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第74話 香月 葵は自覚する

 どれほどの時間が経過したのだろうか。Cafe KANONの窓の外は薄暗くなっていた。


「ありがとうございましたぁ……!」


 やはり人気店だけあって、今の今までお客様がずっと途絶えず。

だけどようやく、店内は落ち着き始めていた。


「お疲れ様でした、香月さん。もう自分1人で大丈夫ですので、裏でお休みください」


 花音のお父さんである冬芽さんからそう言われ、俺はフラフラと裏へと下がってゆく。


 そういえば森のカフェはうまくいっただろうか……どうなんだろうか……


「葵くんっ! 終わりだよぉーーーーっ! 無事乗り切ったってタネちゃんから連絡きたよぉ!」


 背中に明るい声が響き渡った。


 振り返るとそこには晴々しい表情をした花音がいて。


 いつもみたく、大きな胸をばいんばいんと揺らしながらこっちに駆け寄ってきていて。


「終わり……なんとかなった…………良かったぁぁぁぁぁぁ〜〜!」


 達成感と、安心感と、疲労感と、いろんなものが一挙に押し寄せて、床の上へ大の字に寝転んでしまう。


「もう、そんなとこに寝転んじゃ背中汚れちゃうぞ? えいえい」


「うはっ!?」


 花音に脇腹をツンツンされて、無理やり起こされてしまう俺だった。


「とりあえずさ、片付けして学校戻ろ? バイクも返さなきゃだし」


「そ、そうだね……おっしゃる通りで……」


 俺と花音は協力して、後片付けを行なった。

そして一旦、学校へ戻ることに。


「冬芽さん、エマさん、今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。ありがとうございました!」


 花音とそろって、多大な迷惑をかけた花守ご夫妻へ頭を下げる。


「良いのよ。なんか青春って感じで、私も楽しかったからね! それに良いもの見れたし! ねっ、お父さん?」


「う、むぅ……」


 エマさんから笑顔を向けられた冬芽さんは、なぜだが妙な唸りを上げている。

良いものって、なんだろ? 俺が見せた新しいバームクーヘンの焼き方のことかな?


 そして俺と花音はエマさんと冬芽さんの見送りを受け、バイクを夜道に走らせて学校へと戻ってゆく。


 剛田くん、こんな時間までバイクの返却のために待ってるんだろうな……なんか悪いな……ちゃんとお礼を言わないと……


 なんてことを考えつつ花音と共に校門を潜り、駐輪場へ入ってゆくとーー


「お帰りなさい、香月 葵!」


「は……!?」


 思わずその場に立ち尽くしてしまう俺だった。


 何故ならば、駐輪場には種田さんを筆頭に、2ーC全員が顔を揃えてくれていたからである。


「あなたのおかげで森のカフェは無事乗り切ったわ! さすがよ! ありがとう!」


「そ、そうでしたか。良かった……」


 種田さんの報告を聞き、俺はほっと胸を撫でおろす。

すると、


「剛田くん! 突撃っ!」


「おう! やりてぇ奴は、一緒にこぉぉぉい!」


 種田さんの命を受け、剛田くんを中心としたクラスメイト達が怒涛のように迫り来る。


「ちょちょ!? うわーーーっ!?」


 何故かクラスメイトたちに持ち上げられてしまった俺。

そこには骨川くんや、袴田くん、吉川さんや田中さんといった女子グループも加わっていて。

もはやこの状況で逃れるのは不可能なわけで。


「「「「「わーっしょい! わーっしょい! 香月 葵、ありがとぉぉぉぉぉーーーー!!!」」」」


 みんなはそう叫びつつ、俺をしばらくの間、胴上げし続ける。


 そんな俺の様子を花音は温かい視線で見守ってくれている。


「み、みんな! そ、そろそろ写真撮りますよ!」


 何故か、他校の生徒にも関わらずこの場にいた樹が声を上げた。


 すると2ーC全員がすぐさまより集まって、撮影体系に。

しかも俺と花音は隣同士で、みんなのど真ん中。


「木村 樹さん! あなたも加わりなさいな!」


「ええ!? ぼ、僕は良いですよぉ……部外者ですし……それに誰かがシャッター切らないと……」


「だったら俺が代わりますっ! 今日みんなに迷惑かけたんで、やらせてください!」


 そう名乗り出た袴田君はみんなの輪から飛び出して、樹を退けた。


「ほら、樹さっさと来いよ」


「樹ちゃん、こっちこっち!」


 俺と花音が一生懸命呼ぶと、樹は「し、仕方ないなぁ……」と少し嬉しそうにそう呟きながら加わった。

さらに種田さんの指示で、俺の隣……つまり花音とは反対側。

俺はまたしても、箱根車中の如く、花音と樹に挟まれる格好に。


「さぁ、みんないい顔しなさい!」


 更に俺の背後というか、頭上に陣取っている種田さんが声を張り上げる。


すると、


「えい♩」


「わわ!?」


 突然花音が腕を組んできて、驚いたの同時に、袴田君からシャッター音が響き渡った。


「い、いきなりなんだよ……」


「えへへ、ちょっと勢い余っちゃいました」


「勢いですることか?」


「勢いってさ、案外大事なんだよぉ?」


「全く……」


 花音は時々俺をこうやって驚かせてくる。


 突然、テントへ侵入してきて、一緒に寝だしたり。


 いきなりお風呂へ入ってきたり。


 "好き"と言ってきたり。


 そういうのは、明るい花音のコミュニケーション手段で、本人も過去にこういうので色々と"勘違い"されていたと語っていて、だから俺もその意を汲んで、ずっと意識しないようにしてきた。


「ねぇ、葵くん、今年の文化祭どうだった? 楽しかった?」


「楽しかった」


 迷わずはっきりそう告げると、花音はまるで自分ごとのような笑顔を向けてくれる。


「そっか、なら良かった! だったら来年も、同じように楽しくなると良いね? てか、もし来年も同じクラスだったら、私が楽しくしちゃうんだから!」


 来年も同じクラス……最近、俺はこのことを強く意識するようになっていた。


 だってもしかしたら、来年は花音とは違うクラスになってしまうかもしれないのだから。


 接点が一つ減ってしまうかもしれないのだから。


「さぁ、みんな打ち上げいくわよー。袴田君は、色々支払いお願いね?」


「も、もちろんです種田さん! みんなに迷惑をかけたんだから、できる限り全力で!」


 種田さんの号令で、クラスメイトたちはそぞろと学校を出てゆく。


 俺も文化祭を通じて仲良くなった、剛田くんや骨川くんと共に、みんなへ続いてゆく。


 そして俺の視線の先には種田さんや、他のクラスメイトと楽しそうに会話をしつつ歩いている花音の背中がある。



ーー勘違いしたって良いじゃないか。だって、なんとなくだけど、可能性はゼロじゃないって気がするから……さっきだって、どさくさに紛れて、"大好き"なんていわれたわけだし……


 ここ最近、俺は花音と接するたびに、そう考えるようになっていた。


 そして俺は自覚するようになっていた。


 キャンプ仲間とか、友達とか、クラスメイトとか……そうした繋がりよりも、もっと強固な絆を欲する気持ち。


 花守 花音の"恋人"になりたい、という自分の本心を……。


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