第3話:悪役令嬢の“偽恋人”はじめました!?
「は?」
あまりの言葉に、私は思わず聞き返した。
「あなたに命じるわ。私の“恋人”になりなさい」
――え、なにこの展開。急すぎません?
「ま、待ってくださいセレスティア様! 私たちまだ出会って二日目ですし!」
「だからこそよ」
彼女は優雅に紅茶をすすりながら言った。
「“恋愛戦場”において、最も狙われやすいのは、“想い人のいない強者”なの。特に私のような“ヒロイン枠を壊す悪役令嬢”タイプは、周囲から敵視されやすい。だから、“誰かと恋愛している”というポジションが必要なのよ」
「そ、それで私を……?」
「そう。あなたはちょうど良いのよ。地味で目立たず、でも観察眼に優れ、忠誠心もありそう。なにより……恋愛慣れしてないから、私に惚れて足を引っ張ることもなさそうだし?」
「地味で目立たずは認めますけど、他はもうちょっとオブラートに!」
「冗談よ」
セレスティア様はフフッと笑った。その笑顔は、ほんの少しだけ、孤独そうに見えた。
「私には“婚約者”がいるの。けれど……あの男が、“私を本気で愛している”かは、わからない。だから、仮の恋人役が必要なの。駆け引きの盾としても、心の支えとしても」
私は黙った。
“恋”を戦いに使ってるこの世界で、セレスティア様もまた、何かと戦っているんだ。
「……わかりました。私でよければ、その“恋人役”、引き受けます」
気づけば、そう答えていた。
「決まりね」
パチンと指を鳴らすと、セレスティア様は学園の掲示板にデカデカと貼り出した。
【速報】
《ヴァレンティーヌ令嬢、付き人と恋仲に!?》
恋愛戦場に新たなカップル誕生。果たしてこの恋は本物か――!?
次の日。
私の机には大量のラブレターと、敵意のこもった紙くずと、何故かバラの花が届いていた。
「なんで私がこんな目に……!?」
「だって“悪役令嬢の恋人”って、それだけで一気に“恋の標的”になるのよ」
セレスティア様はまるで人ごとのように言った。
そのとき、教室の扉が開く。現れたのは、完璧すぎる美青年――冷たい銀髪に、琥珀のような瞳。
「セレスティア……これはどういうことだ?」
静かな怒気を含んだ声。
「……来たわね、“あの人”が」
彼女が呟く。
「紹介するわ。彼こそが、私の婚約者――ルーク・グランフォード。
この恋愛戦場において、“最も感情を出さない男”よ」
冷たい視線が、私を貫いた。
そして、始まるのは――
“嫉妬と偽装と本音の交差する三角関係”。