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第44話 じれじれ? な花音

 樹から受け取った5円玉の穴を、種田さんの手に刺さった棘が中心になるよう押し当てた。

そしてギュッと力を込めれば、先ほどまで完全に埋没していた木材の棘の先端が、飛び出てくる。


「樹、頼む」


「ん!」


 傍に控えていた樹が飛び出た棘の先端を、毛抜きで摘み、あっという間に抜いてしまう。


 やはりこのやり方は2人の方がやりやすい。

片方は棘を浮き上がらせることに、もう片方は抜く方に集中できるからだ。


「一本め完了。次、行くぞ樹〜」


「ん!」


「花音は念の為に消毒液用意しといて」


「わ、わかった!」


「……」


 俺と樹は協力して、種田さんの手に刺さった棘を順次抜いてゆく。

 そうのこうのして、種田さんの手に刺さった細かな棘はどんどん抜けてゆきーー


「あ、ありがと、香月 葵……木村 樹さん……」


 種田さんは棘の抜けた手をギュッと抑えつつ、そうお礼を言ってくる。


「葵くん、やっぱすごいね! なんでこんなおばあちゃんの知恵、みたいなの知ってるの!?」


「こ、これもアシスタント時代に教えてもらってね……」


「僕も昔、今の種田さんみたいにおいくんに棘抜いてもらったんだ! ね?」


「そうだったな」


 樹の時は、当時仲良かった連中と総出で取り掛かったから、結構難儀した記憶がある。

 あれって確か、夏の湖上祭の時だったよな……。


「さ、さぁて! じゃあタネちゃんも治ったし、みんな集まったってことで、早速BBQ……」


「花守さん、ちょっとまって!」


と、樹は花音へそう声をかける。


「今僕とおいくんでしてることあるから……また、30分後に集合でも良いですか?」


「え? あ、うん……良いけど……」


「ありがとうございます! おいくん、さっきの続き!」


 続きとはたぶん、さっきまで一緒プレイしていたゲームのことだろう。

まぁ、俺はもうわりとそのことはどうでも良いんだけど……樹の気持ちを無碍にはできない。


「行くよ、おいくん!」


「お、おい、待てよ!」


「早くっ! 早くっ!」


 俺は嬉々とした様子で先行する樹に続いてゆく。


 ほんと、元通りになったんだな、俺と樹って……と考えると、無性に嬉しくて仕方がなった。


ーー予定通り、俺と樹はまずゲームを片付ける。

そうして改めてホテルの部屋のようなテントを出ると、俺たち専用の屋根のついた豪華なプラベートバーベキュー施設には、すでに花音と種田さんの姿があった。


「葵くん、見てみて! 食材すっごく豪華だねぇ!」


 俺の姿を確認するなり、花音は一目散に近づいてくる。


「あ、ああ、そうだね……」


 テーブルの上に並ぶ、新鮮な海鮮やら肉などを見て、花音はとても興奮しているようだ。だからなのか、妙に俺との体の距離が近いような……?


