第70話 中学時代のクラスメイトとの和解
「おっじゃましまーす!」
「お、お邪魔します……」
「ようこそ、菜種ちゃんに香月くん! さっ、こっちの席よ」
花音のお母さんであるエマさんは俺と種田さんの来訪を心底喜んでくれているようだ。
俺と種田さんはとても上機嫌なエマさんに続いて、Cafe KANONの店の奥へと案内されてゆく。
ーー先日、俺が提案した森のカフェのお客さんに対する"おみやげ"に関して2案提示したところ、その一つがクラスメイトたちの承認もあり採用となった。そこで、そのおみやげ作成を開始する前に、本日cafe KANONの一席を提供してもらい、そこで作り方講習をする運びとなっていた。
「そういえば花音は?」
「ちょっち今、別件を頼んでてね。あとでちゃんとくるわよ?」
「そうですか」
「なに? やっぱかのが居ないと寂しい?」
「そ、そんなことは……別に……」
と、そんなことを種田さんと話つつ、待っていると、続々と今日の講習を受けるクラスメイト達がやってきたのだが……
「おはよう、みんな! 休みなのに悪いわね!」
「ーーっ!?」
やってきたクラスメイトたちに驚きを隠せない俺。そして彼ら、彼女らも。
何故ならば、今日この場に集まったのは全員"俺と同じ中学の出身者"だったのだ。
しかも何人かは中2の時同じクラスだったので、林間学校の時の俺の振る舞いを目撃しているクラスメイトだ。
「っ……」
かなり気まずい思いを感じた俺は、その場で俯いてしまう。
なんで種田さんはこんなメンバーばかり集めて……まさか、この間の雑木林整備のときみたいな展開を期待しているのだろうか?
あの時のクラスメイトたちは、俺のことを"あまりよく知らない"人たちばかりだったので、ああいう展開になった。
だけど今、目の前にいる彼ら曲がりなりにも、俺がどんな人間なのか把握をしている。そしてある種の嫌悪感も持っていることも……だから、ここで俺が何をしようと無駄なのではないかと……。
そんな俺の脇腹を、種田さんがこっそり小突いてきた。
「大丈夫よ、安心なさい。あたしとかのを信じて」
俺の様子に気づいたのか、種田さんがこっそりとそう言葉をかけてくれた。
むしろ、こんなことで迷惑をかける方が、申し訳ないという気持ちの方が強かった。
「やっほーみんなぁ、お待たせぇ!」
と、少々微妙な空気感だったこの席に、花音の明るい声が響き渡った。
それだけで、この場の空気がかなり緩和されたというか……んんっ!?
「ひ、ひひ、久しぶりだね、みんな……! あっ! おいくん、おはようっ!」
俺の姿を認めるなり、花音の隣にいた樹は声を弾ませる。
途端、クラスメイト達は交互に樹と俺を見渡す。
「お、おはよ。これっていったいどういう……?」
「だって"パラコードブレスレット"を葵くんに教えたのって、樹ちゃんなんでしょ? だったら、樹ちゃんにも講師して貰おうかなって!」
花音はさらりとそう答え、俺の隣では種田さんがウンウンと頷いている。
「木村 樹さん! 遠いところ、しかも別の学校のためにわざわざきてくれてありがとね!」
「い、いえ! 花音ちゃんとか、種田さんとか、おいくんが頑張ってるって、聞いて! 僕で力になれるのならって! あと……どうしても、この場で、言いたいことがあって……」
樹は顔を真っ赤に染めて、モジモジしだした。
しかしやがて意を結した様子で顔をあげ、中学時代の同級生達を見据える。
「僕とおいくんね、仲直りしたよ! あの時の僕も悪かった、おいくんも悪かった、そんな風に……だから、今じゃ昔みたいに仲良しで、夏休みは一緒にバイト行ったりしたんだよ! ねっ!?」
樹の発言に、かつてのクラスメイト達は唖然とした様子を見せている。
「木村 樹さん、あなたはここ座りなさいな」
と、種田さん席を一つずれて、そこに樹が座り込む。
そうか……樹を呼んだから、種田さんと花音は、今日のメンバーとして中学の同級生だったクラスメイトを集めて……
「ありがとな樹。忙しかったろ?」
「んーん、大丈夫っ! それに中学の時のみんなと会えて、僕も嬉しいし!」
