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第52話 夏休み直前の大事変

「さてと……んじゃ、行ってきまーすっ!」


 グランピングを終えた翌日、終業式のためだけに学校へ向かってゆく。

そんな中、朝から珍しいことにポケットの中で、スマホが震える。



花音『おはよ!』


A.KOUDUKI『おはよ。てか、こういうRINE明日からじゃ?』


花音『1日早いけど、もう始めちゃおうかなって!』


花音『迷惑……?』


A.KOUDUKI『全然迷惑じゃない』


花音『ありがと!』


花音『じゃあ学校でね!』


 ここでRINEは終わってもよかった。しかし気まぐれが発動したというか、俺も自分を変えると決意したわけで。

だから……


A.KOUDUKI『学校での呼び方なんだけどさ、名前で良いよ』


A.KOUDUKI『俺も、花音って呼ぶし』


 かなりドキドキしつつ、勢いでそんなメッセージを送った。

こういう時こそ、すぐに既読表示がついて欲しいもの。

しかしこういう時に限って、なかなかその表示が浮かばず、やきもきしてしまう。



花音『ラジャー!』


 と、返ってきたのは極めて短い返事と、金の毛色をして人のように敬礼をしているミニチュアダックスフントのスタンプだった。

ほんと、いつみてもこのスタンプって花音にそっくりだよな……なんて、どうでも良いことを考えながら、いつもの如く空気のように存在感を消して、通学路を歩んでゆく。

 やがて坂道の向こうに生徒を次々と吸い込む校門が見え始めた。


 するとそこには一際、目を引く金髪で、すらっとしていて、しかも巨乳な目立つ女の子が立っている。

もしかして、俺のことを……?


「お、おはよう……花音っ!」


 勇気を振り絞って、自分から挨拶を投げかけた。

すると、俺の接近に気づいてなかっただろう、花音は僅かにぴょんと跳ねた。

 同時に校門に吸い込まれている何人かの生徒が、何事かと言った具合の視線を寄せてくる。


「おおお、おはよう! えっと……あ、葵くんっ!」


 花音がそう叫ぶと、道ゆく生徒のほとんどが足を止め、視線を向けてくる。


 うぐっ……花音と学校で仲良くすると、こうなるとはわかっていたけど……やっぱりこういう視線って辛い……


「はいはいはーい! 見せもんじゃないわよ! 早く行った行った!」


 との、頼もしい声が足元から聞こえ、周囲のみんなはその声に従って再び動き始める。


「やっほー香月 葵。昨日はお世話になったわね」


 花音の後ろからぴょこんと、種田 菜種さんが姿を現す。


「た、種田さん!? お、おはようございます! 気づかなくてすみません……」


「密かにあたしの背が小さいことディスってんじゃないわよ!」


「す、すみませんっ! 決してそんなことは……!」


「冗談だってば! 本気で謝んないでね! てへ」


「タネちゃんね、私たちのためにわざわざ待っててくれたんだ」


 花音がそういうと、種田さんは少し恥ずかしそうに頬をかく。


「有名人のかのと、ある種の有名人な香月 葵がいきなり、しかも名前で挨拶し会ったら、みんな気にすると思ったのよ。あんたたち嫌なんでしょ、そういうの?」


「俺たちがというよりは、主に俺が原因といいますか……ありがとうございます、種田さん。助かりました」


 まだまだ勇気は半ばの俺にとって、種田さんのように気遣いをしてくれる存在はありがたく思う。


「良いのよ。代わりにお昼奢って貰うから」


「そりゃもちろんっ!」


「うふ、言ったわね? かの、どこが良いかな?」


「あ! ここもぐログの評価高いよ! あーでもランチで最低2000円かぁ……」


 ランチで2000円!? どんな高級店だよ、そこ!


「いいわね、そこ! あたしの顧問料としては安いくらいだわ」


「じゃあ、ここにしようか?」


「あ、あの、お二人さん……? それ本気でおっしゃって……?」


 などといったくだらない会話を交えつつ、俺たちは靴を履き替え、教室へ入ってゆく。


 花音と種田さんは、早速いつもの女子グループの輪に入って会話を始めた。


 俺はいつも通りに席に着いて、すぐに机へ突っ伏した。

なぜなら、一部のクラスメイトたちが、珍しく俺に視線を合わせて、なにかヒソヒソと話しているからだ。


 多分、さっき、俺が花音や種田さんと話していたことが原因なのだろう。


 クラスのボッチと、学校一の美少女とその友達がやけに仲良さげに会話をしていた。

恰好のトピックだというのは誰が聞いても明らかだ。

 正直、こういう状況はあまり好きではない。


 だけど、俺は変わると決めたんだ。

だからこういう状況にも、今後はしっかりと耐性を作ってゆくべきだと思う。



●●●



ーー今日は1学期最終日ということで、退屈な終業式、ホームルームに、掃除と行った具合に、慌ただしくすぎてゆく。

そうして昼となり、下校時間を迎える。


 そういや今日の放課後は花音や種田さんとランチに行くんだっけ?

