第78話 勇気を出して……!
「じゃーん! 今日は修学旅行の代わりなんで豪華版ですっ!」
「おお、すげぇー!」
揚げたての豚肩ロースを挟んだ特製カツサンド。ギョーザニアに、カレー風味のスープ。
今夜の花音特製のキャンプ飯は、質もそして量も豪華版であった。
だから当然ーー
「ご馳走様……うぇっぷ……」
「ちょっと、気合い入れ作りすぎちゃったね……うぐっ……」
2人でお腹パンパンとなってしまった。
夜の帷が降りた今のキャンプ場の雰囲気はすごくムーディーで、告白には適してはいるが、さすがにお腹パンパンの状態なので、またしても見送ることにする。
俺と花音は腹ごなしのために、少しお互いに自由時間を取ることとした。
「タネちゃん、楽しそー……やだぁ、ヨッシーったらカニばっかり食べて……んふふ……」
自由時間になってから、花音はテントの中で這いつくばってずっとスマホに向かいっぱなしだった。
どうやら修学旅行中の種田さんや他の友達とのやり取りを行なっているらしい。
そういや、俺が修学旅行を病欠したから、花音は風邪だと嘘まで吐いてこうやって付き合ってくれてるんだと改めて思う。
そう考えると、こうしてキャンプができるありがたさと同時に、罪悪感が浮かび上がってくるわけで。
自分の存在が、花音から大事な思い出を一つ奪ってしまったという罪悪感。
だからこそ、俺はそろそろ決めなければならないと思う。
どうして花音がここまで俺にしてくれるのか? 学生時代の大事な思い出よりも、俺との時間を選んでくれたのか?
その真意をしっかりと汲み取り、彼女の真心に正面から向き合う時。
「か、花音! そろそろキャンプファイヤーしよう!」
俺はクリア目前だったスマホゲーを閉じ、花音へそう声をかける。
「うんっ! やろやろ!」
花音は楽しそうな笑顔と共に、明るくそう答えてくれる。
この笑顔を独り占めしたいと、俺は強く想う。
そうして俺と花音は焚き火台の前へお互いにバスケットチェアを並べて、キャンプファイヤーを始めた。
改めて、赤々と燃える炎を見つめていると、その緩やかな熱のせいか、気持ちが落ち着くように感じる。
そしてこの炎は、躊躇いとか、恐れとか、そういう感情を焼き尽くし、本心のみを曝け出してくれるような気がしてくる。
ならばそろそろ……!
「あ! そうだ! 葵くん、スモアやらない?」
と、突然、花音はいつもの調子の声を上げたので、俺の本心がややぐらつく。
「スモアって確か、マシュマロを挟んだビスケットを焚き火で炙るやつだっけ?」
「そうそう! 一度やってみたかったんだぁ! 今日はね、チョコとかも持ってきてるから、チョコスモアもできるよ!」
「へ、へぇ……」
「じゃあ準備するね! 飲み物はコーヒーで良いかな?」
まずい、このままではまたお互い食に走って、また告白の機会を逸してしまう。
もう、ためらっている場合ではない! 今やるんだっ!