「じゃあ、今日の司会進行は葵くんと樹ちゃんでよろしく頼むね!」
俺の右隣には花音がそう言いつつ座ってくる。
またしても、箱根バイトの道中如く、花音と樹に挟まれる格好となった俺である。
「じゃあ、樹。よろしく」
「わ、わかった! えっと……じゃあ、パラコードブレスレットの作り方教えるね!」
ーーパラコードブレスレットとは、言葉通り、パラコードを使って編むブレスレットのことだ。
先日の映像通話で樹が身につけているのをみて、これだと思い、種田さん達に"森のカフェのおみやげ"として提案したものだ。
「おいくん、編み方はどうしよっか?」
「コブラ編みとフィッシュテール編みを作って、みんなに決めてもらおうぜ」
「ん! じゃあ僕はフィッシュテールで編むね!」
パラコードの編み方には"コブラ"と"フィッシュテール"の二つがある。
簡単にいうと、前者は軸紐へ輪を作って編み込む方式で、後者は軸紐へ左右交互に編み込んでゆくやり方だ。
見た目ではコブラ編みの方ががっちりしていて、フィッシュテールはスマートでシンプル。
俺と樹はものの数分でパラコードブレスレットを編み終わり、皆へと見せる。
花音と種田さんを中心に、どちらを採用するかの議論が始まった。
ーーちなみになんで樹がパラコードブレスレットなんかを身につけていたかというと、俺の存在が強く関わってるらしい。
なんでも湖上祭の時、俺が草履の鼻緒の修理に使ったパラコードをみて興味が湧き、色々と調べてブレスレット作成にまで辿り着いたそうな。
「オッケ〜! じゃあ、ブレスレットの編み方は"フィッシュテール"ってことで!」
花音がそう宣言し、誰も異を唱えない。
「ちょ、ちょっとまったぁ!」
と、これは"最後のチャンス"だと思い、声を上げる俺だった。
「実は、パラコードブレスレット以外にもう一つ"おみやげ案"があるんだよ!」
先日のお昼の際、花音と種田さんには却下を食らったけど、もしこの場でもう一案めであるコイツーーバードコールに惹かれてくれる人がいれば、あるいは!
「な、なにこれ……?」
さすがの樹も、木材にマルカンを捩じ込んだけのバードコールをみて、苦笑いを浮かべている。
「こ、これはバードコールって言ってな! このマルカンを捻ると……」
キュッキュといった、まるで鳥の囀りのような音が響き渡った。
正直、みんな微妙な表情を浮かべている。
「なっ!? いい音だろ!? 作り方もブレスレットより簡単だし、なによりもこの音が!」
「却下よ」
すかさず種田さんが鋭い声を放った。
「あは……葵くん、みんなも微妙なリアクションだし、さすがに諦めよ?」
花音もみんなの様子を加味しつつ、やんわり却下を告げてきた。
「ん、僕部外者だけど、花音ちゃんと種田さんの意見に賛成。そんなの喜ぶのおいくんくらいだよ?」
樹もはっきりとそう告げてきた。
「だけど、だけどぉ……!」
それでもやっぱりバードコールの方がいいと思う俺は食い下がる。
すると、隣の樹は盛大なため息を吐く。
「はぁ、もうおいくんは、そういうところねちっこいんだから! いいかげん諦める! えいえい!」
「あひゃ!?」
樹は花音みたく脇腹をツンツン突いてくすぐってくる。
「あひゃ!? ひゃはは……こ、このやろう! 俺もやっちゃうぞ!? 良いのか?」
「え? やだよ、普通に。僕がするのは良いけど、僕にはしないでよ」
わがまま樹め……ってなことを思っていると、前にいる、同じ中学だったクラスメイトがクスクスと笑い出した。
「ほんと、2人仲直りしたんだね。またその漫才が見られて嬉しいよ……ふふ……」
「ん! 僕とね、おいくんこんなふうに仲直りしたんだよ! ね?」
「お、おう……」
俺と樹のやりとりを見て、中学時代の同級生達は、いつの間にか柔らかい表情を浮かべるようになっている。
「さっ、ふざけるのはここまでよ! 早くブレスレットの編み方を覚えちゃいましょうね!」
種田さんの発声で、ようやく真面目に作成勉強会が始まる。
こうしてパラコードブレスレットの作成は、とても穏やかな雰囲気で進んでゆくのだった




