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第25話 君のことが大大大好きな……(前半花音・後半???視点)

「花守さん、好きです! 付き合ってください!」


 今年入って通算10回目の告白を受ける花守 花音だった。場所はベターな体育館裏。

相手はサッカー部のエース・袴田くん。女子からの人気も高い、イケメンくん。


「ごめんなさい、付き合えません」


 初めの頃こそ、告白というものを断るのにも勇気がいった。しかし、そのおかげで苦い経験も多数している。

よって、こういうした断りは、きっぱり誠実に。曖昧な答えは絶対にダメ!


「もしかして他に好きな人でもいるの?」


 しかし今回は終わりにならず袴田くんは、意外な質問をして食い下がってきた。


「あーえっと……」


「いないなら、やっぱり俺と付き合おうよ! 今、好きじゃなかったとしても、絶対に好きにさせてみせるから! 俺、花守さんのこと大切にするから!」


 袴田くんは自信満々にそう言ってくるも、"無し"という気持ちがより強まったのみ。むしろ、全く好みではない。

 そしてこういった男子は、曖昧に返事を返すと、話を勝手に進めて、困らせてくるというのは、これまで多数の告白を受け、その数だけ断ってきた花音の経験則。


 特に今は、そうした状況になってしまっては困る。

だから、


「ごめんなさい。私、今……す、好きな人がいるんです……!」


 告白されているにも関わらず、まるで自分がしているかのような緊張感の中、花音は答えた。


「誰!? もしかして男子バトミントン部の先輩でしょ!?」


「違います」


「じゃあ……!」


「あの、良い加減にして貰えませんか? なんで君に教える必要があるんですか?」


 さすがにしつこいと、花音は笑顔で厳しい言葉を口にする。

その言葉を受けて、花音の怒りが伝わったのか、袴田の顔色は真っ青なものへと変わってゆく。


「ご、ごめん……俺……」


「あまりズケズケと人のこと聞くのは良くないと思いますよ。少なくとも、私はそういう人を好きになれません」


「ぐっ……」


「あと……君がしつこいから"好きな人"がいるって答えたけど、これ、誰も知らないことなんです。だから、ちゃんと黙っててくださいね?」


 念には念を。彼は昔、色々とあって目立つことを恐れている。だから、今は周囲に彼と自分の関係を知られるわけには行かない。


「わ、わかりました……言いません、誰にも……」


「よろしくお願いね! じゃっ!」


 花音はあっさりそう告げて、体育館裏から出て行ったのだった。


 まさか、親友の種田 菜種より前に、好きな人がいると、誰かに伝えてしまうとは想定外だった。


 だけど、大きな収穫があったのもまた確か。


「そっか、男の子って、ちょっと話しただけで好きな人を勘違いしちゃうんだ。気をつけないと……」


 自分への自戒も込めて、あえて言葉にする。


 クラスメイトの袴田くんが、好きな人と勘違いした、男子バトミントン部の男の先輩とは、確かによく話しをしている。

 だけどそれは同じスポーツをするもの同士のコミュニケーションでしかない。


 いや待て……ひょっとすると、あっちも、勘違いして声をかけてきているんじゃ……?

それはマズイ……彼を不安がらせたくはない。


「はぁ……もぉ……いつか、ちゃんと私のこと守ってよね。もう私、君こと以外考えられないんだから……」


 花音はそう愚痴りつつ、スマホに彼の画像を呼び出して、デコピンを喰らわす。

そして歩きながら、短い間にずいぶんといっぱいになった、彼の画像を次々スワイプさせてゆく。


 そんな中、校門に差し掛かると、今まさに学校を出ようとしていた彼の背中を発見!


とはいえ、いきなり声をかけたりはしない。


 まずは周囲の確認。誰もいないことをチェック……よし! そしてーー


「葵くんっ!」


「おわっ!? な、なんだよいきなり!?」


「えへへ! 一緒に帰ろっ! 今、周りに人はいないから大丈夫っ!」


 昔、色々とあったのだろう香月 葵は、人目を避ける傾向がある。

 花音自身も、葵とは形は違えど、昔色々とあった。

だから、無理に自分の価値観を押し付けたりはしたくない。


「ねぇねぇ、次のキャンプどうする?」


「そうだなぁ……ああ、でもこれから梅雨時だしなぁ……」


 葵の横顔が、花音には眩しく写っていた。

そしてやっぱり、言葉を紡ぐ、葵の唇に意識が向いてしまう。


ーー3回目のキャンプの際、花音は寝ている彼の唇へこっそりキスをした。

そのことを思い出し、花音は内心悶絶している。


 あんなことをしたいと思ったのは初めてのことだし、半ば勢いだった。


 でも、した瞬間、胸がカッと熱くなって、とても幸福な気持ちとなって……そこから、ずっと曖昧だった、香月 葵への気持ちが、花音の中ではっきりと定まったような気がする。


 普段は寡黙でクール。でも、いざというときはとても頼りになって。

いつも助けてくれて。そして優しくて……


「なに? さっきから俺の方ばっかり見て……」


「み、みてないっ! えいえい!」


「ぐはっ!? だからいきなり指ツンツンするのやめてって!」


「やっぱりプニプニ♩ 鍛えようよぉー!」


「お、俺もやっちゃうぞ!? 良いのか!?」


「できるものならどうぞぉ? ほれほれぇー」


「ぐっ……」


 こうやって恥ずかしがるところも、また可愛い。


 葵のそばにいる時、花音の豊満な胸の奥にある心臓は、常に緩やかな鼓動を発している。


 それだけ花守 花音にとって、香月 葵という存在はーー


「じゃあ、また明日! 明日はたぶんお弁当一緒にできるかも!」


「了解。じゃあ、また明日」


 バスに乗った花音は、律儀にいつまでも見送ってくれている葵へ窓越しに手を振り続ける。

そうして彼の姿が見えなくなると、また画像フォルダから葵の写真を呼び出す。


「私、君のこと大大大好きだよ……だから、これからも一緒に楽しいこといっぱいしようね!」


 まだ葵の画像へ向けてのみ、こういう言葉言える。


 でもいつの日か、この想いが伝わって、周りを気にせず、正面をからそうした甘い言葉言い合える関係になりたい。

できれば、今度は葵の方からキスをしてほしい。

 葵にだったら、その先のことだって、全然許せてしまうし……初めての相手は葵が良い、とさえ考えている。


 そんなことを願いつつ、花音は明日のお昼を楽しみにしているのだった。



●●●


ーー某日、彼女はスマホを握りしめ、久々に実家への連絡を試みる。

程なくして、彼女の父親が電話口に現れた。


「あ? お父さん、久しぶり……うん、元気にやってるよ……この間の水泳の大会も優勝だったよ。でも、オリンピックは、まだまだ遠いかなぁ……そ、それでね、ちょっと今日はお願いがあって……」


 何気ない用語であるのは、彼女も理解している。

しかし、その用語は彼女にとって、とても思い出深く、そして"彼"を象徴する大事な一言。

 そしてその言葉を発っしたくなったのは、一瞬だけでも、彼の姿を久々に見られたために他ならない。


 かつてとても大事だった、彼女にとっての初めての友達の姿を……。


「……来月あたり時間が取れそうだからさ……僕、久々にキャンプしたいんだ……!」



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