第51話 おはようとおやすみのRINE
「こ、これはっ……!」
「んっ! 美味しいっ!」
俺と樹は思わず、そろって唸りをあげた。
そんな俺たちを見て花音は"してやったり!"という風の笑顔を見せた。
「良いでしょ、ギョーザニア!」
「さすがかのね。ラザニアっぽくみえるけど、中身は餃子……だからギョーザニアなのね!」
種田さんもとても美味しそうに、とろけたチーズを伸ばしながら、花音の作った"ギョーザニア"を口へ運んでいる。
ちなみに脇で作り方をみていたけど、これはすごく簡単だ。
スキレットに餃子を放射上に並べて、その上からパスタ用のミートソース、とろけるチーズをかけて、蓋をして焼くだけ。
餃子の皮がラザニアの生地、中身がひき肉などといったソースの具の代わりを果たしてくれるので、とても食べ応えがある、すごく美味しいキャンプ飯だと思う。
とはいえ、花音曰く、これは手抜きバージョンなそうで。
家でやる時は餃子も包んで、ミートソースとホワイトソースも自作するそうな……いつかそのバージョンも食べてみたい気はする。
むしろ、次のキャンプのメインでやりたいことを"本格ギョーザニア"にしてみるか?
「これタバスコかけたらもっと美味しいかもね」
幼女のような見た目をしていて、実はこの中では1番大人な嗜好かもしれない種田さんはそんなことを呟く。
「タバスコかー。さすがに持ってきてないなぁー」
「えっと、近くにスーパーはあるっぽいですよ?」
花音のぼやきを拾って声を上げたのは、なんと樹。
樹はスマホのナビアプリで、近くのスーパーを検索済みなようで、画面を皆へ見せてくる。
「あら、仕事が早い! 木村さん、よかったら一緒に買いに行かない?」
「ん! そうします! じゃあ、おいくん、花守さん、僕たちちょっと行ってくる!」
樹はそう言って、タープから真っ先に飛び出した。
「うふふ……お二人さん、ごゆっくり〜♩ こっちもゆっくり帰ってくるからねぇ〜♩」
種田さんは謎な発言をして、樹に続きタープを後にする。
樹は昔からフットワークが軽いし、種田さんもそういう印象がある。
あの2人も案外相性がいいのかもしれないと思った。
「い、行っちゃったね……」
「あ、ああ……」
不意に花音と2人きりとなり、久々のこの状況に少々緊張感を抱いてしまう俺だった。
そりゃ、いくら仲良しとはいえ、花音はものすごい美人さんで、しかもTシャツを羽織っているとはいえ、その下は水着なのだ。
他にも胸の谷間がいつも以上に見えたり、太ももが美しかったり、こんなあらゆる点で綺麗な女の子が側にいて緊張しない男など、いやしないだろう。
「あ、あのさ、葵くん……」
花音もまた、なぜかすごく緊張した様子で、俺のことを呼ぶ。
「な、なに……?」
「ご提案があるのですが……」
なぜか花音は俺から視線をやや外し、消え入りそうな声でそう言ってくる。
「提案? 何?」
「えっとね、このキャンプがね、終わったらあとは終業式だけで、すぐに夏休みじゃん?」
「ああ、そういえば……」
「そうなるとさ、暫くお昼、一緒にできないよね……」
「確かに……」
言われてみればキャンプ以外で、花音と密な時間を過ごすのは学校でのお昼だけだ。
それが暫くお預けになるという事実は、俺に若干の寂しさを抱かせる。
「夏ってね、うちのお店観光で来たお客さんがたくさんくるの。だから、私もお店に立たなきゃいけないの。部活もね、忙しかったりするんだ。他にも、タネちゃんとか、別の友達とのこととか、色々あって、たぶんバタバタするだろうし……」
「そうだろうね。花音は俺よりも友達多いだろうし」
今でも花音みたいなリア充で、とても可愛い女の子が相手をしてくれていることに、ふとした瞬間夢か幻ではないかと思ってしまうところはある。
「葵くんも、お店のこととかで忙しいでしょ……?」
「いや、俺はそんなには……」
ぶっちゃけ、俺の夏休みは基本的に暇である。三日三晩、ゲームに費やしたって、何の影響もない程に。
まぁ、今年は秋以降のキャンプを考えて、少し多めに家のバイトをしようとは思っているが、それでもぼぉーっとしている時の方が多いだろう。
「だ、だからねっ……!」
花音はグッと身を寄せて、青い瞳でこちらを見上げてきた。
単なるいきなり接近された驚きと、可愛い花音の顔が俺の心臓を一瞬でドキドキさせる。
「夏休みに入ったら、毎日"おはよう"と"おやすみ"のRINE、しても良いかな……?」
「え……!?」
「暫く会えないし……でも、会えなくても葵くんとは、いつも繋がっていたいなって思うし! もし、葵くんがそういうの嫌じゃなくて、迷惑じゃなかったらなんだけど……」
「めめ、迷惑とか、嫌だなんて俺はっ! むしろ花音こそ、めんどくない?」
いきなりの提案に、とても困惑してしまった俺は、思わず心にもない言葉を出してしまう。
「ううん、全然っ! むしろさせてっ! お願いっ!」
しかし花音は臆する様子も見せず、こちらへお願いをしてきてくれている。
「じゃあ……いいよ……?」
「やったぁぁぁぁぁ〜〜! ありがと、葵くんっ! すっごく、すっごく嬉しいっ!!」
花音は青い瞳をキラキラと輝かせて、大きな胸をばいんばいんと揺らして、喜びを表していた。
たかが、RINEを毎日するくらいで、ここまで喜んでくれるとは予想外だった俺である。
「じゃあさっ! もしお互いの予定が合うなら、遊びに誘っても良い!?」
「お、おう! もちろん! むしろ俺はバイトの時以外は暇だろうから」
「ふふ……! 葵くんとの夏休みかぁ……楽しみだなぁ!」
「あ、ああ、そうだね……」
「だったらさ、夏休みにもキャンプしたりしようか!? やっぱ葵くんと私じゃキャンプでしょ!?」
「うーん……そこは要検討なんだよなぁ」
「あれ? そうなの?」
「夏休みってハイシーズンでさ、どこも人がいっぱいだし、利用料も休日料金でめちゃ高だし……」
「ああ、そっか、確かに……むむ……じゃあ、どこ行こうかな……こうやって海は来ちゃったから、湖上祭に夏祭り……ああ、でももう一回海でも良いかなぁ……」
すでに花音は夏休みのことで頭が一杯なようだ。
しかも、その中には俺の存在さえも勘定に入れてくれている。
とてもありがたいことだと思う。
今年の夏休みは、中1の時以来の楽しいものになりそうだと思い、俺は今から期待で胸を膨らませる。
ほんと、花音と出会って、仲良くなって、俺の生活は激変したのだと改め自覚するのであった。




