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第53話 種田さんの思惑

 南京結び。


 この結び方はしっかり結べば緩みにくい。しかし意図して解くときはとても簡単に解ける。

しかもこの結び方は普通にロープを張って結ぶよりも、約5倍のテンションをかけることができるのだ。


 ちなみに俺もバイクへキャンプ道具を積むときは、この結び方を多用している。


「花音! 今からロープを投げるから先端の輪っかを荷台のフックに引っ掛けて!」


「ラジャー!」


 先端に荷台のフックへ引っ掛けるための輪っかを作ったロープを投げる。

ややあってテンションが掛かかり、ロープがピンと張り詰める。


「先っぽの輪っか、フックにかけたよー!」


「ありがとー! じゃあ始めるよー!」


 荷物によって反対側が見えない場合、こうやって2人で行い、お互いに声を掛け合うととても作業が順調に進むのだ。


ーーそれでは南京結びを開始!


 伸ばしたロープの先に輪っかを作って、その輪っかにロープを二周巻いて2つ目の輪っかを作って。

新たに作った輪っかを8の字になるよう捻って、8の下の方にロープを通してフックに引っ掛けてーー


「ギュッと、ロープを引っ張る!」


「わぁ! 凄いっ!」


 反対側にいる花音の感嘆の声と共に、ロープに強いテンションが生じて、山となっていた剪定枝を押しつぶされる。

そうしてロープをフックに引っ掛けて、次々と同じ南京結びを施して行けばーー


「すごい、ガッチガチだわ……! これだったら安全に運べるわね!」


 縛り終えた軽トラックの荷台を見て、種田さんはとても興奮していた。

他の生徒会役員たちも感心したような唸りをあげている。


「結構しっかり引き締めたんで、そんじょそこらの運転じゃ荷崩れは起こさないかと思いますよ」


「んふ……んふふふ……」


 と、なぜか俺の後ろで花音が笑ってる……?


「ど、どうしたんだよいきなり……?」


「やっぱ葵くんって、凄いなぁって。頼りになるなぁって!」


「ど、どうも……」


「やっぱ、葵くんを呼んで大正解! いつもありがとね!」


 相変わらず花音に褒められて、自己肯定感爆あがりな俺である。


「おっ? 上手い縛り方じゃないか」


 気づけば、いつの間にか生徒会顧問の先生が来ていて、荷台に括った枝の山を、感心した様子で見上げている。


「これ、そこの香月 葵くんがやってくれたんですよ」


 すかさず種田さんがそう答えると、顧問の先生はニカッとした笑みをこちらへ向ける。


「ありがとな、香月! まさか君にこんな特技があっただなんて」


「い、いえ……」


「悪いがもう少し、生徒会の手伝いをしてやってくれないか? まだ同じ作業が残ってるんだが……?」


 正直なところ"えー、もう帰りたい……"と思っている俺だった。

しかし、種田さんに生徒会役員の面々、そして花音も期待の視線を寄せてくれている。


「あ、えっと、まぁ……わかりました」


「はいはーい! 私も手伝いまぁーす! だから一緒に頑張ろ、葵くん?」


 面倒だけど、花音が一緒にやってくれるなら、まぁ……良いかと、思うことにした。

それに、なんかこういう"期待の視線"って、なかなか受けることがないから、少し嬉しかったりもする。



ーーそれから小1時間ほど、俺と花音は、種田さんや生徒会の人たちを枝の片づけを行うのだった。



●●●



「やっぱり、ここってこの辺りじゃ色々と格上よね」


「うふふ、ありがと! このキッシュね、私が焼いたの! ぜひ感想聞かせて! 葵くんも!」


「お、おう……」


 約束していたお昼はどんなところへ連れてゆかれるかと思いきや……行き先は花音の両親が経営している、cafe KANONであった。


 種田さんがいう通り、ここは確かにこの辺りじゃかなりいいお店に分類されている。

ランチもそこそこの値段なのだが、俺と種田さんが顔を出すなり、母親のエマさんはとても喜んだ様子でランチプレート無料で提供してくれたりと。なんかちょっと、申し訳ない気がするも、そこは好意に甘えさせてもらうと決めて、今に至っている。


「まっ、香月 葵のイメージ向上作戦の第一段階はこんなところね」


 ふと食後のコーヒーを飲んでる中、種田さんがそんな言葉を口走る。


「ひょっとしてタネちゃん、また私の時みたく?」


 花音がそう聞くと、種田さんは「まぁね」と答えて、再びコーヒーを口に運ぶ。


「実はね、タネちゃんのおかげで、今の私があったりするんだ。高校になってこっちに来たばかりの私に、タネちゃんが声をかけてくれて、色々と遊びに誘ったり、友達を紹介してくれたりして……」


「初めて会った時から、かのとは友達になりたいと思ったし。いきなり知り合いもいない土地にやってきて、右も左もわかんなくて、心細いだろうなってね」


 なるほど、花音と種田さんにはそんな経緯が……花音も、花音なりに苦労をしてきたんだと、改めて思う俺だった。


「で、その応用じゃないけど、香月 葵のイメージ向上作戦をしてみようと思ったわけ! だからさっきのトラックの件は、かのにお願いして香月 葵を呼んでもらったのよ。もちろん、ちゃんと困ってはいたんだけどね」


「なるほど、そういうことで……」


「これを繰り返してゆけば、そのうちかのと香月 葵が学校で普通に話してても、誰も首を傾げないようになると思うわ!」


 乾いた笑いが禁じ得ない俺だった。それだけ俺って……


「イメージ向上って……やっぱ俺って、そんなに良くないんですか……?」


「まぁさ、ここって田舎だから香月 葵の中学の時のこと、知っている人が結構いるのよ。実際、私もグランピングで話すまでは、変なイメージを持っていたわけだし」


「やっぱ、そうっすよね……」


 ひょっとすると、俺がずっとぼっちだったのは、これが強く影響しているのかもしれない。


「でも、大丈夫よ! 香月 葵にはもう、かのとあたしが付いてるんだから! 二学期からは、楽しい学校生活にしようね! ご馳走様!」


 コーヒーを飲み終えた種田さんは、ぴょんと椅子から飛び降りて、スタスタと席を離れて行く。


「タネちゃん、もう帰るの?」


「今日はママにエクステのやりかた教わるんだ。上手くできるようになったら、かのにもしてあげるからね」


「それってようは実験台ってことでしょー?」


「そうとも言うわね。じゃ、お二人さんごゆっくり〜♩」


 背も小さく、見た目は幼女っぽい。

だけど生徒会では副会長を務めていて、姉御肌で、面倒見のいい種田さん。

今日ほど、彼女の背中が大きく見えたのは言うまでもない。


 新学期が始まったら、種田さんにはなにかしらの形でお礼ができればと思う。


「葵くん、新学期が始まったら、今日以上に頑張ろうねっ! 私もタネちゃんと一緒に手助けするからねっ!」


「ありがとう! ……なんだけど、明日から夏休みなのに、いきなり新学期の話か?」


「あは! 確かに! まずはこの夏を一緒に楽しもうね!」


 こんなにもワクワクする夏休みなんて、中1の頃以来だ。


 できる限り、この夏は楽しみたい。そう強く思うのだった。


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