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第75話 香月 葵は覚悟を決める!

「おはよー! 葵くん」


「おはよ」


 2学期から始まった花音と登校に関して、もはや気にする人は皆無となっていた。


「なんか今日から10月だってのに、まだまだ暑いよねぇー」


「まぁ、ここはまだ涼しい方みたいだけどな。そういや種田さんは?」


「しばらくは2人でどーぞって。なんか、忙しいみたい?」


 文化祭の頃からなんとなく気づいてはいたけど、たぶん、種田さんは俺と花音の関係に色々と気を回してくれているんだと思う。


 この配慮はとてもありがたい。そして、種田さんの気持ちに応えるためにも、有効活用しなければならないと思う。


 そして今がまさに学校のイベント的にも絶好の機会!


「では、まずは札幌での自由行動班を各々で作ってみてくださーい! なにかあれば後で調整しまーす!」


 学級委員である種田さんの一声で、クラスメイトたちは一斉に動き出した。


 俺たち2年は文化祭の後、間髪入れずに修学旅行へ行く。


 行き先は北海道。そして現在、修学旅行の1番の目玉である、札幌での自由行動班を決める場面だ。


「よぉ、香月! 一緒に回ろうぜ!」


「俺も俺も!」


「あ、ありがとう! 2人とも!」


 文化祭を通じて同性の友達としてすっかり仲良くなってくれた剛田くんと骨川くんが早速声をかけてきてくれる。


 ずっとボッチだった俺にとっては、とても嬉しいお誘いだし、喜ぶべきもの。


 だけど、


「ちょっと剛田 武尊くんに骨川 健太くん? かのとあたしの香月 葵くんを取らないでくれる?」


 と、俺たちの前に現れたのは種田さんと、そして花音。


「べ、別に葵くんは私のものなんかじゃないよぉー! 変なこと言わないでよ、もぉ……!」


 花音は顔を真っ赤に染めて、抗弁している。


 勘違い……したって良いじゃないか、今更。それに俺自身、ずっとこういう花音の態度を側でみてきたのだから……


「あ、あのさ、種田さん、花音……良かったら、一緒に組まないか?」


「え!? い、良いの!?」


 勇気を出して、そう提案すると花音は真っ先に驚いたような声を上げる。


「良いも何も、最初から俺、花音は絶対に誘おうと思ってて……こ、これがあるから!」


 手の震えをグッと堪えて、スマホの画面を見せる。


「じ、実は自由行動の時間にさ、大通り公園でメーカー主催のキャンプイベントがやってるから!」


「わ、わぁ! そ、そうなんだぁ! ああ! キャンピングカーの展示もあるんだね! みたいみたい!」


 ぶっちゃけ、これは口実に過ぎない。


「はぁ……あんたたち、自由行動だからって、ちゃんと史跡とか回って学習しなきゃいけないのよ? その点わかってる?」


 と、種田さんのツッコミは重々承知なわけでして、


「まぁ、そう堅いこと言うなよ種田。んなもん、みんなで協力してサクッと済ませりゃ良いじゃねぇか」


 剛田君のナイスアシストに、骨川君もうんうんとうなずてくれている。


「まっ、確かにそうよね。せっかくの札幌なんだからクソ真面目に回るのはちゃちゃと終わらせて、楽しいことしましょうか! ってわけで、契約締結。良いわね?」


 かくして修学旅行における自由行動班は決まりーー


「ありがと、葵くん。自由行動班に誘ってくれて!」


 いつもの東屋で、2人きりの昼食時、花音はとても嬉しそうな顔をしてそう言ってきた。


「正直、ちょっとビックリしちゃったんだぞ?」


「そうか?」


「こういうのって男の子から女の子をなかなか誘うもんじゃないじゃん? だから勇気あるなぁってか……」


「だ、だって、その……花音は俺の友達で、1番に仲良くなったし、キャンプイベントもあるし、だから絶対に誘いたいなって!」


「ありがと、すっごく、すっごく嬉しい……! 葵くんとの修学旅行……すごくたのしみ……」


 花音は頬を真っ赤に染めて、俺から視線を外し、異様に早い速度でパクパクとお弁当を食べ始めた。


 俺だって木の股の間から生まれたわけじゃない。それに、樹の時の失敗もある。


 だから今の自分の気持ちと、花音が抱いている俺への気持ちはたぶん正しく理解できていると思う。


「実は私さ、中学の修学旅行行ってないんだよね……中3の途中で転校したし、明根ちゃんとか、他にも色々とあって、行けるようなメンタルじゃなくて……」


