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第63話 葵、火の神となる!?

 依頼されたSNS更新をしていれば、あっという間に時間が過ぎ去ってゆく。


 そしてキャンプ場では非常に珍しい、赤提灯が火を灯し始めた。


 普通の夏祭りのように屋台が軒を連ねているが、ここは神社の境内ではなく、キャンプ場。

というわけなので


「なんか、さながらテントの見本市だなぁ……!」


 子供は子供で無料の屋台で楽しみ、大人は大人で屋台で供される炭火料理やお酒に舌鼓を打っていた。


 そんな明るい夜の中で、一際目立つ金色の髪と、白く艶やかな浴衣。


「わぁ! 上手上手っ! 頑張ってもう一個、ヨーヨー取ってみようか?」


 屋台テントの一角では、そこを担当している白い浴衣姿の花音が、子供たちを笑い合っていた。


 花音は本当に子供好きなのか、いつも以上に笑顔が眩しい。


 エマさんもすごくいい人だし、その娘である花音も、きっといいお母さんになるのだろう。


 ならお父さんは……っと、妄想はいかんいかん……俺は今、夏祭り会場の至る所に設置されている、焚き火台の火の維持と、お客さんに危険がないかどうかの巡回中だ。まずは仕事に集中……でも、ほんと浴衣って花音によく似合っているなぁ……


「お、おいくーんっ!」


 っと、そこへ別のブースでモルック体験を担当していた紺の浴衣姿の樹が駆け寄ってくる。


「おいおい、どうした? そんなに走ったら浴衣はだけちゃうぞ?」


「緊急事態! 高橋さんが呼んでるよ!」


「高橋さんが? わかった!」


 俺は同じ仕事を担当していたキャンプ場の職員さんへ事情を説明し、樹と共に舎営へ飛び込んでゆく。


「おう、葵来たな?」


「どうしたんですか!? なにか問題ですか!?」


「実はな……」


 高橋さんの脇ではまるでファンタジー世界から飛び出してきたかのような、ローブをまとった職員さんが椅子に座って足をさすっている。


「じつは"火の神"役がさっき足を捻挫しちまってよ。危ないから退場だ」


 火の神……これから行われるキャンプファイヤーの進行・点火役だ。

で、ここに俺が呼ばれったってことは……


「お前が代わりに火の神役をやれ、葵」


「マジっすか……てか、俺数年ぶりですよ? むしろ高橋さんの方が適任じゃ?」


「いやよ、なんか最近俺が火の神をやると子供に泣かれるんだわ……」


 確かに高橋さんの火の神って迫力がありすぎて、ちょっと怖かったと記憶している。


「葵の火の神、昔はバカうけだったじゃないか。だから頼むよ」


「むぅ……」


 今更、火の神をやるのが恥ずかしいという気持ち半分。もう半分は俺の火の神はツーカーな相棒が必要なのだ。

まぁ宛てはあるけど、2人とも忙しそうだし……


「なになに!? 葵くん、これから神様になるの!?」


 と、後ろから明るい声が聞こえてくる。花音だった。

どうやら跡を追って、駆けつけてくれたらしい。

もう、その表情から答えは決まっていて、


「ま、まぁ、そうなるな。でも協力者が必要なんだけど……」


「うん、良いよ! 私、協力するよ!」


 ほんと、最近の花音って皆まで言わずとも、俺のことよく理解してくれるよなぁ……

で、たぶん……


「ねぇ、葵くん、その協力者って2人いちゃダメ?」


「樹も、ってことだろ?」


「ええ!? ぼ、僕もぉ!?」


 まさか自分にまで飛び火するなんて、といった具合に樹は驚いている。


「むしろ2人欲しいなってね。俺が恥を忍んでやるんだから、樹も頼むよ」


「やろう樹ちゃん! 良い思い出になるよ!」


「ううっ……良いけど、あんまり目立つの、やだからね……?」


ーーこうして俺たちは急きょではあるが、キャンプ場祭のメインイベント、キャンプファイヤーの進行役である"火の神"を仰せつかることとなった。そこでずっとクラウドにしまっていた台本のファイルを、花音と樹へ共有し、準備を行なってーー



●●●



「あれ? 急に電気が?」


「なんだろ?」


「くらぁーい!」


 祭の会場から焚き火以外の火が消えて、お客さんたちは一瞬戸惑いを見せている。


 そんな中、一筋のスポットライトが金色の髪と白い浴衣を明るく照らし出す。


「こんばんは、みなさん。本日はご来場いただき誠にありがとうございます」


 そう流暢に、しかも綺麗な発声でマイクに向かってそう挨拶をする花音。

端役であろうとも、かつてドラマ出演したことのある彼女だからこそできる芸等だと思った。


 花音の綺麗さに、愛らしさ、そして美しい声音に誰もが耳を傾ける。


「それではこれより本日のメインイベント、キャンプファイヤーを始めます……今宵は山から、火の神様が降りてきてくださいました。みなさんで火の神様……アオイ様をお迎えしましょうぉ!」


 なんだよ、火の神アオイ様って!? 花音の奴、なんて無茶振りを……


「い、行くよ、おいくん!」


「フンガ」


 ロクすっぽ話せない俺はうなって応答。


 俺に寄り添ってくれている樹が、俺の手にある松明へ火を灯す。


 もうここまで来たら、やるっきゃない!


