第8話:離縁恋愛戦、開幕――私たちは、演技じゃない
場所は王都中央の《恋愛神殿》。
古代から続く「真実の愛」を審査する場。
今日、ここで“偽りの婚約”を解くための最後の儀式が行われる。
《恋愛儀式戦・離縁型》――開戦条件
対戦者A:セレスティア・ヴァルグレイス & 月宮梓
対戦者B:ルーク・アルトリウス(元婚約者)
勝利条件:
・セレスティアが本気で“別の相手”を想っている証拠を提示すること
・相手ペアの“恋愛値”がルークの“未練値”を超えたとき、儀式成立
「……正直、足が震えてます。これ、本当に私でよかったんですか?」
「梓じゃなきゃ、ダメだった。だから手を握って、前を向いて」
セレスティア様の言葉は、優しくも力強い。
そして、私たちはフィールドへと足を踏み入れた。
フィールドに満ちる魔力。
透明な空間が、恋愛神殿を包み込む。
《儀式起動》
それぞれの想いが、実体化します――
■ ルークの想い:
「昔みたいに、君と笑っていたかった。
それができるのは、俺だけのはずだった」
→《スキル:優しかった日々の記憶》発動
■ セレスティア&梓ペアの想い:
《心が交わる瞬間》発動
光がぶつかり合い、感情が渦を巻く。
「俺の知らない顔を見せるな……セレスティア。
それは、俺と過ごすはずだった未来だ!」
ルークの叫びが空間を揺らす。
「ルーク……」
セレスティア様は一歩前に出て、凛とした声で言った。
「あなたとの時間は、たしかに温かかった。
でも私は、今――彼女といるときだけ、未来を信じられるの」
ルークの“未練”が、ゆっくりと霧のように薄れていく。
「梓、いまよ。私たちの“本当の気持ち”をぶつけて」
「はい……! わたしは――」
《発動:まだ不完全な恋でも、あなたを守りたい(ハーフビリーフ)》
自分でも気づかぬ感情が、スキルとして具現化する。
真っ白な光がセレスティア様を包み込み、ルークの幻影を押し流していく。
儀式判定――
“恋愛値:97”
“未練値:86”
判定結果:勝者・セレスティア&梓。離縁成立。
「……ああ、そっか……君の笑顔、俺じゃ見られなくなったんだな」
ルークは最後に、どこか優しい声でそう言い残し、フィールドの外へと歩いていった。
戦いは終わった。
フィールドが静かに消え、神殿に夜の空気が戻ってくる。
「終わった、んですよね……?」
「ええ。これで、私たちは自由よ」
「じゃあ……この“恋人関係”も、もう演技じゃなくなったってこと、ですか?」
「ええ。そうね。これからは――」
セレスティア様は微笑み、そしてこう言った。
「本気で、よろしくお願いするわね。梓」
……その言葉に、私の心臓はまた、跳ねた。