「こんな豪華な食事が宿泊料に含まれてるんだから、グランピングって最強だよね!」


 プライベートな空間で、美味しい食材でバーベキューをする……これがグランピングの醍醐味の一つらしい。

 基本的にグランピング施設では、バーベキューであっても、旅館やホテルのようにコンシェルジュやサービス員に、バーベキューの焼きさえもお願いできるのだが……


「では、先生よろしくお願いします!」


 俺へ花音は火バサミや、手袋といった火付道具を渡してくる。

 花音はコンシェルジュをキャンセルし、俺に火付をやらせてくれるらしい。


 正直、ここにやって来てからやっぱり"キャンプとしての物足りなさ"を感じていた俺にとって、花音のこの行動はとてもありがたいものだった。


「じゃあ、花音は食材を焼く準備をよろしく!」


「うん……あ、あのさ、葵くん……」


 いつもはこういうと大体元気よく「ラジャー!」と返してきてくれる花音なのだが、ちょっと様子がおかしい気がした。


「木村さんとはどう? 仲良くできてる……?」


 花音は一瞬、テーブルで種田さんと談笑している樹を見て、そう言った。

 なるほど。花音は俺と樹が仲直りしたばかりだから気にかけてくれてるんだな。


「仲良くしてるよ。だからさっきまでゲームに付き合わされててね」


「そ、そっか! ゲーム……ゲームしてたから遅くなったんだね!?」


「ごめんね、こんな時までゲームだなんて」


「ううん、良いんだよ、大丈夫……私もそのゲーム始めてみようかなぁ……そしたら教えてくれる?」


 キャンプ、バイクに次いでゲームまで花音が興味を持ってくれたことに、俺はとても強い喜びを感じた。ほんと嬉しい、花音と共有できることがどんどん増えることが。


「もちろん!」


「やったぁ! じゃ、じゃあ、今夜、そっちのテントへ突撃しちゃうね!?」


「ああ、是非きてくれ!」


 そうしてくれりゃ、樹と2人きりにはならないし、花音とだって遊べる。

一石二鳥だ。


「んじゃ気を取り直して、バーベキューを始めよう!」


「ラジャー!」


 さてさっさと火付をしないと……と思い、バーベキューコンロへ近づいて、思わず硬直してしまう。

 コンロは炭火で焼くものではなく、ガスで着火するものだった。

 これって買うと数万するバーベーキュー台なんだよな……さすがはグランピングといったところか。


 そして先ほど花音が渡してくれた火バサミと手袋は、どうやらウッドデッキの隅っこにちょこんとおかれている焚き火台で使用するものらしい。


「わぁ! このバーベキュー台、アウトドアショップでみたことある! すっごく高くいて良いやつだよね!」


 と、傍からちょこんと現れ、俺とは対照的に嬉々とした様子を花音は見せている。


「これだと俺の出番はないね……ガス式だから、火なんて簡単につくし……」


「あっ……そ、そうだね……確かに……」


「でも焼きは俺がやるから」


「わかったよ! じゃあ、今日はよろしくねっ、料理長さん!」


 花音はそう明るくいって、食材の並べられているテーブルの方へ向かってゆく。

ちょっと気を使わせちゃったかな……気をつけないと。


 そうして、花音が運んできてくれる、ぶあつい肉やら海鮮類を、ガス式のバーベキューコンロで次々と焼いてゆく俺。

 なんの苦労もなく、お肉も、海鮮も、野菜も順調に焼けてゆく。

これで失敗する方がおかしい……


 にしても暑いな……今日は気温も高いし、火の前にいるし、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。


「ん」


 と、ちょうど良いところで、顔の傍へ表面に水滴を浮かべた、缶ジュースが現れた。


「サンキュ……!?」


「あ、熱いんでしょ? 飲みながらやりなさいよ」


 てっきり樹あたりが気を利かせてジュースを持ってきたと思っていた。

 しかし、俺にジュースを差し出していたのは、なんとちょっと恥ずかしそうにそっぽを向きつつ、缶を差し出している種田 菜種さん。


「さっき、棘を抜いてもらったお礼……っていうには、全然足りないと思うけど、とりあえず!」


「ど、どうも」


 俺は若干、挙動不審になりつつ、ジュースを受け取る。

 これまで種田さんとはまともに会話すらしたことがないからだ。

花音の親友だけど、正直、どう接していいかよくわからない……なんてことを考えている俺の傍へ、なぜか種田さんは並んでくるないか!?


「なんか、香月 葵、手慣れてるわね。すごいじゃない」


 俺よりも遥に背の小さな種田さんは、俺を見上げながらそう行ってくる。

彼女の上目遣いに心臓が跳ね上がった。


「な、何がっすか……?」


「うちね、この間始めてキャンプってものしたの。バーベキューなんてものも始めて。家族みんなで、"これちゃんと焼けてるかなぁ?"なんて、首を傾げながらやったの。実際、生焼けのものも結構あったし……でも、香月 葵が焼いてくる食材はみんな、良い感じに焼けてる。だから、なんか慣れてるなぁって」


 確かに俺自身も野外活動を始めたばかりの頃は、食材の表面ばかりを焦がして、中が焼けていないことが多々あったと思いだす。

今はそんなことないし、第一、今使ってるバーベキュー台はガス式だから火の通り具合なんて、いくらでも簡単に調整できるし……


「でもなんかちょっと、物足りないのよね。この間のバーベキューに比べて。香りがちょっと違うような?」


「もしかして、この間種田さんのご家族は"炭火"でバーベキューをしたんじゃ?」


「そうだけど?」


「なら多分、その物足りなさって煙の香りが食材に移ってないからですね」


「ああ! 確かにっ! 今のままだと、なんかバーベキューって気がしないのよねぇ……」


 種田さんとまともに話したのはこれが初めてだ。

だけど、このバーベキューに関して、同様の意見を持てたことで、一気に親近感が湧いた気がする。


そこで……


「で、でしたら炭火でもやりましょうか?」


「できるの?」


「少々お待ちを!」


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