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第56話 花音とハンモック

「おーい、葵ー。KANONさんから、注文が入ったから配達頼めるかー?」


「はいよー」


 夏休みのある日、花音の実家であるCAFE  KANONから、香月酒店に注文が入った。


 一応毎日花音とRINEのやり取りはしているが、実際に会うのは久しぶりだ。

なので俺は、二つ返事で父さんの配達依頼を了承し、注文品をスーパーカブに詰めて出発する。


 そうしてCAFE  KANONへやってきたのだがーー


「あ、あれ? 臨時休業日……?」


 普段はカッコイイ車とかバイクでいっぱいな駐車場はがらんとしていた。

店にも明かりが灯っていない。

 でも注文をかけてきたってことは、誰かしらいるのだろう。

そう思い、搬入口のある裏手へ回ると、


「やっほー! 葵くんっ! 久しぶりっ!」


 なぜか扉の前で花音が待ち受けていたのだった。


「こんちは。もしかして花音が注文を?」


「そっ! まぁ、葵くんに会いたいなぁが大半だったんだけど」


「じゃあ別に普通に呼べば良いじゃん?」


 俺の至極真っ当なツッコミに、さすがの花音も苦笑いを浮かべる。


「まぁ、そう思ったんだけどさ、実際お店でそろそろ補充しといた方が良いものもあったし、普通に来てもらうよりも、こうして仕事としてきてもらった方が、葵くんの稼ぎになるじゃん? その稼ぎって回り回って、私たちのキャンプ費用になるわけだし!」


「抜け目ないなぁ……」


「あと、ちょっと手伝って欲しいこともあって」


「了解。でもその前に……」


「注文品の確認しないと、だよね!」


 とりあえず俺と花音は真面目に注文品の確認を行なって、所定の場所に手分けしてしまってゆく。


 CAFE  KANONの担当になってから、しばしばサービスで注文品を所定の保管場所まで持っていっている。

なのでここのことは、花守家以外の人間では1番よく知っているのだと思う。


 おや? お客さん用のシロップが少ないな……補充しとくか。


「あっ! シロップ補充されてるっ!」


 と、しばらく経って、気づいた花音がそう声を上げている。


「少なかったら入れといたよ」


「ありがと葵くん! 君はもう……す、すっかり……」


「?」


「う、うちの人、みたいだね……? えへへ……!」


 うちの人とは、スタッフとか、そういう意味だろうか?


