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第61話 葵には人を変える凄い力が備わっている

「ふふ! やっぱ葵くん、驚いてるよ! ね、樹ちゃん?」


「よ、予想通りだね、花音ちゃん」


「ど、どうしたんだよ急に2人とも?」


 思わずそう聞かざるを得なかった。

しかし花音と樹の2人は、くすくすと笑うだけだった。


でも、不思議な気持ちよりも、嬉しさの方が優っている。


ーー大事な、今の友達の2人が、名前で呼び合うほど仲が良くなったがまるで自分ごとのように嬉しいのだ。


「うっし! じゃあ気を取り直して、バイト始めるか!」


「はーい! 頑張ろうね、樹ちゃん!」


「んっ! 頑張ろ花音ちゃん!」


 まず俺たちはチェックアウトが済んだばかりの"バンガロー"に向かってゆく。


 バンガローとはキャンプ場にて、テント以外で過ごすことのできる低層で小規模な家屋のことだ。


「まずはここの掃除からね……っと、その前に、念の為に心構えを言っておく」


「心構え?」


 箒を手にした花音はキョトンとした表情でこちらを見返して来る。


「そ。キャンプってさ、結構色々と汚れるじゃん? その時ってキャンプだから仕方ないって割り切るじゃん?」


「そだね。テント張る時とか、汚れるのあんま気にしないで地べたに膝を立てたりするね」


「でもその精神は"キャンプをする方"だから。俺たち運営はそうあっちゃいけない! "キャンプは汚れるものだから、キャンプ場自体も多少汚くてもいいや"は御法度なんだ!」


「確かに人間、周りが汚いとまぁ、良いかってなりがちだよね……うちの部の先輩とか、誰も見ないからってロッカーの中ぐちゃぐちゃだし……影響されて、後輩にもぐちゃぐちゃな子がいるし……水着にカビが生えちゃった子も……」


 樹は苦笑い気味にそう愚痴るのだった。


「と、いうわけで! 2人は大丈夫かと思うけど、改めて語らせていただきました。 では清掃開始!」


 俺の訓示? が効いたのか、花音と樹は清掃を開始する。たぶん、2人とも綺麗好きなのだろうが、俺の言葉によってそれに更に拍車がかかったと思われる。


 さて俺も偉そうなことを語ったんだから、しっかりやららないと! と、水回りをピカピカになるまで磨いた。


 そして数件、同じような作業を繰り返し、場内の清掃もきっちり行って、次のお仕事へ。

返却されたレンタルテントやタープの整備、である。


「やっぱりこういう畳み方になるよなぁ……」


 整備のために返却されたテントを広げると、"とりあえず"バックに入るよう畳んだテントが現れた。

まぁ、テントってブルーシートみたくきっちり角が決まっているものの方が少ないので、どう畳んだら良いかわからなくなるのは理解できる。


 だからこそ、そうした可能性を想定して、俺たち運営は返却されたレンタル品は一つひとつ丁寧に紐解いて、必要あらばこうして正しくたたみ直したりする。


「樹ちゃん、そっちを織り込んで! そうすれば真四角になるからぁ!」


「う、うんっ!」


 花音はもうだいぶ手慣れた様子で、俺が言わずともテントを正しく畳んでいる。


 ほんと、ここ最近、花音のキャンプスキルは向上が目覚ましく、もはや俺のキャンプにおける最高の相棒といっても過言ではない。


 そして花音の嬉しい成長はそれだけではなく、


「あ、ひも切れちゃってますね。でもご安心を! こんなのちょちょいと……」


 花音は切れてしまったお客さんの切れたロープを、ひとえつぎという結び方で、ひょいっと直している。


 清掃、整備が終わり、だんだんと来場者が増えてきた。そこで俺たちバイトに課せられるのが、巡回。

これは主に、キャンプで困っている人に声かけを行うものだ。

そしてここでも花音は大活躍している。


 つい数ヶ月前までは、テントさえ建てられなかった花音からは、見違えるほどの成長である。


「花音ちゃん、すごいね、なんでもできちゃう」


 ふと俺と一緒に花音とは離れたところで落ち葉を拾い集めていた樹が、そんなことを口走る。


「だな。俺も花音の成長に驚いてるよ」


「それっておいくんのおかげだよね!」


「まぁ、多少は……でも、1番は花音の頑張りであって……」


「多少、なわけないじゃん!」


 いやに強い樹の語句に、俺は驚きを隠し切れない。


 そんな俺を気にせず、樹は言葉を続ける


「花音ちゃんは、おいくんと一緒にいたから変わることができた。それって間違いないことだよ!」


 樹の意外な発言に、嬉しいような恥ずかしいような。


 樹は昔から、さらっとこういうことを言ってくるから、驚いてしまう。


「僕だって、おいくんと出会えたから変わることができたんだから。君には人を変えることのできるすごい力があるんだよ?」


「お、おい、樹急にどうした……?」


 なんかえらく樹の語気が強い気がするのは気のせいか?


「ああ、もう分かれバカ! そんな凄いおいくんが、僕なんかとここで、呑気に落ち葉掃除をしてちゃだめだって!」


「おわっ!?」


 突然、箒を奪われた挙句、樹に背中を突き飛ばされる。


「はい、早く花音ちゃんのところ行く! で、お客さんの役にもたってくる! 掃除なんてノーキャンプスキルな僕に任せる!」


「で、でもよ……」


「早く行くっ! 行かないと、僕怒るよ!?」


「わ、わかった!」


 樹に凄まれる形で、俺はその場を飛び出した。


「葵くん、どうしたの? 樹ちゃんは?」


 と、突然現れた俺に花音はキョトンとしている。


「あ、いや……樹、あっちは1人で大丈夫だってことで、花音に合流しようかと……」


「そう樹ちゃんが……」


 僅かに。ほんの僅かに花音から逡巡のようなものを感じる。

でも、すぐさま花音はいつもの明るい花音となる。


「うん、わかった! じゃあ一緒にまわろ、葵くん!」


 こうして俺は今度は花音と共に、巡回へ。

今日は夏祭り目当てなのか、家族連れの初心者キャンパーが多いようで、仕事の量に関しては事欠かない


「ねぇ、葵くん……樹ちゃんを1人にしていいの?」


 ふと、一巡して落ち着いたタイミングでそんなことを口走る。


「いいも悪いも、アイツがこっちへって……」


「樹ちゃんってさ、ちょっと自分を犠牲にしがちなところってあるよね」


「そうか?」


「だーかーらぁー!」


「おわっ!?」


 俺は突然、花音に背中を押されてしまう。


「もうこっちは大丈夫だから、樹ちゃんのところ行ってあげて!」


「な、なんだよ花音まで……わかったよ……」


 なんだよ、今度は花音からかよ……と思った。


 まぁ確かに、巡回が落ち着いたので、そろそろ清掃へ戻った方がと思い、樹の方へ視線を向けると


「っ!?」


 樹は掃除をする手を止めて、とても困った様子を見せていた。


 樹の目の前には、なんだか一生懸命何かを語っている雰囲気の中年の男性の姿が。


「悪い花音! ついてきてくれ!」


「う、うんっ!」


 俺と花音は急いで、中年男性に絡まれている樹に駆け寄ってゆく。


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