「か、花音っ! その前に話があるんだけどっ!」
俺は意を決して、今まさに椅子から立ちあがろうとしていた花音へ声をぶつけた。
「なに話って?」
花音は浮かせた腰を、再びバスケットチェアへ深く据えた。
もうチャンスはおそらくここしかない。だからこそ、俺は口火を切る決断を下す。
「あのさ……ありがとうを言いたくて……修学旅行を一緒に休んでくれた挙句、こうやって一緒にキャンプをしてくれてることの……」
「そのことは良いんだよ。私がしたくてしてるんだしさ」
「だからなのかな……俺さ……ずっと花音のことが頭から離れないんだよ……」
そんなの今に始まったことじゃない。
春先に出会って、仲良くなって、いきなり添い寝されたり、好きと言われたり……もうその頃から、俺はだいぶ意識をしていた。
だけど、そうした行動とか、言葉は、彼女がコミュ力の非常に高い陽キャだから勘違いしてはいけないと自分を律し続けていた。
でも、もうそんなことをする必要はない。今こそ、自分の気持ちに素直になる時。
「だからさ、俺、花音とは友達とか、キャンプ仲間とか、そういうのを超えたもっと強い繋がりが欲しくなったっていうか……」
「……」
いつもはお喋りな花音が、青い瞳でじっと俺を見据えながら沈黙を守り続けている。
恐ろしいほど純粋で、そして綺麗なその佇まいに、とてつもない緊張感を得てしまった俺は、唇を震わせるばかりで、なかなか肝心な言葉を口に出せないでいる。
「で、なに? なにが言いたいの?」
なんとも言えない、花音の平坦な物言いに、またしても怯んでしまう俺は、だんだんと頭が混乱してくる。
でもこれ以上、なにも言わないのは、ここまでの流れを台無しにしてしまう。
「……す……す、き……です……」
結局思い切って叫ぶことも、花音と目を合わすこともできず、ただ声を振るわせながらそうとしか言えない情けない俺だった……。
「え? なに? 今、何か言った? 聞こえなーい!」
と、花音は聞き返してくる。
「うぐっ……す、好きですっ……」
2度目はさっきよりも、少し大きな声で。これなら聞こえたか……?
「んー? だからなにぃー? もう一回!」
多少声を大きめにしたけど、これでもダメなのか!?
「好き、です」
「んー? なぁーにぃー?」
「だから、俺、花音のこと、好きなんだって! 女の子として! これなら聞こえるでしょ!?」
ついうっかり、大声でそう叫んでしまった俺。
すると花音は突然俯いて、
「葵くん、起立」
「え?」
「早く立ってっ!」
気おされる形で椅子から立ち上がる。
花音も同時に立ち上がるも、いまだに俯いているため表情は窺い知れない。
「はい、万歳の格好して」
「ばんざい……?」
「はい、ばんざーい!」
言われた通り、両手を夜空へ高く突き上げる。
「ーーーーっ!?」
目下では綺麗な金髪が揺蕩い、胸板には柔らかくて温かい感触が。
「はい、そのまま手をゆっくりおろして……私の背中にその手を回して……そしたらゆっくりで良いから力を込めて……」
言われた通りにそうすると、俺は全身を使って花音の熱や、柔らかさを感じだす。
花音の胸がぐにゅりと潰れて、胸板がダイレクトにその感触を得る。
「嬉しっ……私、ずっと夢見てた……葵くんに、こうしてハグしてもらうのをずっと……」
「そ、そうなんだ……」
「私も好きだよ。葵くんのこと……友達とか、キャンプ仲間とか以上に、男の子として……! 大大大大好きだよぉーっ!」
そういうと花音は俺の胸へ顔を埋めた。
体がぶるぶると震えているのは、恥ずかしさから生じた緊張感のためだろう。
それは初めて好きな女の子と想いが通じ合えた、俺も一緒。
俺と花音はお互いに体を震わせながら、緩やかに抱き合い続ける。
「……寝よっか……?」
いつまでも抱き合っていたいと思っていた最中、花音からそう告げられた。
「ね、寝る……?」
「うん。なんか葵くんとハグしてたら、眠くなっちゃった……」
花音は甘えるように俺の胸へおでこを擦り付けてくる。
本当に眠そうだ。確かに俺も緊張感が抜け、頭がやや呆然としている。
「じゃ、じゃあ寝ようか……?」
「ん……」
そう決めても、俺と花音はお互いになかなか離れることができずにいた。
だけど、焚き火の炎がだんだんと弱まって、さすがに寒くなってきたので、一旦離れて焚き火の鎮火や寝支度をする。
やがてサイトの明かりがLEDランタン一つきりとなった。
「行こ、葵くん……」
俺と花音は寄り添いながら、いつも通り、一つのテントへ2人で入ってゆく。
やっぱり今回もテント1張り無駄となってしまった。
花音とキャンプをするときは、もう2度と2張りもテントを張らない。
そう心に決める。




