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第60話 高橋さんからの教え。キャンプで1番大事なこととは?

「葵くんお疲れ様。これ飲んで!」


「ありがとう……んぐっ……!」


 地元から箱根湯本駅に向かうまでの乗り継ぎ3本、計3時間もの電車での移動中、結局俺はその長い時間、ずっと花音と樹の間に入って、2人の会話の架け橋というか、均等に話題を振るというか、そんな立場をやっていた。


 だって、乗り換えが発生しても、他の乗客のこととか色々あって、席順が必ず花音・俺・樹となってしまっていたからだ。


 いくら仲が良くて、ツーカーな花音と樹であっても、俺は所詮隠キャ。

道中3時間、必死に決して高くはないコミュ力を最大限奮い立たせ、間を繋いでいた。

よってキャンプ場アルバイトの開始前である現時点から、俺は相当げっそりなのだ。


 最初からこんなで俺大丈夫か……? まともに働けるのだろうか……?


「おいくーん! 高橋さん、いらっしゃってるよぉー!」


 改札機の向こう側から樹がそう叫んできた。

そして樹の隣には、俺の、いや、俺たちの姿を認めるなり、さらに驚愕な表情を浮かべる熊五郎のような見た目の高橋さんの姿が。


「お久しぶりです、高橋さん! お待たせしました!」


「お、おう……」


「初めまして、花守 花音って言います! 二日間お世話になります!」


 花音はそうハキハキと名乗り、同時に胸がばいんばいんと揺れていた。

そうしてぺこりと頭を下げれば、二の腕の間でムギュッと巨乳が圧迫されて、存在感を増す。


 高橋さんは良識のある大人の男性だ。でも、そんな高橋さんでも、思わず視線を寄せてしまうほど花音の胸は悪魔的な威力を秘めているのだろう。


「そ、それじゃあとりあえずキャンプ場へ向かいましょう」


 俺たち3人は高橋さんに従って、駅ホームを出てやや歩き、駐車場に停めてあった超絶カスタム軽トラックに案内される。


「わぁ! キャンピングカーだぁ!」


「これ本当に軽トラなの? すごい!」


 初めて近くで見る軽キャンパーに、花音も樹もものすごく興奮した様子を見せている。


 総工費数百万。軽トラの荷台に居室を構えた高橋さんの軽キャンパー。

これを乗り回して、高橋さんはキャンプインストラクターとして全国を駆け回っている。

俺も最初の頃はこんな風なリアクションを取っていたっけ。


「よかったらお二人とも、後ろに乗ってください」


「わぁ! ありがとうございます! 行こう、木村さんっ!」


「んっ! んっ!」


 花音と樹はお互いに興奮を隠しきれない様子で、荷台の居室へ入ってゆく。


 じゃあ、俺も……


「葵、お前はこっちだ!」


「ふぐっ!?」


 なぜか高橋さんに首根っこを掴まれて、進むことを阻まれる。


「お二人ともすみません、葵とはバイトの打ち合わせがあるんで、こいつには助手席に乗ってもらいます」


「え? 打ち合わせって、特にそんな……」


「だぁってろ! お前はこっちだ!」


「ちょちょ!?」


 俺は高橋さんの熊のような膂力で、無理やり助手席に押し込まれた。


 花音と樹が苦笑いを浮かべていたのは言うまでもない。


 そうして俺たちを乗せた高橋さんの軽キャンパーは、一路目的のキャンプ場に向けて発進。


 俺は後ろの居室で過ごしている花音と樹の様子が気になり、小窓から居室を覗き見る。


……なんか2人とも、仲良さそうな様子で、居室の中をあれやこれや見たり触れたりしている。

とりあえず、2人が気まずい雰囲気にはなっていないのことに、ホッと胸を撫で下ろす俺だった。


「なぁ、葵よ……お前がまた人付き合いができるようになったのは嬉しいぞ」


 ふと、ハンドルを握る高橋さんが、妙に神妙な口調でそう言ってきた。


「冗談で言ったつもりが、本当に、めっちゃくちゃ可愛い女の子を2人も連れてきてくれたことにはものすごく感謝している。ありがとう」


「い、いえ……」