「そっか、じゃあ俺たち同じなんだね」


「え?」


「実は俺も中学の修学旅行は行ってないんだよ。樹とのこととか、学校のことがあって、行く気になれなくてね」


「そうだったんだ……なら、不謹慎だけど、同じだったこと嬉しいなぁ……」


 もうきっと大丈夫。俺と花音は色々な意味で繋がっている。

あとは扉を開くだけ。


「ならお互い、初めての修学旅行ってことで、楽しくやろう!」


「うんっ! そうしよ! うふふ!」


 後は扉を開くだけ……だったら、やっぱりどさくさに紛れてとか、勢いでとか、そういうふうにはしたくはない。


 だから俺は決めていた。


 この修学旅行で、俺は、花音に【告白】すると! そしてキャンプ仲間や、友達から、恋人へ関係を発展させたいと!



●●●


「ぶえっくっしょん! うぐっ……うううっ……」


「ちょっと、あんた本当に大丈夫?」


 まるで小さな頃以来、母さんに手厚く看病されている俺だった。


 体温は現在38°と下降傾向にある。しかし明日からの修学旅行への参加は、この体調では絶望的。

よって先ほど、母さんから学校へ、修学旅行欠席の連絡をしてもらっていた。


「ほんと、あんたって、修学旅行とはつくづく縁がないわねぇ……だったら……」


「大丈夫だって。ただの風邪だし、もう高校生でガキじゃないんだから!」


「でも……」


 父さんと母さんは、俺の修学旅行に合わせて、同じ北海道行きを計画していた。

なんでも父さんと母さんの共通の友人のお子さんが平日に結婚式ーー飲食店の経営者らしい?ーーを開くので、そこへの参列をお願いされているようだ。


「せっかくの機会だし、大事な友達のお子さんの結婚式なんでしょ? だから、行ってよ、マジで!」


「とりあえず一晩様子を見ましょうね」


 母さんはそう言い置いて、部屋を出て行った。


 俺の修学旅行は残念なことになったけど、父さんと母さんには安心して出掛けてもらいたい。

そう自分に言い聞かせ、一生懸命回復に努めて……。


「ほら、言った通りになったでしょ! さっさと行った、行った!」


 熱はあるが37°台。もうほとんど治りかけである。


「でもぉ……」


 やっぱり少し親バカなところのある母さんは、そろそろ支度をしなければならない時間になっても承服しかねている。


「葵も、こう言ってくれてることだし、行った方が良いんじゃないか? 心配なのはわかるけど、葵だってもう半分大人みたいなもんなんだしさ!」


 と、そこで珍しく父さんの援護が入る。そうしてようやく、納得してくれた母さんは「しっかり休むこと。体が治ったらちゃんと学校へ行くこと」を、俺に繰り返し言い聞かせて、父さんと共に北海道へと旅立ってゆく。


 まだ少し体調は辛いので、ベッドへ戻る。

するとスマホには、種田さん、剛田くん、骨川くんに吉川さんやその友達、文化祭で知り合った多くのクラスメイトから俺の欠席を悲しむメッセージを送ってきてくれていた。

 ずっとボッチだったから、こういうメッセージをたくさんのクラスメイトがくれるのは本当に嬉しい。

 だけどまだ治りかけで、あたまもぼぉっとしているので、あとで読んだり返信をしたりしようと考える。


 もし参加できてたら、今回の修学旅行は凄く楽しかったと思う。

それにこの修学旅行は、俺にとって……


「はぁ……俺、いつ花音に告白したら良いのやら……」


 花音への告白が先送りになってしまったことを、とても残念に思いつつ、俺は再び眠りについてゆく。


ーーすると、しばらく経って、インターフォンの音が鳴り響いた。


 寝る前に薬を飲んだためか、病の感覚は殆どない。


 再びインターフォンが鳴り響く。


 無視するはの悪いから、一応出ておくか……お店のお客さんかもしれないし……


「はーい、今開けまー……すぅぅぅぅぅぅ!?」


 驚きのあまり素っ頓狂な声をあげてしまう俺。

なぜならば、うちの玄関先で、稲穂のように美しい、金色の髪が靡いていたからである。


「も、もしかして起こしちゃった!? ごめんっ!!」


「あ、あ、いや……なんでいるの、花音……? 修学旅行は……!?」


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 怪我の……もとへ、お馬鹿の功名! 風邪らしいが。
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