でも、2人の姿がみえないけど、どこに行ったんだろうか?


「お、おい! 香月!」


 と、珍しくというか、高校に入って初めて男子に苗字を呼ばれた気がする。


「は、はいぃ!?」


 情けなくも素っ頓狂な声で返してしまう俺だった。


 なぜなら俺の名前を呼んだのが、いつもヒソヒソと俺のことをディスっている、袴田くんだったからだ。


「あの、なにか俺に御用で……?」


「お前、朝、随分仲良さそうに花守さんと話してたみたいじゃん?」


「ああ、えっと、まぁ……」


 そういや袴田くんって、花音狙い? だったんだっけ?

だから得体の知れない俺と好きな人が話をしていたのが気になる、といったところだろうか?


「お前と花守さんって……ど、どういう関係なんだよ!? 白状しろよ!」


 うわぁ、出た、ド直球な質問。


 変わると決めたからには、こういう場合でも臆せず"友達"と答えれば良いんだろうけど。

しかし今の場合、緊張で答えづらいというよりも、嫌な気分の方が優っている。

明らかに上から目線の袴田くんへ、素直に答えるのが癪に障るからだ。


 だからといって変な答え方をすると、また変な噂をばら撒かれそうだし、どうしたものか……


「葵くぅーーーーん!!」


 俺と袴田くんの微妙な空気を打ち破るかのように、廊下から教室へ花音が、胸をばいんばいんと揺らしながら駆け込んでくる。


 さすがの袴田くんも、教室にいる他のクラスメイトも何事かと、こちらへ視線を注いでいる。


「どうかしたのか?」


「緊急案件だよ! 葵くんじゃないと解決できないやつ! だから来てっ!」


「おわっ!?」


 花音は有無を言わさず、俺の手を掴んで、席から無理やり立ち上がらせる。

俺の傍では袴田くんが、明らかに驚いた表情をしている。


「あ、あの花守さん! もしかして香月が花守さんの……」


「ん〜〜?」


「ひぃっ!?」


 花音が妙な声を上げた途端、袴田くんは突然言葉を詰まらせた。


「葵くんは私の大事な友達で、師匠だから」


「し、師匠?」


「そっ。てか、あんまり詮索しないでくれる? 君には関係ないでしょ? 私、そういうことする人嫌いだから」


「ーーっ!? き、嫌いって……」


 袴田くん轟沈。まぁ、好きな人にそこまで言われちゃうと辛いわな。合掌……


「ほら、行くよ葵くんっ!」


 項垂れる袴田くんを尻目に、俺は花音に手を取られて校舎の外へ連れ出された。

そうして向かったのは、校庭の隅に植樹されている木の下。

そこには剪定した木々の枝をこんもりというか、明らかに積みすぎな軽トラックと、それを唖然と見上げている生徒たち。


「タネちゃん! 最強のお助けマン連れてきたよ!」


「やっぱり来てくれたわね、香月 葵!」


 軽トラックの付近から、種田さんが俺へ駆け寄ってくる。


「これは一体どういう状況で……?」


「生徒会顧問の先生に頼まれて、みんなで剪定枝を軽トラに積んだんだけど、ご覧の通りなのよ……」


 軽トラックの荷台には車高よりも遥かに高い、剪定枝の山が出来上がっていた。

車を動かした途端、崩れそうな雰囲気である。


「みんな調子良く枝を乗っけてたら、こんなことにね……積み直すのも面倒だし、第一危ないし……でも、ときどきトラックってこういう荷物を運ぶ時、ロープで括ったりしてるじゃん?」


「そうですね。確かにこういう時は"南京結び"が良いですね」


「それよ! やっぱりアウトドアが得意な香月 葵なだけはあるわね! さすがだわ!」


「タネちゃんたち、その結び方がわかんなくて困ってて。でも、葵くんなら絶対やりかた知ってると思って! だからお願い、葵くんっ! タネちゃんたちのために、ロープで結んであげて!」


「しょ、少々お待ちを……」


 半ば気圧される形で、俺は軽トラックへ向かってゆく。


 なんか他の生徒会役員の人たちも、期待しているっぽいし……やるしかない!


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