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第19話 小火騒ぎ!? 管理人さんからの感謝。

 あそこで樹に見つかったのは想定外だった。


 でもその想定外のおかげで、俺は安心することができた。


 樹は今、実家を離れてあの立派な学校に通って、寮で生活をしている。


 中学入学当初の樹は、今の俺よりも、遥にボッチで隠キャだったので、ちゃんと友達ができるか、密かに心配していた。

でも樹はちゃんと1人で友達を作り、そして今も元気な様子で水泳に打ち込んでいるようだ。

 ならばもう、樹にとって俺は"過去の友達"だ。俺自身もそれで良いと思っている。


 俺はもう樹に関わらない。

ちゃんと成長した樹の邪魔をしちゃいけない"過去の友達"なのだから……。


ーーそれに、俺には"過去の友達である樹"よりも、大事にしたい"今の友達の花音"がいる。

むしろ、樹とのことがあったからこそ、より強く花音との関係を大事にしたいと思っている。


 俺は樹の残像を振り払うかのように、ギアをあげ、アクセルを捻り、バイクを加速させる。


 そうして延々と続く長い国道を走り続け、目的地である「森の中のキャンプ場」に到着する。


 受付施設の売店にはキャンプ用品に混じって、さらっとヘルメットやバイク用品なんかが並べられている。

管理棟の脇にも、立派な大型バイクが停まっていたし、ここの管理人さんはバイク好きなのだろうか。


 さてと、まずは受付っと……


「あの、お連れ様は?」


「ーーっ!?」


 っと、さらっと受付を済まそうと思った矢先に、管理人のおじさんからのこの一声。


 そうだよ、ここはファミリー限定だから、一緒に来場するのが普通じゃないか! 


「あ、ええっと、つ、妻はその、ちょっと別件があって、別ルートできてまして……先に自分がチェックインして、設営をする予定になってまして!」


 管理人のおじさんは一瞬、怪訝な表情を浮かべる。


「ほ、ほんと来ますから! 妻の花音はちゃんと!」


「……わかりました。奥様がいらっしゃいましたら、念のためにこちらへいらしてください」


 なんとか誤魔化せたようだ。


 俺は受付表へ、香月 葵とその下に、花音とささっと記入し、そそくさと管理棟を出て行く。


 やっぱりいくら設定とはいえ、花音のことを妻のように扱うのは恥ずかしいなぁ……


 と、そんな中、スマホが振動を起こす。



花音『着いた?』


A.KOUDUKI『ちょうどチェックインしたところ』


花音『こっちは今電車まち!』



 予定よりも少し遅れているな? なんかあったのかな?



A.KOUDUKI『遅くね?』


花音『ちょっと駅ビルで美味しそうなものがあってみちゃってたらw』


花音『楽しみにしてて!』


A.KOUDUKI『了解』


A.KOUDUKI『あとここの管理人さん、すっごく疑り深かった』


A.KOUDUKI『だから、妻設定の徹底よろしく』


花音『わかった、頑張る!』


花音『到着するまでに設営よろしくね』


花音『あ・な・た♩』



 まったく花音は調子に乗って……まさか、妻設定をいいことに、今回も一緒に寝るとか言い出さないよな……?


 まぁ、良い。そうならないよう、テントを2つ張るのだから。


 今回は全部俺が設営するから、前回のようなミスは無いはず。


「うっし、やりますか!」


 荷物を担いで、いざ木陰が心地よい、森の中のキャンプ場へ。


 料金の都合上、一番安いプランのフリーサイトーー自分でキャンプ区画を選ぶプランーーなので、良い場所は早い者勝ち。

今回は多少の別料金を支払って、アーリーチェックインという、早めの到着を許される制度を利用している。

よって、まだ他のキャンプ客はほとんどおらず、今なら選び放題!


