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第77話 花音との思い出を振り返る

「テント、オッケー! タープ、手伝うね!」


「おう、よろしく!」


 夏のキャンプ場バイトの時にも気づいたが、花音のキャンプスキルはかなり向上していた。

たぶん、俺のようにソロキャンプだって容易にできることだろう。

 だから以前のように俺が手助けしたりする必要は殆どない。


 これからのキャンプは花音とは"バディ"として組むことができそうだ。


 あっという間に2張りのテントと、タープを張り終えた俺たちは、早速バスケットチェアに腰を据えてまずはゆっくりすることに。


「今日は特別な飲み物も用意したけどどうする? いつもみたいにフイールドコーヒーの方が良い?」


「せっかくだから、その特別なのを頂こうかな」


「ラジャー! んふふー、葵くんのそういうノリ好きだなぁ」


 久々に花音の口から聞いた"好き"という言葉。

以前は、本人の言もあり、必死に違う意味で捉えようとしていた。

でも、今は違う。

 楽しそうにコッフェルをシングルバーナーにかけている花音の背中を見てそう思う。


「はい、どーぞ!」


「ミルクティー……? じゃないな……なんだろ、このスパイスみたいな香りは……?」


「んふふ、チャイってやつだよ! お隣のキャンプ場って、チャイが飲めて有名だから、ちょっとした対抗心です!」


 そんな風に楽しそうに言って、笑顔を浮かべる花音が眩しくて。

彼女を見ているだけで、自然と胸が高鳴って。


 いつもの流れで、テントは2張り建てたけど、1張りでも良かったんじゃないか……むしろそうあって欲しいと願う俺がいる。


「葵くん? なんかちょっとぼーっと気味だけど大丈夫? まだ風邪良くなってない?」


「あ、あ、いや! そういうわけじゃ……花音のチャイがあんまりにも、美味しくて、言葉を失ってました……」


「なにそれ! あはは! 大袈裟だよぉ〜……でも、ありがと! 嬉しいっ!」


 この眩しい笑顔を、これから先も独り占めしたい。

そんなことを考えながら、俺は花音と湖畔散策へ乗り出してゆく。


「この湖って、色々と伝説があってね」


「なにそれ! 知りたい!」


「まずは由来なんだけど、この湖を司るのって龍神様なんだ。で、その龍神様の尻尾が四つあるから今の名前になったみたい」


「だから四尾連湖しびれこ! なるほど! 私、最初聞いたとき、湖に入ったらビリビリーって痺れちゃうのかなって思った!」


「あ、それ俺も」


 真面目な話題に、時々バカなことを織り交ぜて……こうして花音と一緒にいるのが自然で、楽しくて。


 しかも湖畔で枝葉を伸ばす木々は鮮やかに色づき始めて、とても素敵な雰囲気で。


 そしてひょっとしたら、今が、チャンスなのではないかと思った。


 横を歩く花音の、マウンテンパーカーの袖から伸びる細くて、白い指先に意識が向かう。


 さりげなくその手を取って、多分花音は驚くだろうから、そのまま流れで、彼女の青い瞳を見つめながら……うん、よし、そのプランで行こう!……と、思い描くも、いざ実行となると、耳の奥まで響くほど胸の高鳴りが強まって。


 ただ手をとれば良いだけなのに、なかなか体が動き出さなくて。


 ここにきて、改めて、花守 花音っていう女の子の可愛さが異次元的に見えて、俺で良いのかなとか思ったりして。


 だけど、いつまでも怖気付いてちゃダメだと思って! と思ったその時、花音の歩みが突然止まる。


「ばぁあ!」


「わわっ!?」


 なぜか突然、花音は両手の人差し指を鬼の角のように額に立てた変顔をこちらへ向けてきた。

先ほどまでの緊張と、唐突な変顔に驚いて尻餅をついてしまう俺であった。


「ご、ごめん! 大丈夫!? まさか、そんなに驚くだなんて思わなくて!」


「な、なんだよいきなり……」


「ここって、牛鬼が出るって噂があるんでしょ? だから顔真似をと思って……!」


「全くひと騒がせな……」


「ごめんね!」


 そう言って花音は、転んだ俺へ手を差し出してきた。


 確かに当初の想定通り手は繋げたけど、ここで告白するのはちょっと違うよなと思い、一旦保留とすることに……


 まぁ、でも花音の変顔を見れて、それはそれで良かったと思っている。つーか、変顔してても、花音の顔面偏差値は恐ろしく高いことを改めて自覚する俺だった。


ーー次いで俺たちが訪れたのは、この湖に存在するもう一つのキャンプ場。

ここはチャイが飲めることで知られていて、花音のリクエストで足を運ぶこととなっていた。


 すると、そのキャンプ場の管理事務所に設置されているウッドデッキに、何故か見知った人影があり……


「あれって……樹ちゃぁーーーーん!」


「え……うぇえ!? か、花音ちゃん!? なんでここに!?」


 ハットを被り、ザックを背負って、ハイキングシューズを履いている樹はとても驚いた様子を見せていた。


「よっ、樹」


「おいくんもなんでいるの!? 昨日から修学旅行のはずだよね!?」


「葵くんと私ね、昨日まで風邪だったの! で、修学旅行休んじゃったから、代わりにキャンプしようって!」


 花音の説明を聞いて、「あはは……」と乾いた笑いをあげる樹だった。


「樹こそ、なんで平日にハイキングを?」


「今日、創立記念日で。部活も自主練の日だったから、体力作りと気分転換も兼ねて、登ってみようと思って」


 このキャンプ場の麓には書道をテーマとした、中国風の建物が並ぶ公園がある。

なんでも、コスプレイヤー御用達の公園だとか。

 ただ運営する市が財政破綻の危機にあり、見られるのもあと数年と噂されている……閑話休題。


 その公園から、このキャンプ場までの山道があり、そこそこの難易度のハイキングコースとして有名だ。どうやら樹はそのハイキングコースを登って、このキャンプ場を訪れていたらしい。


ーーそういや、こうやって樹と普通に会話ができるようになったのも、花音のおかげなんだよな。


 スノーパークランドで偶然に再会して。花音が後押ししてくれたおかげで、俺と樹はまた友達になれて。

 みんなでグランピングをしたり、キャンプ場でのバイトを経験したり、この間だって他校の生徒なのにも関わらず、うちの文化祭を手伝ってくたり……もしも、花音と出会って、仲良くならなければ、俺はもう一生樹と、そうした楽しい時間を過ごすことはできなかったかっただろう。


 そして最近では花音も、樹にとても強い友情を感じているようで……


「ねぇ、樹ちゃん! ここで出会ったのも何かの縁だし、一緒にキャンプしない?」


 やっぱ、うん、そうなるよな、花音のキャラじゃ。


 いつもの俺だったら、二つ返事で了承した。


 だけど、今日は事情が少し違う。でも明確に拒否ると、樹は凹みそうだし、どうしたものか……


「……ごめん、花音ちゃん。今回はパスさせて」


「ええ!? なんでぇ!?」


 樹の爽やかな返しに、花音はとても残念そうな声をあげる。


「だって、花音ちゃんとおいくんに付き合ってたら、帰り遅くなっちゃうから。僕は明日は普通に学校だし」


「そ、そっか……確かに」


「また誘って! じゃ!」


 樹は小走りで花音から離れ、


「頑張って!」


 俺にそう小声で言って、走り去ってゆく。


 もしかして、樹は俺の気持ちを……? もしそうだったら、ありがたいし、余計に頑張らなければならないと思った。


ーー次で必ず決める。気を遣ってくれた、樹の気持ちに応えるためにも!


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