「俺には息子が居ないもんだから、お前は俺の息子みたいなもんなんだ……」


「は、はぁ……?」


「だからこそ、そんなお前だからこそちゃんと言ってやる……お前、あの2人に何した!? なんか弱みでも握って、あんな可愛いこ2人に無理やりなことしてねぇよな!?」


「な、なにいってんすか急に!」


「だっておかしいだろうが!? お前、あんな可愛い子を2人も連れて来られるなんて信じらんねぇよ!! まさか、逆か? 俺を助けるためだと思って、お前が高い金を払って、あの2人に来て欲しいとたのんだとか……」


「高橋さん……俺もぶっちゃけて?」


「お、おう」


「酷いっす……」


 ちょっと演技を織り交ぜながらも、本音をぶちまけた。

まぁ、こういうことは信頼できる師匠の高橋さんだからこそ、できることである。


「おいおい、まさか……!?」


「花音……あの金髪の子は高校の同級生で、キャンプ仲間なんですよ。で黒髪の樹は、中学の頃からの友達で、最近また一緒にキャンプするようになっただけっす」


「そ、そうだったのか……わりぃ……がははは! そっか、ただのキャンプ仲間か! だよな! そうだよな! 葵だもんなぁ!」


 なんかものすごーく引っかかる物言いだったが、これこそ高橋さんだ。

豪快で、いい加減で、でも根っこはすごくあったかい人。

だかこそ、今の酷い物言いだって、気にしないでいられる。


「なぁ葵よ……」


 ふとまたまた真面目な高橋さんがまじめな声で、俺の名前を呼んでくる。


「なんっすか今度は?」


「俺が昔お前に教えた、キャンプで最も重要なこと覚えてるか?」


「もちろん! 後片付けですよね!」


「そうだ。次にまた楽しいキャンプをするためにも、夜露に濡れたテントはしっかり干して、ペグからは泥を拭って必要ならば錆びないよう油を塗る。ロープはきっちり束ねて保管する。ナイフもナタも、次ちゃんと使えるよう手入れをする。そうすることで、次もまた楽しくて快適なキャンプが楽しめる。その場が楽しかっただけではだめだ」


「そうっすね」


「それは人間関係も通ずることだ。今が楽しいのは良いし、存分に楽しむべきだ。でも、いつかは終わる。その瞬間、ちゃんとキャンプみたく片付けをするんだぞ。良いな?」


「……わかりました」


 なんとなく高橋さんが何を言わんとしていた俺は、そう返事を返す。

そして、今の言葉によって、ハッと気付かされた。


 花音と友達になって、樹と仲直りして、こうして3人でキャンプへ出掛けている。

これが"今しかできないこと"だということに。

 来年には花音も、樹も、俺も高三となって、先の進路を選ばなければならない。

そしてこの3人がこの車中のように、同じ道を歩むことは考えられない。

だからきっと、バラバラになってしまう。ひょっとすると疎遠になってしまうのかもしれない。


 でもその最後の瞬間に、しっかりと片付けを行えば、また集まった時楽しい時間が過ごせるようになるに違いない。


 かつての俺と樹、花音とアカネさんのように、片付けが不十分なばかりに、後に人間関係のしこりを残してはいけない。

また再会した時、楽しくキャンプをするためにも……。


 高橋さんはキャンプで1番大事なことを通じて、俺に生き方を教えてくれた。


 やっぱりこの方は、俺にとって、キャンプの師匠である以上に、人生の師匠でもあると感じた次第である。



●●●


「おーしっ! お前ら、夏祭りまでまだ時間があるから……葵、いつも通り、頼んだぞ!」


 バイト先である芦ノ湖湖畔のキャンプ場に到着した俺たちは、早速バイトを始めることとなった。


「はーいっ! 頑張ろうね、樹ちゃん!」


「そうだね、か、花音ちゃんっ!」


 突然のことに驚いてしまう俺。


 だって電車の中では"花守さん"と"木村さん"だったのが、急に"名前呼び"になっていたのだから。


 この短い道中に何があったんだ!?


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