第6話:さよならを告げたら、この関係は本当に終わってしまう気がして
「――婚約を、解消したいの」
セレスティア様の口から発せられた言葉に、ルークも、エマも、私も、息をのんだ。
場所は学園理事室。
セレスティア様の婚約は“王家直属の約束”であり、解消するには正式な手続きを経る必要があるらしい。
けれど。
「……理由は?」
ルークが訊いた。
声は低いが、その奥には静かな怒りと、戸惑いが混じっていた。
「もう、あなたを“婚約者”として見られないからよ」
その瞬間、ルークの表情がわずかに崩れた。
「他に、好きな相手でもできたか?」
「……そうかもしれないわ」
セレスティア様は、私の方を一瞬だけ見た。
ほんの一瞬だったのに、鼓動が跳ねたのは、私だけじゃなかったと思う。
「なるほど。ならば、“恋愛戦”でそれを証明しろ」
ルークが冷たく言い放つ。
「婚約解消には、正式な“恋愛戦離脱儀式”が必要だ。
相応の“想いの強さ”を示さなければ、王家は納得しない」
「わかってるわ。それで構わない」
「ただし――相手は、“そいつ”である必要があるのか?」
ルークの視線が、私に突き刺さる。
「……月宮梓。おまえが“セレスティアを奪った”というなら、
今度は正式に、“奪った責任”を証明してもらおうか」
なにそれ、そんな言い方って……
「責任とかじゃなくて……私は、ただ……」
でも、言い淀んだ。
私は、ただ“セレスティア様の偽の恋人”としてここにいるはずだった。
でも――
「……わたしは、セレスティア様のことが、好き……になってしまったかもしれない」
ぽろりと、こぼれた本音。
セレスティア様の目が、大きく見開かれる。
「梓……今のは……」
「ご、ごめんなさい! いや、たぶん気のせいです! 勘違いかも! 思春期の一過性のやつ!」
私は慌てて取り繕う。だけど、もう遅い。
エマは顔を赤らめて「本気なの……?」と固まってるし、ルークは無言で睨んでくる。
――もう後戻りできない。
次の戦い:正式儀式「離縁恋愛戦」
対戦カード:セレスティア様 & 梓 vs ルーク(個人)
勝利条件:セレスティアの「恋心」が梓にあると公的に認められること
ステージ:王都中央の恋愛神殿
特記事項:カップルとしての“真剣度”が試される、超高難度儀式!
「ほんとにやるんですか!? 私とペアで!?」
「ええ。あなたとじゃなきゃ、意味がないもの」
「で、でも私……たぶん、本気になってきちゃってますから……!」
「――それなら、なおさらよ」
セレスティア様はふっと笑う。
「私も、本気になる覚悟が必要だって、あなたが教えてくれたから」