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第62話 汚れ仕事をする彼でも、2人は寄り沿ってくる。

「そ、そういうの僕、困りますぅ……!」


「そこをなんとか!」


「どうしたんですか!? 何事ですか!?」


 俺は樹に迫る中年男性ーーこのキャンプ場の職員さんーーの間へ割って入るのだった。


「おいくーん……ううっ……」


 樹は情けない声をあげて、俺の後ろへ隠れる。

すると、職員さんは困った表情を浮かべるのだった。


「あ、すみません……まさか、そこまで嫌だったとは知らず……若い女性なら、SNS得意だと思いまして……」


「SNS?」


「キャンプ場の公式アカウントなのですが、職員が変わるがわる毎日更新していまして……今回は若いアルバイトの方がいらっしゃると伺って、せっかくだからやってはいただけないかと思いまして……」


 だから現役女子高生である樹に相談を持ちかけたというわけか。


 俺の記憶が確かなら、樹は昔からそういうことが苦手だったような……。


 俺なんかはついこの間まで、完全なボッチだったのだから、アカウントさえもなく。


となると、ここで1番そういうのに詳しそうなのは……


「ちょっとアカウント見せてもらえます? キャンプ場の名前を検索すれば出てきますかね?」


 俺が軽く目配せをしただけで、この中で1番SNS運用に詳しそうな花音が名乗りをあげてくれた。

この間の電話といい、ほんと俺と花音はすっかりツーカーな間柄なんだと思った。


 俺もついでに同じSNSアカウントを見てみた。

努力の成果なのか、なかなかの投稿数にフォロワーである。


「わかりました。そのお仕事引き受けます!」


「あ、ありがとうございますっ!」


「って、わけで樹ちゃんと葵くんも一緒によろしくね!」


「ぼ、僕はっ……わわっ!?」


 俺は狼狽している樹の背中をポンと押した。


「樹、お前はそっちだ」


「え? おいくんは……?」


「そういうのは女子だけでやった方がいいだろうが。俺は別に仕事があるから」


 俺みたいなのが参画してもなんの戦力にもなりゃしないのは明らかだ。

それに、こうやって2人が別の仕事に入ってくれた方がキャンプ場バイトでの"1番大事な仕事"がしやすい。

むしろこの2人に、あんな仕事などさせられない。


「じゃあ、花音、樹のこと頼んだぞ」


「え? あ、うん……わかった……」


 花音も少々残念そうながらも、俺の性格をわかってくれているのか、あまりしつこくせず。


 俺は2人に背を向けて、さっさと歩き出す。


 そうしてキャンプ場での"最も大事な仕事"をする場所へ辿り着く。


「やっぱひっでぇなぁ……」


 俺はうず高く積まれた"ゴミ袋の山"をみて、ため息を吐いた。


 キャンプ場で仕事をする上での1番大事な仕事こそーー"ゴミの分別作業"なのだ。


「うぐっ……夏だから臭いきついな……でも……!


 ウッと感じる匂いをグッと堪えて、手袋をした手で手近にあった袋を一つとる。


 やっぱり……ちゃんと分別されていなかった。残飯や、料理の残骸の中に、プラスチック製品が混ざっていたので取り除く。

ほかにも使い捨てにBBQコンロが入っていたり、折らずに入れた割り箸がゴミ袋を突き破って汁漏れを起こしていたりなど……まぁ、俺がかつてアシスタントを務めていた、キャンプ場もこんな感じだったから、別にここだけの特別なことじゃない。


