はその報告だけ?』
「いや、実はな……」




