第58話 俺に女の子を2人も連れて来いと!?
「んぁ……あれ? この番号って……」
夏休みもそろそろ終盤。すでに香月酒店にとっての掻き入れどきのお盆も終わり、夏休みの宿題も予定通り消化して、せっかくだから花音を誘って夏キャンプでも一回してみようかと思っていた時のこと、スマホへ懐かしい電話番号が浮かぶ。
「はい、もしもし! お久しぶりです高橋さん!」
『よぉ、葵! 元気にしてたか?』
電話のからは相変わらず熊五郎のような豪快な"高橋さん"の声が聞こえていた。
この方はかつて、俺がアシスタントを務めていたフォレストワールドのキャンプインストラクター……つまり、俺のアウトドアの師匠に当たる方である。
『今はよ、箱根の山奥のキャンプ場でインストラクターをしていてよ』
いきなり今、自分がどこにいて、何をしているのか言い出した高橋さん。
ってことはおそらく……
「手伝ってほしいってことですよね。いいですよ」
先回りして、そう言ってやる。すると電話の向こうで高橋さんは豪快に笑って「悪いな!」と言ってきた。
『あと、若くて可愛い女子を2人ほど一緒に連れてきてくれ!』
「は……?」
『いやよ、このキャンプ場、今週末にイベントで家族向けの"夏祭り"のようなものを開催すんよ。で、人を頼んでたんだが、急に来れなくなったとかで』
「あの、高橋さん、俺がどんな人間か知ってますよね……?』
高橋さんや、この人を慕って来場するお客さんのキャンパーのおかげで、立ち直ったのはいうまでもない。
『あん? おまえ、まだんなこと言ってんのか? んったく、最近の若い奴は情けねぇな……俺の若い時なんかはよ……』
「それ、今はパワハラに当たりますよ。昔の俺は〜ってやつ」
『がはは! 減らず口を叩けるほど元気になったってわけか! 良いことだ、良いこと! がはは!』
なにげに高橋さんの、ある意味適当で、だけど豪快なところが好きな俺である。
で、そんな高橋さんが、せっかくこうして俺に助けを求めてきてくれたのだから……
「あ、あの……さっきの件、女子を2人連れてきてほしいってやつ……一応、あてあります……」
『おお! そうか! さすが葵だな!』
「いえ……」
『とりあえず確認だけ頼むわ。すぐに条件の詳細を送るから。ぶっちゃけそんなに高い報酬は払えんから、よくよく検討してもらってくれや』
「わかりました」
『うんっっっっっっと、可愛い子を頼むぞ。じゃあよろしくな!』
高橋さんとの通話を終えると、数分もしないうちに、キャリアメール経由でPDFファイルが送られてきた。
ファイルの中にはキャンプ場の位置、業務内容、諸条件が書かれている。
芦ノ湖近くの良いロケーションのキャンプ場で一泊二日。夏祭りのスタッフ参加と並行して、普通にキャンプ場整備の仕事もあるそうな。
正直報酬はそれなりなんだけど、交通費全額支給がとても嬉しい要素だった。
キャンプをしたいと思っていたところだし、丁度いい。
では早速連絡を。こういうことはRINEよりも電話かな?
『もしもしっ! 急にどうしたの!? 葵くんが電話してきてくれるだなんて、珍しいねっ!』
数回の発信音あと、すぐさま花音の明るい声が響き渡る。
今日も今日とて元気そうでなによりだ。
「今、電話大丈夫?」
『うんっ! 全然! でなに?』
「実は俺のキャンプの師匠に当たる方から、キャンプ場のバイトの依頼が……」
『なにそれ!? 面白そう! 行くっ!!』
花音のあまりの即答ぶりに、面を食らってしまっている俺である。
「お、おい、まだ俺は詳細をなにも……」
『だって葵くんも行くんでしょ? だったら私、沖縄でも北海道でも一緒にいっちゃうよぉ〜!』
「そ、そこまで遠い場所じゃないって……箱根で、今週末一泊二日、メインの仕事はその日に開催される夏祭りイベントのスタッフで、空いた時間は施設管理の仕事を……」
『わぁ、夏祭り! 今年、葵くんと湖上祭行けなかったからちょうど良いね!』
「いや、スタッフだから遊びに行くんじゃ……」
『わかってるよ! でも葵くんと一緒だから嬉しいのっ!』
全く花音は相変わらず嬉しいことばかりを言ってくれる……と、このままだと、流れで会話が終わってしまいそうなので……
「たださ、もう1人女の子を連れてきてほしいって言われてて……」
『あ、じゃあ、今タネちゃんと一緒だから聞いてみるね! あとでかけ直すね!』
そう花音は一方的に告げて、電話を切った。
なんかすっかりツーカーになってるな、俺と花音って。
と、そんなことをしみじみ思って胸を熱くしていると、再び花音からの着信が。
『ごめん、葵くん……タネちゃん、今週末は無理っぽい……』
今度は打って変わって、とてもしょげている花音の声であった。
俺も、花音と種田さんだったらやりやすいと思っていた。
花音の方も、相方が親友の種田さんなら、良いかなと思ったんだけど仕方がない。
「他にもあてはあるけど、葵くん的にマズいよね……? よく知らない人いるの嫌だよね?」
『別に嫌ではないけど……』
あくまで仕事で行くし、恩人の頼みなのだから、そこはわがままを言いたくはない。
でも、そっか、種田さんは無理か……じゃあ……
『き、木村さんは、誘ったの……?』
と、俺が今まさに考えていたことを口にする花音だった。
確かに予備案として、樹を誘うといった選択肢は想定済みだった。
「うん、俺も今、それ考えてた。でも、あいつ夏休みは部活で毎日扱かれてるって、言ってたし……」
『でも聞くだけ聞いてみようよ。私は全然、大丈夫だから』
「わかった、聞いてみる。でも、もしもの時は、他の友達お願いできる?」
『うん。その時は遠慮なく声かけて』
「ありがと。あとでRINEで詳細送っとくから」
『うん……木村さん、来てくれるといいね! じゃっ!』
さて、花音はOKと……じゃあ次はと、樹への発信を試みる。
やっぱり出ない……まぁ、夏休みは毎日、鬼コーチに扱かれてるって愚痴ってたしなぁ……と、諦めかけたその時、
『ちょちょちょ、ちょっとまってぇー! すぐに掛け直すっ! ほんと待ってっ!』
一瞬、樹と電話が繋がるも、ぷつんと切られる。
ややあって、いつも通り樹から"映像通話"の申請が。
わざわざ起き上がるのも面倒だからベッドに寝転がったまま、受話っと……
「ーーーーっ!!!」
スマホの画面へババンっ! と写ったのは、黒いテカテカの生地に覆われた双丘。
普段は豊かであろう、そこは着用しているのは競泳用の水着なためか、窮屈そうに押しつぶされている。
『はぁ……はぁ……お、おまたせっ! おいくんっ!』
まるでしゃべっているかのごとく、樹の胸が揺れていたりして。
花音ほどではないけど、それでも樹もまたかなり成長している……。
「おい、樹、顔が見えん……」
『そぉなの? どんなふうに見えてる?』
あえて答えろというのか、樹よ……むむむ……