 そこで俺は森の中であっても、かなり開けた平地を選んだ。


 太陽動きから日向と日陰のバランスが良いと思ったからだ。


 突然の雨でも川のように雨水がながれることはないだろうし、木から少し離れているので落雷があっても大丈夫。


 どんな天候になろうとも、今回こそは花音と最後までまともなキャンプができる場所だと言い切れる。


「さて、初め……ん?」


 早速、設営に取り掛かろうとしたところ、鼻に焦げ臭い匂いが流れ込んでくる。


 チェックアウト時間は過ぎているし、俺のようにアーリーチェックインをしているお客は1人もいない。


 嫌な予感のした俺はその匂いを辿って、森の中を進んでゆく。


 そして地面からもうもうと上がる白い煙と、枯れ葉を僅かに燃やす赤い炎が確認できた。


「くそっ! 前の客が十分に消火しきれなかった炭を捨ててったんだな!」


 このキャンプ場では、炭に関してはきちんと処理した上で、持ち帰るよう言われている。


 だけど、一部のマナー違反の客は、持ち帰るのが面倒で、地面の中に埋めて行くことがある。この小火はそうした一部の自分勝手な客によって引き起こされたのだろう。


「すみません、先ほどチェックインした香月です! フリーサイトに小火ぼやがあります! すぐに来てください!」


 まずは管理人さんへ連絡。

その後、俺は念の為にと持ってきていたPVCーーポリ塩化ビニルーーで作られた、折りたたみ式バケツを手に、炊事場へ駆け込む。


 そして開いたバケツへ20Lもの水を汲み、再び小火の起こっているフリーサイトへ。


 しかし20Lは、つまり20kgである。


 普段、そこまで運動をしていない俺にとって、その重量は体へかなりの負担だった。

それでもなんとか踏ん張って、水をバシャバシャこぼしながらも、なんとか元の場所へ戻って。


「消えろぉぉぉぉ!!!」


 先ほどよりも多少燃え広がっていた地面へ、しゃにむにバケツの水をぶちまけた。


 ジュワッといった音と共に蒸気が上がり、独特の生臭い匂いが立ち昇る。


 消えたか!? いや、わかんない! なら、もう一回!


 と、再び空のバケツを手に炊事場へ戻ろうとした時のこと。


荷台に水の入ったバケツを満載にした軽トラックが飛び込んでくる。


「どちらですか!?」


「あそこです! とりあえず、一回水はぶっかけました!」


 俺と管理人さんは、荷台のバケツの水を、サイトがびしゃびしゃになってしまうくらい、しつこくかけて行く。

おかげで地中の炭も温度を失ったのか、小火は治りを見せる。

それから俺と管理人さんは薄く地面を掘り、そこから太くて黒い炭の塊を摘出し、作業は完了だった。


「香月さん、この度はご協力いただきまして、本当にありがとうございました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」


「いえ、ぜんぜん!」


「お礼といってはなんですが、今回の利用料はサービスしますね」


 やった! ただになった!


「またなにか困ったことがありましたら、どうぞご遠慮なくお声がけください」


「はいっ!」


「奥様、早くいらっしゃると良いですね」


 管理人さんはそう言ってにこやかに軽トラックで、管理棟へ戻って行く。


 小火騒ぎでちょっと失念していたけど、ここを出るまで、花音は俺の妻ってことになってるんだよなぁ……


 なんだそう思うと、無性に胸がむずむずして、少し今の花音の様子が知りたくなって、スマホを取り出す。



A.KOUDUKI『いま、どのへん?』



 普段は結構高頻度で、すぐに花音は既読をつける。


 だけど、今回はなかなかその表示が浮かばない。


 ひょっとすると、寝てるのかな?


 なんだか、今朝も早そうだったし……なら、邪魔したら悪いよな。


「さてと、気を取り直して設営を!」


 花音が来るまでに、あの子がびっくりするくらい立派なサイトを構築してみせると意気込んで、俺は作業に移って行くのだった。


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