 そうして仕事を終えて、再び裏庭へ戻るとーー


「お疲れ様! 今日はこれの設置を手伝って欲しいんだ!」


 そういって花音は小さな袋を掲げてみせる。


「それってハンモックセット?」


「そ! この間ね、この辺りにキャンプをしにきたお客さんとね、キャンプの話が盛り上がっちゃって。で、お古だけど良かったらどーぞってくれたんだ」


 ふらりと店に立ち寄ったお客さんと仲良くなった挙句、何かを頂戴できる……やっぱり花音は正真正銘の陽キャなんだと改めて思った次第である。


「私、ハンモックって憧れてたんだけど、ちゃんと設置できるか不安で……だからお願い、葵くんいっしょにやって!」


「はいよ」


「やったぁー! じゃあまずはどうしたら?」


「まずは"設置場所"を決めないとな」


 とりあえず、花音の家の裏手にある林へ目を移し、設置場所があるかどうかを確認する。


 ハンモックといえば木の間に吊るすイメージがある。

その設置方法が1番エモいのはわかってはいるんだけれど、


「うーん、木の間はやっぱり無理かぁ……」


「そうなの?」


「うん。ハンモックを吊るすには最低でも樹間3メートルが必要なんだよ。ここ結構な密植だからなぁ……」


「あーだから! ちょっと待ってて!」


 そう叫んだ花音は店の中へ飛び込んだ。

ややあって、花音は2本の頑丈そうな木材をマルカンで接続したものを抱えてくる。


「これね、ハンモックをくれたお客さんがいっしょにどーぞって! ハンモックを吊るすとき使えるだろうからって!」


「す、凄いな……まさか専用スタンドも貰っているだなんて……でも、これさえあれば!」


 スタンドさえあれば設置場所の自由度は広がること間違いなし。

片方を木に、もう片方はこのスタンドにハンモックの紐を括れば良いのだから。


 俺は早速、袋からカラフルな色合いで、網目の細かいハンモックを取り出す。凄く綺麗なハンモックだと思った。


「わぁ! このハンモック綺麗!」


 なんか花音と意見が被って、ちょっと嬉しかったり。


「メキシカンハンモックだね、これ。ご覧の通り通気性に優れるんだよ」


「そうなんだ! ってことは、他にも種類が?」


「最近よく見かける、寝転がる箇所が布状のものをブラジリアンハンモック、更に生地が厚いものをコロンビアハンモックっていうんだよ」


「やっぱり葵くんといっしょにやって正解だなぁ! あっという間に私、ハンモック博士になっちゃえるんだもん!」


「はは……にしても……」


 ここに来て一つ、ハンモックにトラブル箇所が見受けられた。

 網の一部が切れていたのだ。

 多分、服のボタンや、身につけていた鍵類の先端などをひっかけてしまったのだろう。


「あ、ここ網が切れてるね……だからくれたのかなぁ……」


「まぁ、ただでくれたものだから贅沢は言えないよね」


「そだね……」


 花音はとても残念そうな様子を見せていた。

まぁ、別に、破れていてもほとんど問題はないんだけど……でも、せっかくだし!


「少々お待ちを」


「でたぁー! 葵くんの決め台詞っ!」


「んじゃ、ちゃっちゃと治しちゃいますかね」


 メキシカンハンモックは一見、複雑な編み方に見える。しかし一本の糸の単位にまで分解すると、上・上・下・下もしくは下・下・上・上のいずれかの編み方の繰り返しなのだ。


 だから糸が切れている箇所を冷静に見極めて、ルール通りに編みなおして、切れている箇所を結び直すだけ。

 ちなみにこんなことができるようになったのも、アシスタント時代、師匠に仕込まれたからである。


「ほい、修理完了!」


「ありがと! んふふ……いつものことだけどさ、こうやってさらっと修理しちゃう葵くんってほんと、かっこいいよね!」


「そ、それほどでも……じゃあ、気を取り直して設置を!」


「ラジャー!」


 まずは木の方へロープを括るのだが、注意点が一つ。


「ロープで木の幹が傷つかなよう、布なんかを巻いた上でロープを括るんだ」


「そだね。皮が剥けちゃって木が可哀想だもんね」


「括る箇所は地上から大体150センチくらいの場所でね」


 木の幹へロープをくくりつけ、次はスタンドの方へ。


 このスタンドは2本の角材をマルカンで繋いだだけのものなので、自立性はほとんどなく、2本のロープをそれぞれ45度の角度で張る必要がある。


「ロープは"自在結び"で良いかなぁ?」


「オッケー。俺、スタンド支えてるから花音がよろしく」


「ラジャー!」


 俺がスタンドを支え、花音がロープとペグでテンションをかけ始める。

ロープのテンションを自在に変えられる"自在結び"さえも、難なくこなしてゆく花音。


 出会ったばかりの頃は、簡単なテント張りさえ苦労していた花音だが、俺と数多くのキャンプをこなしたことで、だいぶ成長してくれたらしい。いっしょにキャンプをしてきた者として、この成長はとても嬉しいものである。


「できたぁー! ハンモックっ! 早速っ!」


 花音は早速、設置を終えたハンモックへ寝転がった。


 なんかちょっと、普通のハンモックよりもやや大きいような気がする。


「なんか、このハンモックすごく大きいね」


 どうやら花音も俺と同じ感想を抱いた様子で。


「2人用なのかもね、このハンモック」


「そうなんだ。2人用……」


 なんだかほんの少しだけど嫌な予感がする……


「ね、ねぇ、葵くん……こっち来て?」


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