第3話 依頼は討伐、狙いは財宝
勇者パーティーの次なる依頼は――古代竜の討伐だった。
王都から北へ三日。霧に包まれた山脈の奥に、その竜は棲んでいるらしい。
依頼内容にはこうある。
『討伐報酬:金貨三千枚。副産物はパーティーに帰属』
副産物、つまり竜の巣にある宝は全部俺たちのものってことだ。
もっとも、勇者とエルフは「竜を倒して魔王討伐への足がかりに!」と燃えている。
俺は「竜を倒す」部分に一切興味がない。
狙いはただひとつ――竜が守っているという《炎帝の首飾り》だ。
首飾りは古代王国の至宝で、炎の魔力を宿しているらしい。
王家なら喉から手が出るほど欲しがるだろう。
つまり、高く売れる。
竜の巣に到着すると、勇者が剣を抜き、エルフが弓を構える。
俺は【職業模倣】で宮廷魔術師に変身。
戦闘開始の号令と同時に、二人が竜に突っ込んでいく。
俺はというと……あえて戦場の外へ回り込み、竜の巣穴へ。
宝物庫を探すのは簡単だった。
溶岩の熱気と金属の匂いが漂う奥まった部屋――そこに首飾りはあった。
赤い宝玉を中心に、金の鎖が炎のようにゆらめいている。
魔力障壁が覆っているが、宮廷魔術師の知識をコピーした俺には関係ない。
魔法陣の逆起動を唱え、障壁を解除。
首飾りを外套の内ポケットへ滑り込ませた。
その頃、戦場では勇者が「トドメだ!」と叫び、竜の首を一閃。
巨体が地面に崩れ、山が揺れる。
エルフは矢を下ろし、額の汗をぬぐっている。
俺はタイミングを見計らって戦場に戻り、「遅れてすまない! 魔力を温存していた!」と息を切らせる。
勇者は「おお、助かった!」と信じ切っている。
……いい仲間だ、本当に。
首飾りのことは誰も気づかない。
竜の財宝は焼け落ちた、ということで話は終わった。
討伐報酬の金貨三千枚が分配される。
勇者は「資金を装備強化に使おう!」と言うが、俺は「必要経費だから」と軽く流す。
夜、野営の焚き火のそばで、俺は首飾りを取り出し、その赤い輝きを見つめた。
炎の光が宝玉に反射し、俺の顔を照らす。
……これは高く売れる。間違いなく。
異世界に来てから、もう二つの大物を手に入れた。
この調子でいけば、俺はこの世界で最も裕福な怪盗になれるだろう。
焚き火の炎が小さくなり、首飾りの輝きだけが夜の闇に残った。