第14話:恋が目覚めるとき、傷ついた想いが力になる
「梓――!?」
矢の放たれた瞬間、セレスティア様の目が見開かれた。
けれど、彼女の前に立ちはだかったのは――
「ぐ……うっ……」
私、だった。
ほんの一瞬、無意識に体が動いていた。
それが“好き”って感情の力なのか、それともただの反射かもわからないけれど――
矢は梓の胸元で弾かれ、青白い光を放って砕けた。
「え……?」
「梓、今……あなたのスキルが……!」
セレスティア様が震えながら、私の手を取る。
《新スキル発現:恋盾》
恋心を代償に、最も大切な人を“無条件で守る”自動防御スキル
発動条件:命を賭けてでも守りたいという“覚悟”の成立
「恋のスキルって、こんなに……重いの?」
「重いけど、それはとても――美しいことよ」
セレスティア様は、私を強く抱きしめた。
だが、敵はまだそこにいた。
フードを脱いだその顔は――
王宮直属の〈恋愛統制官〉、カイン・ミルディナード。
「初対面だね。元・王配候補、セレスティア=レグルス嬢、そして“異邦の恋愛者”アズサ=ヒガシノ」
カインは静かに語り始めた。
「あなたたち二人の相性値は、あまりにも突出している。
王族を超える“適合率”を持つ恋愛体験は、世界構造を歪めかねない」
「それって……つまり……」
「君たちは、“愛しすぎてはいけない”存在だということだ」
にっこりと笑いながら、彼はナイフを抜いた。
「ここで恋が燃え上がるなら、まだ消せるうちに――摘む。それが僕の仕事なんだ」
「ふざけないで……!」
セレスティア様が杖を構え、光の矢を撃ち出す。
が、カインはそれを軽々とかわす。
「君の恋愛魔法も、分析済みだよ。次は、君の心を先に折る」
「やらせません……!」
私の声が響く。
心に浮かぶのは、セレスティア様の笑顔。
私にだけ向けてくれた、あのやさしい言葉。
震える手を握りしめる。
《恋盾:拡張モード 起動》
“共鳴防壁”発生――対象:セレスティア・レグルス、現在半径1m
「恋を、守るのは“正義”じゃない。
でも私は、あなたを守りたい。ただ、それだけです――!」
カインの攻撃は防がれ、彼は後退した。
「……面白い。君の恋は、まだ途中だ。なら、もう少し見守ろう」
彼は静かに退場し、空間から姿を消した。
残されたふたり。
沈黙のあと、セレスティア様が私の頬をそっと撫でた。
「……ありがとう。あなたに守られるなんて、思ってなかった」
「でも私……本当に、セレスティア様のことが……」
「――わかってるわ」
柔らかく唇が近づき、
ちゅっ。
額に、短く優しいキス。
「これが、私の“好き”の証よ」
「え……あ、額に……ってことは、次は……?」
「ふふ。楽しみにしていなさい?」
顔が、心臓が、全部熱くてたまらなかった。