「キャ、キャーーーンプ、ファァァァァイヤァァァァ!!!」


 松明が炎をあげると同時に、俺は仮面の裏で、唸った。


 いま着けている炎を模した珍妙な仮面は呼吸用と、わずかな視界しか確保できない穴が空いているのみ。

足元は悪く、雰囲気を出すため、明かりは松明の赤々と燃える炎のみでとても、歩きづらい。


「み、みんなのところへ行きますよ……火の神、ア、アオイ様っ!」


 火の神を人里へ連れてくる巫女……といった役割を担うことになった樹は、俺の手を取り、ゆっくりと誘導をしてくれている。


 役がらとはいえ、樹と手を繋いでいること、そして足元が悪いこともあって、俺はめちゃくちゃドキドキしながらゆっくりと歩を進めてゆく。


 正直、お客さんはどういうリアクションをして良いかわからないといった雰囲気だ。

しかも、変わる努力をすると決めたとはいえ、やはりこうして視線が集ってくるのは、中2の頃のトラウマを掘り起こす。

するとーー


「火の神アオイ様はずっとひとりぼっちでした……いえ、アオイ様は1人を選んだのです。だってアオイ様はかつてその火によって私たち人を傷つけてしまったことがあるからです……」


 花音は俺が共有したキャンプファイヤー脚本にない、アドリブを語り始めた。


 なんだか、この話って……


「火は私たちから色々なものを一瞬で奪ってしまう危険なもの。その使いである自分は人から距離を置いた方が良い。1人でいた方が良い。自分は人を傷つけてしまう存在……そう考え、ずっと、ずっと、ずっと、寂しいのを我慢をして1人で過ごしていました。心優しいアオイ様は、そう思って必死に耐えていました」


 花音のアドリブは続いてゆく。だんだんとお客さんが彼女の語り口に引き込まれていることがわかる。


「でも今宵、アオイ様は、楽しそうなみなさんの様子を見て、勇気を出して山を降りてきてくださいました。火は危険なもの……でも同時に、みなさんを温め、笑顔をもたらすもの。自分はその使い。ならば今夜こそは勇気を出して、一歩を踏み出し、人の輪へ加わろうと! この火を届けようと!」


 花音の迫真の語りを、お客さんたちが真剣に聞き入っているのが暗闇の中でもよくわかった。


 そして俺も人知れず感じる……たぶん、花音は今までの俺のことを火の神様の話に例えて、語りかけてくれているのだと。


 もう1人ではないということを。もう自分を自分で許しても良いということを。


「だけどアオイ様は長くひとりぼっちでいたため、やっぱり少しみなさんが怖いみたいです。だから、みなさんでアオイ様を歌で迎えましょう! みなさんの歓迎の気持ちを歌で届けましょう!」


 それから花音は、キャンプファイヤーでは有名な歌をハミングし始める。


 まるで女神のような、小鳥の囀りのような心地よい歌声がキャンプ場へ響き渡る。

すると、1人、また1人と花音のハミングに同調し、あっという間にお客さん全員が歌を歌い始める。


「ア、アオイ様! 聞いてください! みんなあなたのことを喜んで迎えてくださってますよ! もう人はあなたが傷つけてしまったことを許していますよ! だから、勇気出してくださいっ! もう、僕も、みんなもアオイ様のことを許していますから! あ、あ、愛していますからっ!」


 花音に影響されてか、樹までもがアドリブをし始める。


 でも、そのセリフが奏功し、会場の熱気があがり、ハミングがより強く響き渡る。


 だったら、俺も……!


「キャンプゥゥゥゥゥ……ファイヤァァァァァ!!」


 俺はしっかりと地面を踏み締めて、力強く雄叫びを上げる。


 小さな子供も、大人までもがハミングの合間に「アオイ様、頑張れ!」との声援を送ってくれている。


 火の神に扮した俺は、お客さんたちが形作る温かい雰囲気の中、歩を進め、そして点火台に達する。


「フンガ!」


「僕たちは努力と健康の火をアオイ様からいただきました! 諦めることなく努力すること、元気な心と体を大切にすることを誓います!」


 まずは樹の持つ新たな新たな松明へ火を移す。


 そして樹と同じく空の松明を持った花音へ振り返り、松明の炎で彼女を明るく照らし出す。


「……ありがとう、花音……」


「え!?」


「フンガ!」


「あ、あ、えっと……わ、私たちはアオイ様から友情と協力の火をいただきました。お互いの良さを認め合って助け合ってゆくこと、これからも友達と協力してどんなことでも乗り越えてゆくことを誓いますっ!」


 花音は一瞬狼狽えつつも、きちんとセリフは述べてくれた。


「キャンプ、ファイヤァァァァァ……」


「「点火ぁー!」」


 俺の合図と同時に、花音と樹は点火台へ松明をくべた。


 やがて点火台が炎に彩られ、満天の星々浮かべる夜空を赤く焦がす。


「不意打ちやめてよ、驚くじゃん」


 すっと、俺に擦り寄ってきた花音は、小声で一言そうポツリ。


「でも、ありがとうって思うのは私もだよ? 今までありがとう……そしてこれからもよろしくね、葵くん!」


 花音はそう告げると、踵を返してお客さんの方を振り返り、レクリエーションである"焼きマシュマロ配布"の案内を、明るい声で話し始めた。


 でも花音と出会い、そして仲良くなったからこそ、樹とは仲直りができ、今の俺があるのだ。


 ありがとうと、これからもよろしくと伝えたいのはむしろ俺のほうだ。


 そしてキャンプファイヤーは、温かい雰囲気の中、とても盛り上がりーー


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