第76話 修学旅行をサボって、2人で……
「修学旅行はえっと……私もね、お休みにしたのっ!」
「はぁ!? おやすみって、なんで……!?」
「ぐ、具合が悪かったから?」
どっからどう見ても具合が悪そうな人には見えない。
「あとね、なかなか葵くんの既読が付かなかったら、凄く心配になっちゃって……」
聞いているだけで胸が詰まるような声音で花音はそう言ってくる。
「ごめん、心配かけて。具合悪かったのもあるし、みんなからのメッセージもいっぱい入ってて、なかなか読めなくて……」
「そっか。みんなからも……」
「と、とりあえず上がってく?」
まだ俺も本調子じゃないからこのまま話し続けるのも辛いし、せっかく来てくれたのだからという気持ちからの言葉だった。
「良いの?」
「父さんと母さん、ちょっと用事で数日県外に出かけてて……」
「そ、そうなんだ……じゃあ、遠慮なく……!」
そうして花音に上がってもらい、とりあえず俺の部屋へ案内する。
「待ってて今お茶を……」
「何言ってますか! 病人は大人しく眠ってなさない!」
「いやでも……」
「しつこい!」
「わわっ!?」
気がつけば俺は花音にベッドの上へ押し倒されてしまったわけで。
好きな女の子に急にこんなことをされて、ドキドキとか、色々発生して、このままの体勢だと非常にまずいと思い、
「わ、わかったよ……大人しくしてるよ……」
色々と気づかれる前に大人しく布団の中へ。
すると、花音はホッとした様子を見せ立ち上がる。
「それで良いんだよ。で、なんかして欲しいこととかある?
「あ、いや、だからそういうのは……」
「良いから遠慮しないで!」
「じゃあ……お腹すいた……」
「オッケー! 何食べたい?」
「えっとそれじゃあ……たらこパスタ?」
「たらこパスタだね? ラジャー! じゃあ、ちょっと買い物に行ってくるから! 大人しく寝てなきゃダメだぞ?」
流れのまま鍵を渡し、さも当然かのように花音は出てゆく。
そうして暫く微睡んでいると、やがて良い匂いが鼻をくすぐってきて……
「おまたせー! 花音さん特製たらこパスタの上がりだよぉ!」
「おお! すげぇー!」
花音の作ってくれたたらこパスタは、ソースに生クリームとかが入っていて、濃厚で凄く美味しかった。
食べているだけで、体がぐんぐん元気を取り戻しているように感じる。
「あのさ、花音……なんで修学旅行を休んだの?」
そろそろ本丸である、その疑問を聞いても良い頃合いだと思い、そう口にした。
すると花音は苦笑いを浮かべて、
「だって、葵くんが休みになっちゃったから……」
「は……? まさかそんな理由で!?」
「そんなんじゃないよ。私にとって、葵くんと一緒に行く修学旅行が1番大切だったんだから。それに、君が病で苦しんでる中、私だけみんなと楽しむなんてできないよ……」
「ほんと、ごめん!」
まさか自分の体調管理の不徹底が、花音さえ巻き込んでしまっていたとは……
「謝らないで、葵くんのせいじゃないよ。欠席するって決めたのは私の意思だし!」
「お父さんとお母さんはどう説得して……?」
「それは、えっと……してない。2人とも、私の修学旅行に合わせて旅行に行っちゃったから」
ますます申し訳ない気持ちになってゆく俺だった。
だが同時に、好きな人が、ここまで自分を想ってくれていることへの感謝もある。そして俺のこと想って、思い出作りを捨ててくれた花音へ、修学旅行に代わるお礼がしたい。
だからーーーー
「あのさ、花音……唐突で、申し訳ないんだけど……」
「ん?」
「キャンプ、しないか? 修学旅行の代わりに……」
言った瞬間は、ポカーンとしていた花音だったが、みるみるうちに表情がいつもの好奇心旺盛なものへと変わって行き……
「したい! キャンプ! ここ最近、葵くんと全然できてなかったし!」
「だよな。なんだかんだ夏休みから今日までずっと忙しかったし」
「でも体調は大丈夫? てか、治ったなら学校行かなきゃだよね?」
一応、学校からは体調が回復したら、登校をして自習をして欲しいと言われている。
でも、それはあくまで回復が前提であって、
「そこはまぁ、まだ治っていないってことで……」
「つまりサボるってことだね?」
「そうなるかな。まぁ、花音がそういうの嫌だったら、週末に仕切り直しでも……」
「全然嫌じゃないよ! むしろ、修学旅行の代わりなら、みんなと同じ日にしたいしね! 行こう、キャンプ!」
どうやら花音も乗る気らしい。
ならばもはや、しないという選択肢はありえない。
しかも、これは失ったはずの千載一遇のチャンスがまた俺のところへ戻ってきたことに他ならない!
ーーそれから俺と花音は2人で、どこへ行こうかを決め、明日から一泊二日で計画を立てた。
幸い平日ということもあり、目的のキャンプ場はガラ空きで余裕で予約が取れた。
午後になると、花音のたらこパスタ効果もあったのか、すっかり元気になった俺は、着々と明日からのキャンプの準備を整え、朝を迎えてーー
「げほ、ごほ、がほっ! すみません、やっぱりこんな体調でして……今日も休ませてください……」
そう嘘の咳を交えての学校へ欠席の連絡をする。そしてキャンプ装備を背負って、家を出て、クロスカブに跨った花音と合流。
もし両親が予定よりも早く帰ってきたら大目玉だけど……もし、そうなったらその時考えるものとする!
「よし、行くぞ花音!」
「ラジャー!」
俺と花音は車通勤ラッシュの中をスーパーカブとクロスカブですり抜けていった。
そしてまずは地元の脱出に成功した。
そうして葉が段々と赤く染まりつつある山道をバイクで駆け上がってゆく。
ーー今回のキャンプに際し、最も注意したのが実施場所だ。
地元でキャンプだとサボっているのがバレる可能性がある。でも、あまり遠くへ行くのも、突然の事態に対処できない。
そこで、思いついたのが、地元からは近いが、意外と奥深く、目立ちにくいところにあるーー
「わぁ! ここ山の中なのに湖があるー!」
キャンプ場に着いた途端、花音はとても感動した様子を見せた。
このキャンプ場は、とある山の頂上に形成された湖を中心に運営されている。キャンパーやハイカーの中では有名だが、一般人はなかなか来にくい場所である。
「不思議だねー。なんでこんな山奥に湖があるんだろ?」
「この湖って、大昔の地形崩壊によって生じた窪地に水が溜まってできた陥没湖なんだって。昔はカルデラ湖って考えられてたみたいだけど」
「そうなんだ!」
「あと、ここって秋になると、湖周辺の木々が色づいて、湖面に映って綺麗なことから、紅葉の名所でもあるんだ」
「そっか、そっかぁ! うふふ! なんか、葵くん、修学旅行の添乗員さんみたいだね?」
「ま、まぁ、一応修学旅行の代わりなんで、ちょっと意識してるって言いますか……」
「なら一泊二日、どうぞよろしくお願いいたします! 葵せんせ♩」
「こ、こちらこそ!」
話も早々、俺たちは管理棟へ向かい受付を行い、早速サイトへ出てゆく。
平日のため俺たち以外のキャンパーはいないらしい。
「貸切状態なんだね! どこにしようか?」
「せっかくだから、ゆっくり決めよう!」
「うんっ!」
チャンスはいくらでもある。だからまずは、久々の2人きりのキャンプを思いっきり楽しもうと思う。