 このキャンプ場では受付の際、ちゃんとゴミ分別に関するご案内もしている。

このゴミ捨て場にだって、どのように分類した方が良いかが書かれている。

でもキャンプっていう非日常空間が、人の気持ちを緩ませて、こういう状況を作り出すのだろう。


「花音と樹に、ゴミの分別なんてさせられないよなぁ……」


 花音と樹には、このバイトは"楽しい思い出"で終わらせてほしい。

"ゴミの分別"なんて汚い仕事をさせられた! マジ最悪! もう2度としたくはない……などと思っては欲しくない。

 でも重要な仕事……"後片付け"に関するものなのだ。


「しっかし、量多いな……とほほ……」


「だねぇ〜。だから3人でやった方が良いよねぇ?」


「ーーっ!?」


 急に話しかけらかつ、突然横目に膨らんだバストが現れたのだから、驚くのも無理はない。


「もうおいくんは相変わらずなんだから……自分だけでやろうとしないでよ……」


 ドキッとする言葉と共に、視界の隅で艶やかな短い黒髪が揺れ動く。


「お、おい、2人ともどうして……?」


 俺は手袋とマスクをつけての、やる気体勢を見せている花音と樹へ問いかける。


「高橋さんにね、葵くんどっか行っちゃったって言ったら、"ゴミ漁りでもしてんじゃねぇか?"って教えてもらってね」


「余計なことを高橋さんめ……」


「なんかさ、やっぱこういうのって葵くんらしいよね。嫌なことでも、大事なことだから率先してやる君ってさ、素敵だと思う……でも、ちょっとだけ私と樹ちゃん怒ってるんだぞ?」


 マスクをつけていても、花音がぷっくり頬をふくまらせてるのがよくわかる。


「たぶん、君のことだから私と樹ちゃんにゴミ漁りなんてさせられない! なんて考えて、1人ですることにしたんでしょ?」


「それはええっと……」


「私、家の手伝いでこういうこともしてるし全然大丈夫なんだから! 大事なお仕事だってのわかるし! 私のこと舐めないでよね!」


「ぼ、僕もっ! 僕もねっ、部活のみんな、女子だけだからって、結構油断してて……僕とかが定期的にお掃除しないと、部室がカオスになっちゃうから……!」


「ねー? 女子だけの部って、部室がそうなりがちだよねー」


「花音ちゃんの部も?」


「そうなんだよぉ……別に私が特別綺麗好きってわけじゃないんだけどさ……」


 花音と樹は俺を挟んで、ゴミ分別をしながら話していて。

微塵も嫌な様子など感じなくて。


「……悪かった、2人とも……ありがとう……!」


 花音と樹へ向けて、心からの謝罪とお礼を述べた。


 すると花音と樹はマスク越しに笑みを浮かべてくれて。


 それから3人で、せっせとゴミの分別に勤しんで……今でも巻き込んだことに申し訳なさを感じつつも、こうして2人が寄り添ってくれることに胸を熱くしている。


 そうだよな……俺はもう1人じゃないし、こうしてわかってくれる花音と樹が側にいてくれるんだよな……。



ーー3人でやったおかげと、今回のキャンパーは良識のある人が多かったのか、ゴミの分別作業は比較的に早い時間に完了した。

というわけで……



「じゃーん! どお? 似合う?」


 今俺の目の前では、巨大な乳袋がばいんと揺れて……っと、そこばかりみているわけには行かない!


「あ、ああ、似合ってるよ、この上なく……」


「にひひ、あんがと!」


 白い生地に花の柄をあしらえた浴衣を着た花音は、上機嫌な様子だった。

ほんと、花音は何を着ても様になっていて、忖度なしで似合っていると思う。


「って、葵くん! ちゃんと樹ちゃんも褒める!」


「ええ!? ぼ、僕は良いよぉ……!」


 花音の隣は、濃紺の生地に花火が設られた浴衣姿の樹が、頬を赤く染めて俯いている。


 湖上祭の時の浴衣は中学の時に着ていたものなので、正直ちょっと子供っぽかった。

でも今着ているものは、大人っぽくなった樹にとてもよく似合っている。


「い、樹も似合ってるぞ……」


「んっ……! あ、ありがと、おいくん……」


「じゃっ、そういうことで! 葵くん、こっち来て!」


 俺は言われるがまま、花音と樹に近づいてゆく。

するとーー


「おわっ!?」


 なぜか急に花音が寄り添ってきて。合わせるように樹も体を寄せてきて。

2人にサンドされてしまう、俺。


「じゃあ撮るよー!」


 花音は有無を言わさず、掲げたスマホのシャッターアイコンをパシャリ。


 画面の中ではすごく素敵な笑顔を浮かべている浴衣姿の花音と樹。その間で、変な顔をしてしまっている俺。


 そういえばなんで、花音と樹が浴衣を着ているのかというと……


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